IF‐もしカチューシャが逆行したら‐   作:にゃんちゅ

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スタートは劇場版が終わったあたりです。ほんの少しネタバレあり。


1話

 ある日、県立大洗女子学園と大学選抜チームとの戦車道の試合が行われた。それは大洗の廃校阻止――――つまり、存続をかけた大きな一戦であった。

 しかし、大学相手に戦ったのは大洗のメンバーだけではなかった。かつての全国大会での対戦相手や出場校もこの危機に短期転校という形をとって、助っ人として参戦。黒森峰女学園、聖グロリアーナ女学院、サンダース大学付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、知波単高校、継続高校。三十両対三十両の戦いは、想像を絶するものであった。

 

 結果として、大洗側が辛うじて勝利。学園艦を守ることに成功し、まさにめでたしめでたしといった結果に終わったと言えるであろう。

 

 

 

 ――――だが、勝利した大洗の連合チーム全員が満足した結果に終わったかと言われれば、決してそんなことはなかったりする。当然、ほとんどのチームが結果に納得してはいるのだが。

 

 

 

「……どうしたのですか、そんなに暗い顔をして」

 

「え? ……な、なんでもないわよ」

 

 

 

 どこか暗い返事をした少女、彼女はプラウダ高校隊長のカチューシャである。別に普段から暗い性格なのではなく、むしろ生意気、うるさい、子供っぽい、元気いっぱい、強がりといった真逆の性格である。

 では何故、現在の彼女がここまで気落ちしているのか。

 

 その原因は、前述の大学選抜チームとの試合にある。

 試合の序盤で、プラウダ高校の車両はカチューシャが乗っている車両を除き、すべて撃破されてしまう形となってしまった。別にこれは、作戦を無視して突撃したとかそういったわけではなく、作戦通りに動きその上で大学側に撃破されたのだから、作戦がかみ合わなかったというか、大学側が一歩上手だったというか、ある意味では仕方がなかったといえる。

 

 だが、仲間がやられてしまったことに関して、カチューシャはかなり責任を感じていたのだ。それこそ、試合がすでに終わっている今でも引きずるくらいには。

 誤解されがちであるが、彼女はとても仲間思いの隊長である。そうでなければ仲間に身を挺して守るといったことも恐らくされなかったであろうし、そもそも隊長にすらなれていなかったであろう。

 

 

 

 結論を述べるとすると、彼女は前回の試合が悔しかったのだ。それもいつもならば悔しくて怒っているはずなのだが、怒る気力もなく落ち込むほどに悔しいといった具合だ。

 下手すると負けた大学側の選手も含め、一番悔しい思いをしたのは彼女なのかもしれない。

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 先ほどまで一緒にいて心配そうに声をかけてきた副隊長、ノンナと別れ学園艦の中にある寮へと戻って来たカチューシャ。ここでもまず最初に出てくるのは、ため息である。

 

 

 

「……」

 

 無言でテレビをつけ、艦内のコンビニで売っていた好物のボルシチと弁当をテーブルの上に置くが、箸が進まない。いつもならば自炊をしたり、また身長を伸ばすためにと人一倍多く食べる彼女なのだが、ここ数日はこんな様子である。

 適当につけたテレビ番組はニュース番組だった。大洗の特集やら、文科省へのバッシングやら、ここ最近自分の身の回りで起きた出来事である。最近のニュース番組は、いつも似たような内容ばかりだ。

 

 

 

 見るのも飽きたのか、すぐにテレビを消し、少しずつだけ箸をつけた状態でカチューシャはベッドへと潜り込んだ。最近は寝るのが速い。寝ているときは、嫌なことを考えずに済むからだ。

 まだ夜になって間もないこの時間。彼女はすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 その日、彼女は不思議な夢を見た。

 戦車道全国大会決勝戦で、プラウダ高校が戦っている夢である。

 仲間たちと一致団結し、念願の優勝という二文字のために敵のフラッグ車をどうにかして撃破しようとする姿。

 

 

 

 これは、彼女が追い求めた理想なのだろうか。夢の中で彼女は戦う。それも、楽しそうな姿である。

 そして彼女は無意識にただ一つだけ、願った。

 

 

 

 ――――やり直したい。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「……変な夢を見たわね」

 

 まだ眠いのか目をこすりながら、思わず一言彼女は呟いた。自身は三年生なのでもう全国大会に出ることはないのに、何故か決勝戦で自分たちが戦っていたのだ。

 

 

 

(流石にお腹がすいたわね……)

 

 昨日はほとんど食べずに寝てしまったのだから当然であろう。テーブルの上にある余り物でもとりあえず温めてから食べよう、そう彼女は思ってベッドから身を乗り出す。

 

 

 

「……あれ?」

 

 テーブルの上には何もなく、きれいな状態のテーブルであった。

 昨日無意識のうちに片づけてしまったのであろうか、しょうがないと彼女は冷蔵庫に何かあることを期待して開ける。

 

 

 

「……何もないじゃないっ!」

 

 食材どころか身長を伸ばすためにいつも飲んでいる牛乳すらも切らしていた。

 彼女は時計を見る。昨日寝るのが速すぎたせいかまだ朝の五時半であった。よく見れば外も、まだ完全には明るくなっていない。

 

 

 

「面倒くさいわね……」

 

 そう愚痴をこぼしながら、近くのコンビニへと向かうことにした。流石に腹が減りすぎているので、何も食べないという選択肢を取ることは出来なかった。

 

 

 

 歩いて五分。そこにコンビニはあった。それもただのコンビニではなく、プラウダ高校の学園艦内のコンビニである。これがどういう意味を持つかというと、ボルシチのような普通のコンビニには売っていないようなものも揃っていたりと、プラウダの学生にとってはとてもありがたい品ぞろえになっていたりする。

 とにかく朝食と、牛乳を買わなければ、そんなことを彼女は考えながら牛乳コーナーへと足を向けた。

 

 

 

 何かがおかしかった。

 

 

 

 誰がどう見ても、普通の牛乳である。だが、何故か違和感があるのだ。カチューシャはそれが何なのかを考える。

 

 

 

(……はっ!)

 

 

 

 そして、一つの結論を導くことが出来た。そしてその結論を導いた結果、彼女は相当苛々していた。落ち込んでいた彼女が苛々するくらい、彼女にとってはよっぽどな出来事であった。

 そこに不運なコンビニ店員が一人、横切ったそうな。

 

 

 

「ねえ、ちょっと」

 

「……どうしました?」

 

「どうしたじゃないわよ! なんなのよこれ!?」

 

 

 

 店員は困惑する。いきなり商品に指をさされながら怒鳴られたのだから。とりあえず、指をさされた商品名を答えることにした。

 

 

 

「……牛乳?」

 

「そんなことくらいこのカチューシャでも知ってるわよ! バッカじゃないの!? 幼稚園児でもわかるわよそんなこと!」

 

「えっと、その……」

 

 

 

 何故こんなにも怒っているのか店員には訳が分からなかった。どこからどう見ても、普通の牛乳にしか見えないのだから。

 

 

 

「なんで賞味期限が切れた商品出してんのよ!? カチューシャの身長をこれ以上縮ませるつもり!?」

 

 

 

 この発言には、流石にコンビニ店員も数秒固まらざるを得なかった。まさに何言ってんだこいつ状態。

 

 別に賞味期限が切れた牛乳飲んでも身体を壊すことはあっても身長は縮まないとコンビニ店員は心の中で突っ込みつつ、この会話でのとてつもない違和感に気づく。

 というより、目の前の彼女の言っていることがますます意味が分からなくなってきた。クレーマーにしても、現実味がなくて訳の分からないことを言っているのだから。

 

 

 

「あの……」

 

「なによ!?」

 

「賞味期限、切れてないですけど……」

 

「はあ!?」

 

「えっと、今日は○月の×日ですけど」

 

「…………はあ!?」

 

 

 

 そんなことはない、そう言おうとして一応携帯の画面を開く。

 そこには、時刻の下に小さく○月×日と表示されていた。

 

 

 

「…………」

 

「……あの、お客様?」

 

「な、なんでもないわよ。ええ、なんでもないわよ」

 

 カチューシャは困惑していた。何故なら今自分の身に、とんでもないことが起こっているのだから。真顔で平静を装いつつも、頭の中は真っ白になっていた。

 一方、コンビニ店員から見れば目の前の少女は、間違いに気づいたけど恥ずかしくて意地を張っているだけの小さい子供にしか見えていなかった。

 

 

 

 その後牛乳と弁当が入った袋を持ちながらダッシュで家に帰ったカチューシャ。

 まず彼女がとった行動は弁当を食べるでもなく、牛乳を飲むでもなく、携帯の画面を開くことであった。そして、ある人物へと電話をかける。

 

 

 

「ノンナ、さっさと出なさいノンナ! ノンナ、ノンナ、早くっ!!」

 

「おはようございます、朝早くからいったいどうしましたか? まだ六時ですよ」

 

 電話の相手はプラウダの副隊長で、彼女と最も親しいと言えるであろうノンナであった。

 ちなみに何故こんなにノンナが落ち着いた対応を取れているかというと、カチューシャからの無茶ぶりからは慣れているというか、耐性がついているからというか。元々、ノンナ自身が落ち着いた性格だからというのもあるのだが。

 

 

 

 だが、そんなノンナであるが流石にこの後カチューシャが発する言葉には困惑せざるを得なかった。

 

 

 

「なんで今日が○月×日なのよおおおぉぉっ!?」

 

「……はい?」

 

「いったいどういう事よノンナ!?」

 

「いや……今日は○月×日、いい天気ですね」

 

「ええ、確かにいい天気……って、そうじゃなああああああい!!」

 

 流石に今回のカチューシャの言っている意味は理解することが出来なかった。

 ○月×日なのだから、○月×日なのである。それ以上のことは何も言えない。

 

 

 

 その後、カチューシャはギャーギャー喚いた挙句、電話を切った。そして、熱が一周して冷めたのか、逆に冷静になってきていた。

 身の回りのものを確かめる。しかし、どこをどう見ても今日という日で間違いなさそうであった。

 

 

 

 だからこそおかしいのだ。

 

 

 

 ○月×日という日は、もう既に終わったはずの日であるのだから。

 更に言えば、この日は戦車道全国大会――――よりも、更に前の日であった。

 

 

 

 

 

「いったい、どうなっているのよ……」

 

 

 

 その彼女の問いに答えれるものはおらず、自分で答えを見つけることすらも、当然できるはずもなかった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 その日、休日であったため学校は休みであった。戦車道の訓練はあったが、今日は急用が出来たという理由でカチューシャは休みを取った。

 今の不安定な精神ではとてもじゃないが訓練どころではない。一人で考える時間が欲しかった彼女は、朝食を食べた後に、近所を散歩することにした。別に家の中で考えてもよかったのだが、気分転換という意味もかねて外に出ることにしたのだ。

 

 

 

 プラウダの学園艦――――そもそも学園艦というのは、ただ単に学校があって寮があるだけではなく、その大きな船の中に一つの小さな都市が形成されていると言ってもいい。

 つまり高校生以外の人も住んでいるし、寮だけではなく一般住宅もあれば、様々なお店だってある。学園艦によっては、山や川などの自然の環境も存在する場所だってあるのだ。

 

 最初は風にでも当たれば思考も活発になるのではないかと自然の多いところをぶらぶら歩いていた彼女であるが、結局何も考えられなかった。これからどうしようの一点しか浮かばない。

 気が付いたらお腹がすいてくる時間。緊急時というのは、時間が過ぎるのもいつもに比べて早く感じるというもの。

 

 

 

 少し歩き、飲食店がちらほらと並ぶような町中へとカチューシャはたどり着いた。

 なんでもいいか、と適当に目に入ったラーメン屋に足を入れる。別にロシアの料理だけがあるわけではない。というより、何だかんだここは日本なので、日本の料理が主である。

 

 

 

「へいらっしゃい! ご注文は……っておや?」

 

「味噌大盛りひと……な、何よ?」

 

 いきなり店員であろうおっさんの言葉が詰まったので、思わずカチューシャも困惑してしまう。

 

 

 

「カチューシャちゃんだよな!? 戦車道やってる」

 

「え? え、ええそうだけど……いきなり何よ?」

 

「俺、戦車道の大ファンなんだよ! というより、プラウダ高校のな!」

 

「へ?」

 

「ずっと応援してたんだけどな、毎年準優勝や三位止まり……でも! 去年ついにやってくれたな!」

 

「え? ま、まあ……」

 

 どんな相手であろうと高圧的な態度を取りがちなカチューシャであったが、この時は相手の勢いに押され気味であった。過去に知らない人に称賛の声をかけられることはあっても、ここまで直にがっつり言われることもなかったのだから。

 というか、普段は隣にノンナだったり他のチームメイトがいたりと安心できていたのだが、今日は一人である。故に心細さが何割か増されているとか。

 

 

 

「今年も期待しているからよ! 頑張ってくれよな!」

 

「今年?」

 

「ああ! 二連覇、俺たちに見せてくれよな! という事で味噌大盛り一人前、待ってろよ!」

 

 

 

 今年も期待してくれている人がいる、その言葉がカチューシャに響いた。

 否、誰かの期待に応えるためにカチューシャは戦車道をやってきたわけではないのだが、この言葉が一つの大きなきっかけになったことは言うまでもない。

 

 

 

(何だか、難しいことばかり考えすぎてたわね、バッカみたい。どういうわけだか知らないけど、無かったはずのチャンスが巡って来たという事。それで十分じゃない!)

 

 何でこんなことが起きたかは知らないが、再びカチューシャに、プラウダ高校に全国制覇のチャンスが巡って来たのだ。

 前の全国大会や大学選抜戦で散々悔しい思いをしてきた彼女に、その借りを返す機会が生まれたということになる。

 

 

 

(見てなさいよ! 今度の全国大会でどいつもこいつもボッコボコにして、粛清してやるんだからっ!!)

 

 先ほどまでの曇っていた目から、獲物を狩るときのようなギラリとした目に豹変した。

 彼女にまた新たな目標が出来た。それは、全国大会二連覇である。

 

 

 

 

 

 ちなみに、その時頼んだ味噌大盛りの量が思った以上に多かったのか、獲物を狩る目から食べる苦しさのあまり涙目に変化していたとか。




コンビニ店員のように学園艦にいてもカチューシャを知らない人もいれば、ラーメン屋のおっさんのように知っている人もいるってことで。プラウダ高校と言ってもあるのは戦車道だけではないと思いますしね。
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