八咫の聖人〜最強のはぐれ悪魔祓い〜   作:赤嶺

12 / 21
第十一話

はぐれ11 始動

 

コカビエル襲撃事件から数日が経過した。

 

あの後、ルシウスくんと黒歌さんは小猫ちゃんに何かを言って姿を消した。

 

ゼノヴィアさんも破壊されたエクスカリバーの核を回収してイリナさんを連れて教会に戻った。

 

それからは特に何も起きてないけど、ずっと心に引っかかっていることがあった。

 

それはルシウスくんと再会した時に言われた言葉。

 

──まだ、エリーザのことを信じてるの?

 

それがどうしても引っかかるんだ。

 

エリーザさんは僕の初めての剣の師匠だ。

 

もちろん僕だけでなく同志であったみんなの師匠で、とても優しい人だった。

 

ルシウスの兄妹であるルシエルさんやルシアちゃんもなついていたし、ルシウスくんも心を開いていた。

 

僕もなついていた子どもの1人だしね。

 

でも、ルシウスくんのものいいだと、エリーザさんも僕たちの受けた実験に加担しているように聞こえた。

 

確かに僕たちに剣を教えていたのだから、間接的に関わっているんだろうけど、ルシウスくんは主幹の1人だとでも言いたそうだった。

 

ありえない、と思う。

 

僕たちにあんな綺麗な笑顔を見せてくれた人──肉親のいない僕たちにとってお母さんのように姉のように暖かかった人があんな実験の主幹の1人だなんて。

 

エリーザさんのことはまたルシウスくんに会ったときに聞こうと思う。

 

それがどんなことでも。

 

エリーザのことの他にも気になることもある。

 

ルシウスの使い魔という黒歌さんの存在。

 

SS級はぐれ悪魔であり、小猫ちゃんのお姉さん。

 

絶滅寸前の猫魈(ねこしょう)といわれる猫又の妖怪の種族で、仙術使いだという。

 

なんでも力を暴走させ、黒歌さんの主を殺して小猫ちゃんを連れて逃亡。

 

その途中で襲撃されて小猫ちゃんをおいて逃げたとか。

 

そんな人がなんでルシウスくんと一緒にいて、今頃小猫ちゃんの前に姿を現したんだろう。

 

でも、敵意がなくてよかったと思う。

 

もし黒歌さんに敵意があれば、僕たちは全滅していたから。

 

SS級はぐれ悪魔

 

それは最上級悪魔と同じ戦闘力を有しているってことだから。

 

それも6年前のことだ。

 

6年前といえば小猫ちゃんは9歳。

 

そのお姉さんだからおそらく黒歌さんは10歳から20歳の間だと思う。

 

たった20年くらいしか生きていない黒歌さんが6年前にSS級として指名手配されたんだ。

 

いまはその頃よりずっと強大になっているだろう。

 

あの戦いのとき、学園にはシトリー眷属によって結界が張ってあったのにそれを壊すことなくすり抜けるのは相当なことだ。

 

壊すよりもすり抜けるほうがずっと難しい。

 

それもあの会長が張った結界なんだから。

 

最初に黒歌さんが現れたとき、戦いのなかだったから気にすることができなかったけど戦いが終わって小猫ちゃんを見たとき、

 

小猫ちゃんは震えていた。

 

やっぱり小猫ちゃんは怖かったんだ。

 

黒歌さんが暴走した時に小猫ちゃんはすぐそばにいたんだから。

 

まぁ、僕はほんの少しの嫉妬もあったと思うけどね。

 

あの時ルシウスくんは黒歌さんのことを「黒姉」と呼んでいた。

 

それって長い間姉弟のように過ごしてきたってことだろうから。

 

小猫ちゃんが1人で過ごしていた時に弟と一緒いたってことだからね。

 

それが実の弟じゃなくて、小猫ちゃんの知らない他人なんだからなおさらだと思う。

 

黒歌姉さまの兄妹は私だけって思ってるかもしれない。

 

だって小猫ちゃんはさみしがりの子猫なんだから。

 

 

 

今日はちょっとサプライズがあった。

 

先日教会に帰ったはずのゼノヴィアさんが駒王学園の制服を身にまとい、ソファーに座っていた。

 

僕の後からきたイッセーくんとアーシアさんも驚いていた。

 

ゼノヴィアさんは神の不在を知ってたことによって異分子になってしまったそうだ。

 

教会は異端をひどく嫌うからアーシアさんと同じように追放された。

 

追放されたところを部長が声をかけて悪魔になったという。

 

こういうのを悪魔のささやきって言うんだろうね。

 

部長は僕とゼノヴィアさんの剣士の2翼が誕生したと言って喜んでいた。

 

僕としてもデュランダル使いのゼノヴィアさんがいてくれるのは心強い。

 

最近敵が強くて僕1人だけじゃ部長を守りきれなくなってきたからね。

 

「……『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は堕天使側なのか?」

 

イッセーくんはゼノヴィアさんに『白い龍(バニシング・ドラゴン)』について聞いていた。

 

そうだ、コカビエルとルシウスくんの戦いに乱入した『白い龍(バニシング・ドラゴン)』。

 

感じた力はコカビエルよりも上回っていた。

 

ルシウスくんとも過去に戦ったこともあるみたいだし。

 

……返り討ちにされたみたいだけど。

 

「そうだ。アザゼルは『神滅具(ロンギヌス)』を持つ神器(セイクリッド・ギア)保持者を集めている。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』はそのなかでもトップクラスの使い手。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部を含めた強者のなかでも4番めか5番めに強いと聞く。すでに完全な禁手(バランス・ブレイカー)状態。現時点でライバルのキミよりも断然強い」

 

──4番め、か。

 

確かに上位に食い込むと思っていたけど相当強いね。

 

でも、それならあの『白い龍(バニシング・ドラゴン)』よりも強いオーラを放っていたルシウスくんはどれくらい強いんだろうか。

 

イッセーくんは大丈夫かな。

 

いつかは戦う運命だから、このままじゃ絶対負けてしまうよ。

 

ルシウスくんにも命狙われてるしね。

 

それからゼノヴィアさんはアーシアさんに『魔女』と言ったことを謝罪して帰っていった。

 

アーシアさんも笑顔で許していた。

 

やっぱり優しい子だねアーシアさんは。

 

ルシウスくんが好きになるのもわかるよ。

 

そしてゼノヴィアさんは帰る前、

 

『我が聖剣デュランダルの名にかけて──。そちらの聖魔剣使いとも再び手合わせしたいものだね』

 

と言っていた。

 

それは僕としても嬉しい誘いだ。

 

同志たちの思いによってなし得た『聖魔剣』だ。

 

僕も早く使いこなせるようにならないとね。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「──そうか。ゼノヴィアは悪魔になったんだ」

 

『そうなのよ!私に相談もなしになるんだから!どうしてかゼノヴィア、異分子扱いされてるし……』

 

「ゼノヴィアにも事情があるんだよ。次あった時に聞けばいいよ。それより──」

 

『うん。なんか三大勢力で和平を結ぼうとしてるみたい。このままだと私たちも悪魔や堕天使も他勢力から滅ぼされちゃうかもしれないから』

 

「なるほどね。和平か……。もっと早く結んで欲しかったな。そしたら──」

 

『ルシウスくん?』

 

「いや、なんでもない。それで、どこでその和平を結ぶの?」

 

『それがなんと駒王学園よ!ミカエルさまが行くんだって。私も護衛に選ばれちゃった!』

 

「へぇ、それはすごいね。おめでとうイリナ。それでイリナだけなの、護衛?」

 

『それが、《神の使徒(ヘヴン・アポストロ)》のメンバーが2人くるそうなのよ。私、ルシウスくん以外にあの機関に知り合いいないしどうしよう?』

 

「あそこのメンバーは濃いからね。第七位や第十位、第十一位は人としても完璧なんだけど第三位とかだと災厄だね。彼女は人の話聞かないから。第九位は研究者だから出てこないと思うし、第一位は論外。あれは気まぐれだから。来たらきたで大変だよ。第七位や第十位、第十一位がくるといいね」

 

『そうね。主に祈りを捧げておかなくちゃ!』

 

「……気を付けて。嫌な予感がするから」

 

『ありがとうルシウスくん!それじゃあ、またね!』

 

「うん、また」

 

ルシウスは携帯を閉じ、懐に入れる。

 

隣には黒歌が座っていた。

 

「どうだった?」

 

「和平を結ぼうと提案するみたいだよ。ミカエルが」

 

「なるほどにゃー。それがなれば確かにいまよりはずっと平和だにゃん。でも──」

 

「うん。イリナたちには悪いけど、僕たちは平和を壊す側だ」

 

ルシウスは悲しそうな声で言った。

 

「ごめん、アーシア。今度は敵同士かもしれない」

 

「私もにゃ。白音と戦わないといけないと思うと憂鬱にゃん」

 

「別に黒姉は僕に付き合わなくてもいいんだよ。僕は父さんと母さんの仇を討つためにやるんだから」

 

ルシウスの言葉に黒歌は笑って答える。

 

「別にいいにゃん。私はルシウスの使い魔。お姉ちゃんにゃん。ずっとルシウスのそばにいるにゃん」

 

「……ありがとう」

 

黒歌はそっとルシウスの後ろから抱きつく。

 

ルシウスは黒歌の温もりに冷え切ったルシウスの心を暖める。

 

それだけで、ルシウスは黒歌の存在がありがたかった。

 

ずっと、こうしていたいけど。

 

「──そろそろかな」

 

ルシウスが呟くと同時にあたりに霧が現れ始める。

 

「やあ。久しぶりだなルシウス。元気そうで何よりだよ」

 

霧のなかから声が聞こえ、ルシウスが声をしたほうに目に向けるとそこには2人の男が立っていた。

 

学生服の上から漢服らしきものを着た黒髪の青年。

 

学生服にローブを羽織った魔法使い風の青年。

 

声の主は漢服の青年だろう。

 

「……そっちも元気そうだね。曹操にゲオルグ」

 

「まあ、忙しいけど元気だよ。それより聞いたぞ。堕天使の幹部の1人、コカビエルと殺りあったんだって?羨ましいな」

 

「キミがコカビエルと殺りあったって聞いて曹操がうずうずしていてね。俺たちも苦労してんだよねぇ」

 

ゲオルグの言葉に曹操は苦笑いする。

 

「別に、羨ましがることじゃないよ。あれは弱かった。曹操なら2分もあれば殺せるかな。僕は1分くらいで動きを封じたし」

 

「そうか。では、それほどまでは警戒しなくてもいいかもしれないな」

 

「でも、『白龍皇』は前より強くなってた。多分、いまなら苦戦するな」

 

「負けるとはいわないんだな」

 

ルシウスの言葉に今度はゲオルグが苦笑いしながら言った。

 

「うん。言わない。苦戦するだけで負ける要素がないから」

 

「ハハハ。相変わらずだな。その強気。──さて、本題に入ろうか」

 

曹操はそう言うと先ほどまでの和やかな雰囲気を変えて、ルシウスを見る。

 

隣のゲオルグも同様にルシウスを見ていた。

 

「ルシウス・ランスロット。我々と来い。前にも言ったが、キミはこちら側の人間だ。きっとキミにとって居心地がいいはずだ」

 

「……曹操、お前は俺(・)の目的を知っているな?」

 

ルシウスも先ほどまでとは雰囲気が変わり、口調も変わった。

 

「ああ、知っている」

 

「なら、手を貸せ。そしたらお前の組織にも入ってやるよ」

 

ルシウスの言葉に曹操は笑顔になる。

 

「そうか!キミが入ってくれれば俺たちもずっとやりやすくなる」

 

「まだ入るとは決めてない。手を貸すなら、だ」

 

「ああ、手を貸すとも。それでキミが入ってくれるんだ。貸さないはずがない」

 

「俺たちはキミを高く評価してるんだ。キミが入ってくれるんだけで『彼女』も引き抜ける」

 

ゲオルグの発言にルシウスは一瞬固まった。

 

「……おい。『彼女』ってアイツのことか?あの優雅独尊なわがまま娘のことか?」

 

「ハハハ。彼女をそんな風に言えるのはキミだけだよ。でも当たりだ。キミが入るならこちらにつくと言ってくれた。そしていま、キミはこちらにつくと言ったんだ。いやぁ、これで戦力はだいぶ揃ってきたなぁ」

 

「……僕(・)入るのやめようかな……」

 

曹操とゲオルグのいう彼女が入ると聞いてルシウスはげんなりとする。

 

口調も元に戻り、いつもの子どもっぽさが戻る。

 

黒歌は先ほどまでのルシウスよりどちらかというと子どもっぽいルシウスが好きなため戻ったルシウスに嬉しそうにさらに強く抱きしめる。

 

「……相変わらずルシウスにべったりだな黒歌は」

 

ゲオルグは黒歌の様子にルシウスをほんの少し羨ましそうにしながら言った。

 

「当然にゃん。ルシウスは私の弟で、主で、何より恋人なんだから!」

 

「恋人は違うけどね」

 

黒歌の恋人発言にすかさず否定する。

 

「ところで、近々三大勢力が会談を行うそうじゃないか」

 

「よく知ってるね」

 

「ああ、三大勢力にも内通者がいるからな。おかげで俺たちも見つからずに動けている」

 

「ふーん、それで会談がどうかしたの?」

 

「なにやら『旧魔王派』の奴らがそれの邪魔をするらしくてね。俺たちはどうしようかと思っていたんだが──」

 

「僕がいいタイミングで彼らと関わりを持った」

 

曹操は笑顔で頷く。

 

「ああ、それもキミたちは当事者の1人だ。うまく潜り込めるだろう」

 

「……それで、僕にどうして欲しいのかな」

 

「話が早くて助かるな。なに簡単なことだ。アザゼルやミカエル、サーゼクスの力を測ってきてほしい」

 

「戦わなくてもいいさ。ただ、いまの俺たちに彼らを討てるのかどうか、それが知りたいんだ」

 

ルシウスは少し考えて、

 

「いいよ。アーシアにも会えるしね」

 

了承した。

 

「よかった。ところで、これから時間は空いてるか?」

 

「これから何かあるの?」

 

曹操とゲオルグは互いの顔をみあって頷く。

 

「歓迎会だ。新たなる2人の同志へのな」

 

「なるほど、顔合わせだね。了解。黒姉いくよ」

 

「了解にゃ」

 

ルシウスと黒歌の返事を聞いてゲオルグがさらに霧を濃くし始める。

 

あたり一体が真っ白になり晴れる頃には先ほどとは全く景色の異なる樹海の中にいた。

 

目の前には巨大は扉があった。

 

曹操とゲオルグで左右の扉の取っ手を持ちゆっくりと開いていく。

 

そこには何処か神秘的な神殿のようだった。

 

曹操とゲオルグはなかに入り振り返る。

 

そして曹操がこちらに手を伸ばす。

 

「ようこそ『禍の団(カオス・ブリゲード)』『英雄派』へ」

 

ルシウスはその手をとった。

 

曹操は笑う。

 

そして、

 

「さあ、我らは英雄。神殺しの偉業を成すとしよう」

 

 

 

 

 

ルシウスにはとどかない。

 

ルシエルとルシアの言った言葉の本当の意味を。

 

彼らはただルシウスに幸せになって欲しかった。

 

けれど、ルシウスが行くは茨の道。

 

2人の望む道とは真逆の絶望の道。

 

神の示した光を歩んできた青年は絶望の末はぐれとなり。

 

そして。

 

この世の全ての敵となった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。