はぐれ8
ルシウスと協力関係を結んだ木場はルシウスに今日は休むよう言われ、携帯番号等連絡先を伝え、自宅に帰った。
ルシウスと黒歌もコカビエル戦に備えてホテルで休んでいた。
「エルから聞いたのだと、フリード・セルゼンがエクスカリバーを所持してるらしいね。いやぁ懐かしいなぁフリードかぁ」
ルシウスはフリードと面識があった。
教会の任務のときに一緒に組んでいた時期があったのだ。
フリードがはぐれになるまでずっと。
そのため互いの戦い方をある程度は知っている。
少しは苦戦するかもしれないなぁとルシウスは思った。
「ルシウス戦いづらいなら私がやろうか?一時的にでもタッグを組んで任務に出てたんだし、情があるなら代わったほうがいいにゃん」
黒歌はルシウスに提案する。
これ以上ルシウスの心が壊れてしまわないように。
いまは安定しているが、不安定なときなにをするかわからないのだ。
ただいえることは、ルシウスの不安定な状態なときには敵も味方も認識せず目に入ったら焼き殺す(・・・・)ということ。
それでどれだけ町に被害が出ようとも。
だから極力心の負担になることは避けたかった。
「いいや、僕が殺るよ。フリードには借りもあるからね。戦うときはアロンダイト以外の武器にしないと」
もしルシウスがフリードとの戦いになったらアロンダイトではなく別の武器で殺すと決めた。
ルシウスはフリードにアロンダイト以外の聖剣や魔剣、聖装や魔装を見せたことがない。
だから初見のもので完封するとしよう。
「それはそうとさっき言ってたけど黒姉も参加するの?司祭狩りとか堕天使狩り」
「私は堕天使狩りがいいにゃん。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部クラスとは戦ったことないから、少し楽しみにゃん♪」
「そうだね。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部クラスの化け物とは戦ったことないしね。僕はデュリオがそのクラスだと思うから一応あるけど」
「ジョーカーといえばルシウスよく模擬戦やってたにゃん。だいたい引き分けだったみたいだけど」
「うん。デュリオは強いから。僕は近接型だけどジュリオは遠距離だしね。『神滅具(ロンギヌス)』かぁ。羨ましい」
ルシウスの羨ましい発言に黒歌は呆れた。
「ルシウスの『神器(セイクリッド・ギア)』も十分脅威にゃ。なんで『神滅具(ロンギヌス)』になってないのかってぐらいにゃ」
「ガブリエルさまの言うことだと新種らしいから。いままで発見されてない『神器(セイクリッド・ギア)』が宿ってるってのは嬉しいけど、僕は『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』がよかったなぁ。……それさえあれば神を串刺しにするのに」
「贅沢言わないにゃ。それにさっきも言ったけど十分ルシウスの『神器(セイクリッド・ギア)』も凶悪なものなんだから。ルシウスがこれを使って勝てる奴なんていないにゃ」
「そうかな?」
「そうにゃ」
「そっか」
ルシウスは黒歌に言われて微笑を浮かべる。
そこからは無言で使うであろう武器の準備を整えていった。
準備が終わり一息ついているとルシウスのiPhoneから音が鳴る。
画面を見るとゼノヴィアと映っていた。
「ゼノヴィア、何かあったの?」
『私とイリナで仕掛けた』
ゼノヴィアの口にした言葉にルシウスは目を細める。
「へぇ、それでどうだった?無事回収できた?」
『いや、返り討ちにあった。コカビエルがいない隙に回収しようと仕掛けたんだが、コカビエルが中にいてね。……イリナがやられた。エクスカリバーもイリナのが取られてしまったよ』
ゼノヴィアも後半に差し掛かり声を低くした。
「殺されたの?イリナは」
『いや、殺されては無いと思うが、わからない。私も撤退に必死でね』
「そうか。それでいまコカビエルはどこに?」
ルシウスの声からは若干の怒気が感じられ、ゼノヴィアは少し嬉しくなる。
まだ私とイリナはルシウスの大切に入っているんだとわかったから。
『リアス・グレモリーから連絡があった。どうやら奴は駒王学園で事を起こすらしい』
「わかった。僕は駒王学園に向かうよ」
『了解。そこにバルパー・ガリレイもいるはずだ』
ゼノヴィアからの連絡が終わると、ルシウスの顔には残虐な笑みが浮かんでいた。
「黒姉、行くよ。駒王学園だ」
「わかったにゃ」
ルシウスは複数の武器を異空間にしまう。
黒歌は魔術師(ウィザード)タイプなので特に武器は所持せず、いつもの着崩した着物でルシウスとともにホテルの屋上に出た。
「さてと、それじゃあ飛ぶ(・・)ぞ」
ルシウスは身体に聖素(魔力)を巡らせる。
するとルシウスの両手足首に光の輪が出現し、頭の上にも光の輪が現れた。
聖人
教会によって幾度となく厳しい審査によって認められる殉職者たちのこと。
数十年から数百年かけて認められる聖人たちは皆崇敬の対象である。
ただし、ルシウスは違う。
ルシウスは人によって認められた聖人などではなく、
神に愛されし聖なる子
ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルから認められた『聖人(ホ・ハギオス)』
身体に聖刻が刻まれ、肉体強度は純血悪魔と比べてもなんら劣らない。
天使と同じく身体に光の力が宿り、天使と違うのは羽が無いこと、両手の首に光の輪が出ていることぐらいであり、その戦闘力は下級天使など歯牙にかけないほど。
ルシウスはその力を駆使し、『聖人(ホ・ハギオス)の身体だけでルシウスは『特務機関イスカリオテ』『神の使徒(ヘヴン・アポストロ)』の序列第2位まで登りつめた。
いま『聖人(ホ・ハギオス)』はルシウス以外確認されていない。
つまりは現在存在する最も尊き、最も強き人間は
『ルシウス・ランスロット』
かの有名な伝説最強の騎士であるサー・ランスロットの子孫。
教会の切り札の1人であった英雄なのだ。
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ルシウスと黒歌が駒王学園の上空にたどり着いたとき、学園の周りは結界が張られていて中には無理矢理破らないと入れない状態だった。
結界内ではフリードと木場が対峙していた。
「なんか、もうエクスカリバーが別のものになってるね」
「確かに前に見たエクスカリバーよりも凶悪に感じるにゃ。それよりどうするにゃ?結界が張られてるけど。壊す?それとも少しだけ時間かかるけど穴だけ開けて中に入る?」
「そうだなぁ。壊すと周りに被害がでるし、穴を開けるのは時間がかかる。うーん、時間掛けてる暇はないんだよね。よし!今回は僕に譲ってくれない?」
「それって、私が壊した結界を張り直して維持しろってこと?」
「うん。できる?」
「できるって言うか私がずっと近くで維持しなくてもずっと張り続けることはできるにゃん。それにここでコカビエルと戦えば白音も私と話してくれるかもしれない」
「あれ?妹ちゃんとはまだ話したくないんじゃなかったっけ?」
黒歌が言ったことにルシウスは首を傾げる。
「そうだけど、白音のピンチに駆けつけた私だったら、話してもらえるかにゃって」
「ふーん。まあ黒姉がそれでいいならいいよ。じゃあ壊したらすぐ結界張り直して2人で参戦だね」
「にゃははー、待っててね白音。いまお姉ちゃんがいくよ」
結界は壊すことが決まり、ルシウスは腕に聖素(魔力)を流す。
その手で結界に触れると結界にひびが入り始めた。
ひびが入ったところに黒歌は仙術を叩き込むと結界はあっけなく崩れ去り、2人は中に侵入した。
侵入したところで黒歌が張り直したが結界が壊れたのは皆わかったため、こちらを見て警戒している。
ルシウスと黒歌はそんなことを気にせず地に降り立った。
黒歌の姿を見た小猫は目を見開き、体が震え出す。
思い出したのだ。
小猫の──白音のそばから離れていったときの黒歌の姿を。
その小猫の変化にリアスはいち早く気づき抱きしめる。
小猫を安心させるために。
母のように優しく抱きしめた。
コカビエルはルシウスを見て笑みを浮かべた。
気づいたのだ。
ルシウスが『聖人(ホ・ハギオス)』だということに。
「ほぉ、『聖人(ホ・ハギオス)』はもう存在しないと思っていたが、まだいたとは。なかなかサーゼクスが来るまでの余興として楽しめそうじゃないか!」
コカビエルの言葉にリアスとバルパーが驚愕する。
他の皆は『聖人(ホ・ハギオス)』のことは知らないのかリアスやバルパーの様子に疑問を抱いた。
「まさかこんなところで『聖人(ホ・ハギオス)』に会えるとはな。神が私の計画の成功に祝福にでも送り出したのか?」
「あの部長。さっきからでてる『聖人(ホ・ハギオス)』とはなんですか?それにルシウス、前見たときより変わってるんですけど」
イッセーがリアスのそばに駆け寄り聞く。
「『聖人(ホ・ハギオス)』というのはね。『神に愛されし聖なる子』と言われる人間のことよ。教会が定めた聖人も2種類あってひとつは人間が認定する聖人。もうひとつがルシウス。『聖書に記されし神』、あるいは『熾天使(セラフィム)』によって認められる『聖人(ホ・ハギオス)』。もう何百年もいなかったはずだけど、まさか『聖騎士(パラディン)』が『聖人(ホ・ハギオス)』なんてね。どうりであんなに悪魔や堕天使を屠れるはずだわ」
「そんなにすごいんですか?」
「えぇ、過去の『聖人(ホ・ハギオス)』には最上級悪魔や『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部クラスの者まで屠られたとも言われているから」
イッセーはリアスの言葉を聞いて冷や汗が流れる。
どうしよ、俺、そんな奴の怒り買ってるよ、と。
「まさか。僕がおまえの計画を祝福に来るわけないだろ。殺しに来たんだよ。仇はとらせてもらうぞ『皆殺しの大司祭』」
「ほう、貴様私の計画で親族でも死んだか?」
バルパーは笑いながら言った。
「兄さんと妹がね。それと──」
「生き残り、いや、あなたに殺され悪魔として生きながらえてる僕だ」
ルシウスの言葉に木場が割り込む。
「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。こんな極東の国で会うとはな。それに兄妹の被験体か……なるほど、貴様ランスロットのものだな?」
「ああ、そうだ」
「そうか。ならば感謝しなくてはな」
「なに?どういうことだ?」
バルパーの言葉にルシウスの眉がピクリと動き吊り上がる。
「──私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどに。そして、自分に聖剣使いの適性が無いと知ったときの絶望といったらなかった」
バルパーが突然語り出した。
「自分では使えないからこそ、使える者に憧れを抱いた。その思いは高まり、聖剣を使える者を人工的に創りだす研究に没頭するようになった。そして完成したのだ。キミの兄妹たちのおかげだ」
「なに?完成?僕たちを失敗作だと断じて処分したじゃないか」
それにバルパーは首を横に振った。
「聖剣を使うのに必要な因子があることに気づいた私は、その因子の数値で適性を調べた。被験体の少年少女、ほぼ全員に因子はあるものの、どれもエクスカリバーを扱える数値には満たなかったのだ。そこで私はひとつの結論に至った。ならば『因子だけを抽出し、集めることはできないか?』──とな」
「なるほど。読めたぞ。聖剣使いが祝福を受けるとき、体に入れられるのは──」
ゼノヴィアがことの真相に気づいたようで、忌々しそうに歯噛みしている。
「そうだ、聖剣使いの少女よ。持っている者たちから、聖なる因子を抜き取り、結晶を作ったのだ。こんな風に」
バルパーは懐から光り輝く球体を取り出した。
「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。それなのに、私を異端として排除したのだ。研究資料だけは奪ってな。貴殿を見るに、私の研究は誰かに引き継がれているようが」
「それで、僕の兄妹に感謝しているのは完成したから?」
ルシウスも真実を知っていたのか表情を変えず、バルパーを見据える。
「いや、キミの兄妹たち別だ。彼らは『神器(セイクリッド・ギア)』を持っていたな」
「それが?」
「私はそれに注いでみたのだよ。抜き出した因子を。するとどうだ。『神器(セイクリッド・ギア)』が変化したではないか!彼らの『神器(セイクリッド・ギア)』である聖剣はエクスカリバー以上のものとなった!」
「だったらなんで殺した?」
「制御できていなかったからな。だからその『神器(セイクリッド・ギア)』を抜きだそうとした。まぁ失敗して抜き出すこともできず、因子しか抜き出せず死んでしまったがな。だが、それにより聖剣系の『神器(セイクリッド・ギア)』にも因子を注ぐことによって進化することが判明したのだ!これで感謝せずにいられるか」
「……そうか」
ルシウスはうつむき、肩が震える。
「ルシウス……」
黒歌はそんなルシウスを心配そうに見つめていた。
「これはキミたちから抜いた最後の結晶だ。キミに譲るよ。環境が整えば量産できる段階まで来ているのでな。それを使って聖剣使いを量産し、愚かな天使どもと信徒どもに戦争をしかけてくれる」
バルパーは因子の結晶を木場に放り投げた。
結晶は木場の足元に行き着き、それを静かにかがみ込んで、それを手に取った。
「……皆……」
木場の頬を涙が伝っていく。
その表情は悲哀に満ち、そして憤怒の表情も作り出していた。
そのとき、木場の持つ結晶が淡い光を発し始める。
光は徐々に広がり、校庭に光がポツポツと浮いて、人の形となっていく。
木場を囲うように現れたのは、青白く淡い光を放つ少年少女たちだった。
「皆!僕は……僕は!」
イッセーたちも彼らがなんなのか理解していく。
それは聖剣計画の被験者たち。
バルパーによって処分された者たちだ。
「……ずっと……ずっと、思ってたんだ。僕が、僕だけが生きてていいのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていいのかって……」
霊魂の少年少女が微笑みながら、木場に何かを訴える。
それは木場にしか聞こえないのか、周りの者たちには口を動かしているようにしか見えなかった。
そこに
「……『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』。彼らはそういったのです」
朱乃がわからない者たちに話した。
木場は彼らの言葉に泪を溢れさせる。
やがて彼らは何かを歌い始めた。
「──聖歌」
アーシアがそう呟いた。
彼らの歌に木場も泪を流しながら口ずさみだす。
そして、彼らの魂が青白い輝きを放ち始め、その光が木場を中心に眩しくなっていく。
『僕らは、1人ではダメだった──』
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど──』
『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ──』
聞こえなかった彼らの声が聞こえ始める。
本来、悪魔は聖歌を聴けば苦しむのだが、イッセーたちが感じたのは温かさだった。
友を、同志を想う、暖かなものを──
イッセーたちからも涙が流れていく。
『聖剣を受け入れるんだ──』
『怖くなんかない──』
『たとえ、神がいなくても──』
『神が見ていなくても──』
『僕たちの心はいつだって──』
「──ひとつだ」
彼らの魂が天に昇っていく。
そしてその場には2人の魂が残っていた。
その2人はルシウスを見て。
『ありがとう。いままで俺たちのために動いてくれて──』
『ありがとう。いままで私たちを忘れないでくれて──』
──でも
2人の声が重なり
『──生きてくれ。自分のために──』
『──生きて。兄さんを想う人たちのために──』
『あなたを想う私たちのために──』
『ルシウス(兄さん)は俺たち(私たち)の自慢の弟(兄さん)だ』
ルシウスはそれに涙を流し、手を伸ばす。
けれど2人はそれに微笑み他の少年少女たちのように天にのぼって2人の魂はひとつとなった。
天にのぼっていた光もルシウスの兄妹のようにひとつとなっていき、大きな光となって木場とルシウスのもとへ降りてくる。
やさしく神々しい光が木場とルシウスを包み込んだ。
そして、木場の手には──
一振りの剣が現れた。
ルシウスを包み込んだ光は異空間に封じているアロンダイトと溶け合っていく。
ルシウスの意思なしに異空間の扉が開きルシウスの前に2人の魂が溶けたアロンダイトが召喚された。