八咫の聖人〜最強のはぐれ悪魔祓い〜   作:赤嶺

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間話

はぐれ メルティアメモリー1

 

メルティリアが『彼』に出逢ったのは、メルティリアがまだ九つで『彼』が七つの時だった。

 

 イタリアのとある小さな村。

 

 そこにひっそりと建てられた教会と孤児院。

 

 捨て子のメルティリアは、その教会運営の孤児院で生活していた。

 

 孤児院にはメルティリアと同じように捨てられた子どもから両親が殺された子ども、事故にあって失った子どもとさまざまな孤児たちが生活しており、裕福とはいえなかったが皆仲がよく幸せだあった。

 

 ただ、普通の孤児院とは違うのは運営が裏の教会であり、孤児たちが皆異能の力を宿していたことだろう。

 

 メルティリアでいえば『言霊・神言』。

 

 泣き虫メアリーはダイアモンドを涙として流す『創造(クリエイト)金剛石(ダイア)』。

 

 ガキ大将マークは身体に雷の力を纏う『天衣・雷獣』。

 

 他の子どもたちも神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる神の創りし超常の力など異能の力を持っていたこと。

 

 表向きには身寄りのない子どもたちを保護するためのものであったが、本当の目的は違った。

 

 ここは未来の悪魔祓い(エクソシスト)を作り出すために作られた孤児院だった。

 

 そんな孤児院に『彼』が訪れたのは雨の降っている日のことだった。

 

 メルティリアたちは雨が降っていたことから外に出ることが出来ず、訓練も終わって暇を持て余していたのでシスターのお手伝いをしていた。

 

 子どもたちにとってシスターは母親同然でその母親のためにがんばろうと、よくお手伝いをしていたのだ。

 

 孤児院の隣に建てられた教会の掃除をして、終わると皆で一緒に主への感謝を伝えるために聖歌を歌っているときに、『彼』が、彼らが来たのだ。

 

 外からは雨の音が聞こえる中、そこに雑音が混ざり始める。

 

 雨の中を歩く足音。

 

 何かを引きずる音が聞こえた。

 

 悪魔祓い(エクソシスト)の候補といってもメルティリアたちは十にも満たない子ども。

 

 まして教会は普段人が寄り付かないようなところに建てられ、雨も降り日が暮れた夜といってもいい時間に教会に来る人などいままで皆無だった。

 

 初めてのことに、その音に怯え、皆で抱き合って教会の隅で震える。

 

 早くどっかに行って欲しいと、震えながら子どもたちが思っているとその音は教会の扉の前で聞こえなくなった。

 

 しばらくして、扉をたたく音とともに声が聞こえてくる。

 

「すみません」と。

 

 まだ幼く少女のようなものだったがどか強い意志を感じる声だった。

 

 子どもの声にハッとなってシスターは扉を開けるとそこにいたのは三人の子ども。

 

 雨の中かさもささずに歩いてきたのだろう。

 

 服はビショビショで身体をわずかに震わせていた。

 

 その震えが寒さからだけでなく、何か大切なものを失ってきたものだとはこのときシスターは気づかなかった。

 

 シスターが「さあ、お入り」と教会の中に入るよう促しても彼らは入ろうとしない。

 

 シスターが不思議がって理由を尋ねると、扉を叩いたであろう少年が口を開いた。

 

 「母さまと父さまを休ませて上げたい」

 

 シスターは近くに親がいるのかと聞くと少年は視線を少年よりも幼い少年と少女のほうに向けた。

 

 そのすぐ傍には引きずってきたものらしき二つの塊。

 

 少女はその塊に縋り付いて顔を伏せ、もう一人の少年はただ立ち尽くしているだけだった。

 

 その様子にシスターが怪訝そうに近づき、少女が縋り付いているものを見てヒッ、と小さく悲鳴を上げた。

 

 メルティリアはシスターの様子に自分も近づいて、それが何なのか、わかった。

 

 わかってしまった。

 

 少女が縋り付いているもの。

 

 それは、死体だった。

 

 おそらくこの兄妹の両親であろう二人の死体。

 

 四肢が欠け、胸に風穴が開いた死体。

 

 肩から腰まではしった斬り傷、そこからこぼれる臓物に同じく胸に風穴が開いた死体。

 

 この時代普通の人ならば一生に数度眠っているような綺麗なもの見るだけ。

 

 不幸な人でもここまでのものを見ることなどまずない。

 

 だというのにこれほどまでに惨絶な死体を見たメルティリアはシスターと同じように悲鳴を上げそうになる。

 

 けれど。

 

 メルティリアは上げることはなかった。

 

 目の前に立ち尽くす少年を見てしまったから。

 

 時間も遅く雨も降っていたこともあってあたりが暗く気がつかなかったが、目の前の少年は雨だけでなく赤く鉄臭いもの、血を浴びていた。

 

 元は兄であろう少年や少女のような髪色をしていたであろう紙は血を被り紅く染まっていた。

 

 少年を血で染め上げたその姿はひどく美しく映った。

 

 他の人が見れば悲鳴を上げるだろうその姿がメルティリアには美しく見えたのだ。

 

 そう、あれは。

 

 神々しい美しさなんかじゃなくて、もっと別の……そう、悪魔(・・)のような禍々しく妖しい美しさだった。

 

 メルティリアはそんな少年に見惚れていると後ろから、「こんなこと誰が……」とうめくような声が聞こえてきた。

 

「……堕天使に襲われました。母さまと父さまは、俺たちを守るために……」

 

 少年兄が悔しそうに言い、少女は泣き声をいっそう大きくした。

 

 少年弟は何も言わずただ呆然とそこに立ち尽くすだけだった。

 

 だが、両親を引きずってきてからずっと両の手には両親の手をつかんだまま離そうとはしなかった。

 

 

 

 三兄妹は教会ではなく孤児院に通され、そこでシャワーを浴びた。

 

 雨の中を傘をささず歩いてきたのだ、風邪を引かないようにとシスターが浴びさせたのだ。

 

 三兄妹はシャワーを浴び終えると談話室に通されそこでシスターが来るのを待っていた。

 

 あれから時間も経ち少女は泣き止んでいたが、目を真っ赤に腫らしていて、少年弟は目がうつろで表情には感情を写してはいなかった。

 

 そんな二人を少年兄は励ましていた。

 

 自分も親を失ったというのに弟たちを励ます少年兄の姿にメルティリアはすごいと感嘆する。

 

 私を同じくらいなのに、私なんかよりずっと大人だ、と。

 

 この談話室には三兄妹のほかにはメルティリアしかおらず他の子どもたちはシスターに連れられ広間の布団に寝かせられているだろう。

 

 シスターがいまだ来ていないのも子どもたちを寝かしつけるためだ。

 

 メルティリアはこの孤児院では最年長の子どもの一人でシスターからも信頼されていた。

 

 ついでにいうならば悪魔祓い(エクソシスト)候補としての評価の一番であり、この孤児院の実態を知っている司祭たちからの覚えもよく、近じかこの孤児院を出て悪魔祓い(エクソシスト)見習いとして活動することも決まっていた。

 

 そのため三兄妹の世話をシスターに頼まれ、いまこうして談話室にいるのだ。

 

 メルティリアは三兄弟の様子に声をかけることはやめて、三人を観察する。

 

 少年兄を見て、少女を見て、そして、少年弟を見る。

 

 改めてじっくり見て思うのは、この三兄妹は美形だということ。

 

 三兄妹の共通点といえば、銀髪碧眼だということと、顔立ちが整っているということ。

 

 他といえば少年兄は右の目尻に泣き黒子があり、少年弟と少女は左の目尻に泣き黒子があること。

 

 そのおかげかとてもやさしいまなざしをしていた。

 

 まだ十にも満たないでこれなのだから将来は異性を魅了することは間違いないとメルティリアは確信して思えた。

 

 現にまだ幼い少年弟にときめいてしまっているのだから、より確実だろう。

 

 少年弟を見つめ、ふと違和感を感じた。

 

 先ほど見たときは顔に刻印(・・)のようなものが刻んであるように見えたのだ。

 

 しかし、いまはその刻印がない。

 

 きっと、暗がりでしかも血を被っていたから見間違ったのだろうと、深く考えずにその違和感を流した。

 

 しばらくすると、シスターが入ってきた。

 

 少年兄が立ち上がり頭を下げる。

 

 少女も兄を見習って頭を下げたが、少年弟は周りを見ていないのかそのうつろな目を壁の一点へと向けたままだった。

 

 シスターはそれに笑顔で応え、座らせる。

 

 それからは少年兄から事情を聞きはじめた。

 

 その間メルティリアはすることがなく、少年弟を眺めていた。

 

 先ほどの禍々しく悪魔を連想させた美しさはもうなくなっていたが、今度は神が創った造形品のような姿に、ほほを赤くする。

 

 触れたら壊れてしまいそうな儚い姿。

 

 そこでさらにまた違和感を感じた。

 

 目の色がはじめて見たとき紅色だった気がするのだ。

 

 しかしいまは碧色で、首をかしげる。

 

 疲れているのだろうかと、額に手を当ててため息をついた。

 

「―――そんな、ありえないわ……」

 

「本当です。本当に弟が、ルシウスが殺しました」

 

 メルティリアの元に声が聞こえてきた。

 

 ルシウス?

 

 それに殺したって?

 

 聞いたことのない名前に物騒な単語を聞き、シスターたちの会話を聞くために耳を澄ます。

 

 そこでわかったのは、三兄妹が堕天使に襲われたこと。

 

 そこで両親が三兄弟を庇って死んだこと。

 

 ルシウスという男が堕天使と戦い、堕天使を殺したこと。

 

 メルティリアが気になったのはそのルシウスという男についてだった。

 

 少年兄の口ぶりから少年兄はルシウスじゃないことがわかった。

 

 少女のほうもルシウスは男の名前だから除外する。

 

 残ったのは目の前の少年弟と第三者の介入だった。

 

 他の二人と違ってその実に返り血を浴びていた少年弟。

 

 目の前で殺されたといえばそうなのだろうが、それはちがうとメルティリアの勘が告げていた。

 

 誰かが三兄妹を助けたのなら、ここまで送るだろう。

 

 しかし、ここにきたのは三兄妹だけ。

 

 つまりは助けはなかったと思われる。

 

 目芸者を堕天使が逃がすとは思えない。

 

 ならば、少年弟がルシウス?

 

 たしかにそれならいくらでも説明はついた。

 

 どうして少年弟だけが返り血を浴びていたのか。

 

 それは、少年弟が殺したから。

 

 どうして他の二人とは違ってここまで感情が見えないのか。

 

 人に似たものを殺して、感情が死んでしまったから。

 

 これは他の二人より精神が強くなかったからかもしれないが、メルティリアにはそうは思えなかった。

 

 なら、少年弟はルシウスで、堕天使を殺したのもこの少年弟になる。

 

 メルティリアの思考がそこに行き着いたとき、心の中で歓喜していた。

 

 人間よりもずっと強い堕天使を殺したのが少年弟とわかったから。

 

 その美しい容姿のみならず、力まであるとわかってとりよきめいたから。

 

 メルティリアはルシウスが殺したのは下級の堕天使と思っているが、ルシウスが殺したのは四対八翼の堕天使。

 

 つまり上級堕天使を殺しているのだ。

 

 あとからルシウスの妹であり、メルティリア自身の親友となるルシアに聞いてよりルシウスに惹かれていった。

 

 メルティリアは少年弟をルシウスと結びつけ熱い視線を少年弟―――ルシウスに向ける。

 

 しかし、ルシウスの目はよどんだままメルティリアを写してはいなかった。

 

 その様子に少し顔をしかめるが、すぐに表情を戻し早速自己紹介をしようと話しかけた。

 

「わたしはメルティリア。メルティリア・クレオパトラよ。アナタたちの名前も教えて欲しいわ」

 

「えっと……ルシア、です。家名は、その……」

 

「ああ、言えないのならいいわ。事情もあるだろうしね。よろしくね、ルシア」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

「それでアナタは……」

 

「……」

 

 メルティリアが話しかけても何の反応も示さないルシウスにルシアが怒る。

 

「ほら兄さん!自己紹介!メルティリアさんに!」

 

「……ルシウス・ランスロット」

 

「……えっ?」

 

 ルシウスの口殻から出た家名にメルティリアは驚愕する。

 

 ランスロット……それって……。

 

「兄さん!家名は言ったらだめだって言われてたでしょ!」

 

「……もう、関係ないよ」

 

「っ!?……そんなこと、いわない、で……」

 

 ルシアの反応でランスロットの姓が偽りでないことがわかった。

 

 メルティリアが知っているランスロットはかの有名な『アーサー王伝説』の円卓の騎士、サー・ランスロット。

 

 いまはフランスに本殿を構えた古き一族ということだけ。

 

 そんな英雄の子孫が目の前にいることを知って運命を感じた。

 

 メルティリアは名前からわかるとおりクレオパトラの子孫である。

 

 自分と同じ過去の英傑の子孫はメルティリアは見たことがなく、他にもいたことがうれしくなった。

 

「ルシウス・ランスロットね。じゃあルシアはルシア・ランスロットね」

 

「はい。その、教えられなくてすみませんでした」

 

「気にしないで。ランスロット一族なら隠されても仕方ないわ」

 

「はい……」

 

「フフフ、そんな気を落とさないの。さて、ルシウスもよろしくね」

 

 そっと手を差し出す。

 

 ルシウスの目がその手を捉え、しばらくしてそっと手を握った。

 

「……よろしく」

 

「っ!?……」

 

 握られた手を見つめて頬が緩むのがわかった。

 

 ダメもとで差し出した手をまさか握ってくれるとは思っていなかったメルティリアは飛び上がりたい思いだった。

 

 しかしここで飛び上がれば、おかしな人と思われてしまうため自粛した。

 

「これから仲良くしてねルシア、ルシウス!」

 

 

 

 これがメルティリアと『彼』ルシウスの出逢い。

 

 この記憶はルシウスからは消え去り、覚えているのはメルティリアただ一人。

 

 ルシアは『皆殺しの大司祭』によって命を落とし、ルシウスはこれから出逢う運命の人によって忘れ去ってしまうからだ。

 

 けれど、たとえメルティリア覚えているのが一人になったからと忘れさろうとはしない。

   

 これから起こる悲劇の日に誓ったのだから。

 

 

 

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