はぐれ15
駒王学園のいたるところから戦闘音が聞こえる中、一際派手に戦闘を繰り広げている所があった。
そこは駒王学園上空。
片方は魔力を纏い悪魔の翼を羽ばたかせ、魔法を放つ妙齢の美女。
もう一方は放たれた魔法を片手でいなし、足元に魔方陣らしき淡い光を放つ陣を展開し、宙を飛ぶグラマーな美女。
二人の浮かぶ宙のしたにはその戦いに巻き込まれたのか『禍の団(カオス・ブリケード)』の魔術師たちが転がっていた。
「あら?こんなものなの、あなたの力は?あんな大きなことを言っていたからもう少しはやると思っていたのだけれど、期待はずれね」
「くっ、まさかこれほどの力を『神器(セイクリッド・ギア)』も持たないただの人間が持っているなんて……。できることなら私だけの力で屠りたかったのですが、こうなっては仕方ありません。セラフォルーに備えて準備していたのですが、使うとしましょう」
カテレアは懐から小瓶を取り出し、なかに入っていた小さな黒い蛇らしきものを呑み込んだ。
刹那──。
空間が激しく振動し、駒王学園全域に力の波動を波だたせる。
カテレアの纏う魔力が膨れ上がり、不気味なオーラを漂わせる。
それを見ていた女性は顔に男のみならず女おも見惚れさせる濡れた笑みを浮かべ───
天草四郎が出て行った後を自分たちもと追いかけた木場とゼノヴィアはただ、呆然と立ち尽くしていた。
目の前で繰り広げられるのは、戦闘ではなくただの蹂躙だったからだ。
『天魔の天秤(コンペンセーション・リブラ)』によって召喚された禍滅剣レーヴァンテインによる蹂躙劇は見るものを狂わせるほどに圧倒的だった。
ボロボロの木の枝のようだったレーヴァンテインは四郎が聖素(魔力)を流し込んだことにより、その姿を変え黒をベースとした赤の入った3メートルほどの大剣へと姿を変えていた。
赤黒い焔(ほのお)を纏わせたレーヴァンテインはその一帯の施設を焼き尽くすことなく命ある生命のみを焼き尽くしていく。
焔に触れれば瞬時に全身へ広がり焔を消そうと魔術をかけても消えることは無い。
その焔は禍滅剣レーヴァンテインを振るった者の意思を汲み取りその者の破壊対象のみを焼き尽くす呪いの焔。
対象を焼き、尽きるまで決して消えない焔は必殺の焔。
かつて北欧の地にて振るわれたと言われる巨人スルトの剣。
神をも殺す神殺しの剣に少しばかり魔術を使えるような人間に相対することなど出来はしないのだ。
一太刀振るえば、数人が腕を斬られ燃え尽くされ、足を斬られ燃え尽くされ、胴を斬られ燃え尽くされ、斬られ、擦り、刺さり、切断され、魔術師たちは禍滅剣レーヴァンテインによって燃え尽きていった。
後に残ったのは何も無い。
灰さえ残らず燃やし尽くされた。
そんな光景を目のあたりにして、2人が何より恐怖したのはレーヴァンテインではなく、それを振るった天草四郎にだった。
特にゼノヴィアからしたら恐怖と信じられないといった感情が溢れていた。
主の信者であるはずの人物がなぜ敵を殺すことで笑顔を見せると。
天草四郎は魔術師たちを斬っているあいだ、常に笑みを浮かべ続けていた。
会談の時に見せていた笑みではなく本当に楽しそうに。
それがゼノヴィアには信じられなかった。
確かに主の敵を自らの手で屠ることができることは信徒としてはこれ以上ない幸福だろう。
だが、それでもそれを浮かべるのは戦いを始める前であり、終わった後だ。
それも殺せたことが嬉しいのではなく、主の役に立つことが出来たから、浮かべるのだ。
戦闘の中で心からの笑みを浮かべるのはフリード・セルゼンといった異端者のみ。
あのルシウスさえ、戦闘では笑みを浮かべることは殆ど無かった。
コカビエルのときは復讐対象の1人が目の前にいたからだ。
しかし天草四郎は斬ることが楽しいとでも言うかのような笑みを浮かべ次々と殺していった。
なぜこんな奴が主の剣である『特務機関イスカリオテ』『神の使徒(ヘヴン・アポストロ)』のメンバーに成れるのだと思う。
もし、この惨状を作り出したあれが主のためにやったと言うのならそれは、きっと……
そんなことを思っているとここに来る前に、目の前の化け物のことを言っていたルシウスの言葉を思い出す。
『僕よりも化け物じみてる』
『400年の時を生き、いまなお神を信じる狂信者』
ああ、なるほど。
確かにあれは化け物だ。
400年もの永い年月を主に捧げ、悪魔を堕天使を主の敵を屠ってきたのだ。
人の身で、神や熾天使に認められし聖人(ホ・ハギオス)でも無い、ただの人間でありながら。
あれが狂信者で無いはずが無い。
永き年月で信仰は狂信へと変わり、神へ捧げる勝利はいつの間にか自分自身の欲望を満たすためとなった。
天草四郎自身はきっと気づいてはいないだろう、とゼノヴィアは思った。
目視できる範囲の魔術師の排除が終わり、天草四郎はレーヴァンテインを振るう腕を止めた。
視線は次の獲物を探しているのかキョロキョロしていてゼノヴィアと木場には目もくれない。
2人はとりあえず、イッセーとリアスのところへ向かおうと足を進めようとして、身を感じたことの無い魔力が襲った。
その魔力の元をたどるように視線をずらせば感じた魔力は先ほどから激しな戦闘が繰り広げられていたところからだった。
何があった。
2人はリアスたちのところに行くのをやめ、ここで最も激しな戦闘が起こっている場所へ、カテレアと戦っている女性の元へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あちらで戦っているのは確か、彼女でしたか。
相手は旧魔王の末裔、レヴィアタンのカテレア。
先ほど見た限りでは、油断さえなければ、さして脅威と思えるほどではありませんでしたが。
いまは凄まじいほどの魔力を放っていますね。
これほどの魔力を感じたのは昔戦った悪魔以来です。
人間を死へといざなう7つの大罪。
強欲の罪を司る大悪魔。
アルセンテ・マモン。
彼はなぜ魔王では無いのだというほどの強さでしたし、実際、私は倒すことは出来ませんでした。
もし、私が感じたこの魔力の持ち主が本当に彼と同クラスであるならば、彼女は負けるかもしれませんね。
ならば、援護した方がいいでしょう。
彼女は嫌がるとは思いますが、天に召されるかもしれないのです、許してくれるでしょう。
幸いいま私の手元にはレーヴァンテインがありますから、あのときほど苦戦することは無いでしょうしね。
それでは、行くとしましょう。
待っていてくださいね、私の姫。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「君は行かないのかい?」
四郎や木場、ゼノヴィアが魔術師の掃討に出ていってしばらく経った頃。
目を閉じて座っているルシウスにサーゼクスが問うた。
ルシウスはそれに目を開かず、口だけを動かす。
「僕の出番じゃ無いよ。天草やアイツが出張ったんだから」
それに手は出すなと曹操に言われたしね、と心の中で言った。
「しかし天草くんはともかくカテレアを相手にしている彼女は危険じゃ無いのかい?」
「うんうん☆カテレアちゃん、私たちより劣るといっても悪魔の中では最上位に位置する力はもってるもん。聖人(ホ・ハギオス)のきみみたいに人間やめないと勝てないと思うなぁ」
2人のいいようにルシウスは目を開き、笑った。
「アッハッハー!面白いこと言うね。アイツが負ける?ナイナイ。さっき天草を化け物っていったけど、アイツも十分化け物だから。僕と同じ聖人(ホ・ハギオス)になる?そうなっちゃったらアイツに勝てるやつ、いんの?ってレベルだよ。まぁ、見てなよ。アイツは、メルティリアは勝つよ。それはもう、アッサリと」
だって──
『僕に勝てるようになったら、少しは考えてあげる。キミのものになるの』
『本当ね!約束よ!』
『うん。そのかわり、僕に勝てるようになるまで、負けたらダメだから』
『えぇ!モチロンよ!だってあなたに勝てる者なんているはず無いもの!そのあなたに勝つ私は負けるはず無いわ!』
『そう。なら約束』
『えぇ、約束よ』
「──そう、約束したからね」
堕天使の総督アザゼルは魔術師の排除を行っていた。
頭の上に掲げた右手には光の槍が無数に浮かび、魔術師たちに降り注ぐ。
アザゼルは魔術師たちを見るまでもなく、次々と殲滅していった。
現在アザゼルが気になることは2つ。
ひとつはカテレアの相手をしている『御子』のこと。
途中までは互角に戦えていたようだが、いまはカテレアの魔力が爆発的に上がり、果たして御子が勝てるのか、ということ。
アザゼルの知っている御子のことといえば、『神の使徒(ヘヴン・アポストロ)』のひとりであり、教会に属しているにもかかわらず、神を信仰せずそれでいて複数のプロテスタント教会を手中を収める魅惑の美女。
垂れ目で優しい眼差しをしていて、ぷっくりとした桜色の唇は触れただけで気持ち良さそうで、柔らかい笑みを浮かべている。
おっとりとした雰囲気は周りを安心させ、教会のプロテスタントたちが彼女に着いたのもなるほどな、と思わせる。
そしてアザゼルが彼女にもっとも興味を抱いたのはその肉体。
出るところは出て引っ込むところは引っ込む。
その豊満なボディには女好きのアザゼルにはたまらないものだった。
神話の女神が舞い降りたかの姿にアザゼルは是非とも夜を共にしたいとも思ったほどの女。
実際これまで生きてきた中で彼女ほどの美貌を持つ者は見たことがなく、天界一の美女と名高いカブリエルと彼女のどちらが美しい、と聞かれれば彼女を選んでしまうだろう。
性格はともかく、いままでの人生でもっとも魅力を感じた彼女が気になっていた。
もうひとつは何故ここが襲われたのか。
これは公式とはいえ、極秘の会談だ。
それが何故テロリストに知られているのか。
考えられる可能性として大きいのは裏切り者がいるかもしれないということ。
堕天使でこの会談を知っているのは『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部のみ。
悪魔も天使もトップとその周りの者だけだろう。
ならばどうやって知り得たか。
裏切り者がいるとしか思えなかった。
だとすればどの勢力から裏切り者が出たのか。
仮に自分たち堕天使側だとすれば誰なのか。
考えられるのは2人。
しかし片方は先日の件で『地獄の最下層(コキュートス)』に永久冷凍され、このことを知るすべは無い。
だとすればもう1人。
『白龍皇』ヴァーリ。
アイツならやりそうだと思う。
もともと戦闘好きの性格だ。
さぞかしいまのこの世界は退屈だろう。
だが、何故このタイミングで?
これまででも裏切る機会はいくらでもあったはずだ。
しかし、今日までなんらアクションはなく、平和といえば平和な毎日だった。
アザゼルとしてもこのまま平和がずっと続けばいいと思っていた。
だが、先のコカビエルの一件から平和から遠ざかり始めた。
『赤龍帝』と『白龍皇』が出会ってから。
だとするとこのタイミングだからこそ、裏切ったのか。
平和な日常から解放されるために待っていた運命の宿敵。
その宿敵はあまりにも弱く、戦いにすらならないと分かってしまったから。
──いや、まだわからない。
ちょっとしたら考えすぎなのかもしれない。
ヴァーリは裏切ってなどおらず他の勢力の者かもしれない。
情報が何処かからもれそれが偶然テロリストどもに掴まれたのかもしれない。
アザゼルにとってヴァーリは息子のようなものだ。
自分の考えを打ち消すように頭を振り苦笑いを浮かべた。
だが。
──あぁ、やっぱりそうか。
突如として背後から強烈なさっきを浴び振り返ると白銀の鎧を身に纏いまばゆい光とともにアザゼルを殴り飛ばした。
ギャスパーを助けに来たイッセーとリアスは目の前の惨状に戸惑っていた。
大勢の魔術師がいるからと気を張って来てみれば魔術師たちはすでに何者かによって殺されていた。
ギャスパーと小猫の姿はなく、部室にいないことから旧校舎内を捜索する2人。
捜索をすること5分。
魔力を感知しようにも旧校舎内に漂う魔力が乱れていて魔力による捜索ができなかったがために2人は別れ捜索し、ギャスパーのみをギャスパーの引きこもっていた部屋で発見した。
ギャスパーは魔術師の血によるものなのか赤く染まり気を失っており、神器(セイクリッド・ギア)による暴走も止まっていた。
ギャスパーと小猫を助けるために来たのに来てみれば全てが終わっていたことに安堵とともに困惑するが、まだ小猫が見つかっていない。
イッセーは気絶したギャスパーを背負い小猫の捜索を再開しようとしたところに目の前に何かが落ちて来た。
『禍の団(カオス・ブリケード)』の魔術師たちから離れ、戦闘の被害の無い静かな場所に一つの人影があった。
その人影は背中に白い髪をした少女を背負い、戦闘の起こっている場所からなるべく遠ざかろうと走っていた。
人影はしばらくして背負っていた少女を下ろし、多少傷ついてはいるが、いまは気を失い眠っている少女の顔をみて安堵の顔を見せる。
「よかった……」
それもすぐにしまい少女の体に手を当てて仙術を使う。
少女の体内の気の流れを整え、傷が少しでも早く治るようにと。
仙術を使い始めて数分で目を覚ました少女は周りを見渡して視界に黒い髪が映り込んでから動きを止めた。
長い黒髪に黒い猫耳。
着崩した着物にそこから覗く白く大きな胸。
ゆっくりと少女は視線を目の前の女性に動かせば、少女の目に映ったのは目に涙をため、悲しそうに、嬉しそうに、笑う姉の姿だった。
「……どうして、姉さまがここに……?」
そう黒歌に問いかけたところで、どうして気を失っていたのかを思い出す。
そうだ、私は確か魔術師らしき人たちに襲われて……。
突然部室に乱入してきた魔術師たちとの戦いが突如として始まり最初は善戦していた。
しかし、相手は多くその上足手まといのヘタレヴァンパイアを庇いながら戦うことはいまの小猫にはまだ早かった。
あっという間に押し切られ、殺されるというときに小猫の耳に懐かしい声が聞こえてきたのだ。
「白音ぇぇぇえええ!」
その声の主は瞬く間に魔術師たちを殲滅。
小猫はその様子を薄れゆく視界でぼんやりと眺め、気を失ったのだ。
「……姉さまが助けてくれたんですね」
「……うん」
「……どうしてですか?私なんて姉さまからしたらどうでもいい存在なのに」
「そんなこと無い!」
小猫の言葉に黒歌は大声を上げる。
「だったらなんで、なんで私をおいて、いなくなったりしたんですか……⁉︎」
小猫の目元には涙がたまり目が赤くなっている。
黒歌は小猫を見て、何かを言おうとしてやめた。
「……どうして、何も言ってくれないんですか?私の前から勝手にいなくなって、私はずっとずっと独り。ようやく、立ち直れたのに姉さまはまた、私の前に現れた。何がしたいんですか⁉︎私が苦しむのが見たいのですか⁉︎」
黒歌は何も言わない。
言えない。
たとえ、どんな理由があったとしても小猫を独りにしたことに違いは無いのだから。
小猫がどんなにひどい言葉を浴びせようと何も言い返さない黒歌に小猫は口を閉じて、静かに涙を流す。
「……何か、何か理由があるんですよね?姉さまが、私をおいて行くような。……だって、あんなに優しかった姉さまが私を捨てるはず無いから」
小猫の涙声に黒歌はゆっくりと口を開いた。