制限時間:30分/30分
私はマシュマロが好きだ。それは単に甘党だからというのもあるけれど、子供の頃に記念の度にマシュマロ一袋を買ってもらっていたからだろう。
もちろんそのまま食べても美味しいのだが、私のイチオシは火で炙る焼きマシュマロだ。あの蕩けるような食感と、突き抜ける甘さ。至高の一時である。
そんな私は、いまや社会で働く一員だ。いつまでも子供のような事は言ってられない立場になってしまったが、それでもおやつにマシュマロを食べる癖だけは変わらない。
コンビニでマシュマロの袋を買って、通勤鞄に押し込む。そうして朝の仕事を始める。疲れてきたとき、ストレスを感じたとき、その他食べたくなったとき。私は通勤鞄をあさって、中からマシュマロを一口食べる。それだけでふわふわな甘さが、私の嫌な思いを祓ってくれる。
これまで何度、マシュマロに助けられたか分からない。怒鳴り散らしそうになっても、とりあえず食べる。上司に暴行しそうになっても、とりあえず食べる。取引先の人間に熱い日本茶をぶっ掛けそうになっても、とりあえず食べる。それだけで私の精神の調和が図られて、幸せになる。
私は子供の頃から変わっていない。けれどそれで世渡りができているのだから問題ないだろう。
つい先日、私の家から男が出て行った。彼は私にプロポーズしてきたけれど、私はそれを断った。懐から取り出した指輪には、私にはとんと見当のつかないイニシャルが彫ってあって、彼はそれに気付いていないようだった。
馬鹿らしい。ああ馬鹿らしい。感情のままにテーブルを壊そうとして、乗っていたマシュマロが目に付いた。
「ああ、私の味方は貴方だけかもね」
ひとかけら口に放る。ぐちゃぐちゃになった心が、少しは落ち着いた。
――――――
君はだれなんだい、と僕は問いかける。それに君は、僕は君だ、と答えた。まるで意味が分からなかったけれど、きっと君は僕自身で、それでいて僕じゃない誰かなんだろう。
君はいつだって僕の事を観察していた。僕が勉強をすれば勝手に答えを導いていたし、僕が野球をやれば打席に立つ度に勝手にバッティングフォームの指導を始めた。誰かに恋をしたときはその子のことを勝手に評価(それも僕のとは全然違う)していたし、大学の合格者発表のときは僕よりも先に番号を見つけて喜んでた。
僕が社会に出てからは、君はとんと姿を見せなくなった。いや、声を響かせなくなった。出てくるのは決まって夢の中で、それも昔を懐かしむ夢のときばっかり。その度に今の僕の状況を聞きたがって、一喜一憂していた。
きっと君は、幼い頃の僕なんだろう。いつまでも純真無垢で、僕が犯した過ちなんて知らない無邪気な子供の僕。
君は僕にこう言った。もっと遊ぼうよって。いつまでも難しい顔をしてないで、一緒に遊ぼうって。でも僕はその声を振り払った。もうごっこ遊びなんてする年齢じゃないし、そんな幼稚な遊びは楽しくないって言って。君は悲しそうにそうなんだって言った。それから、君が出る夢を見る事もなくなった。
君はいつだって僕の事を見ていた。僕はいつだって君の事を楽しみにしていた。
ねえ、君は今、どうしてる?
たまには一緒に遊ぼうか。童心に戻るのも悪くない。
大人の世界なんて、窮屈で息苦しくて、僕の肌には合わないみたいだ。だから、たまには君のところに行こう。
ごっこ遊びも楽しいかもしれない。一緒に戦隊モノの話をするのもいいかもしれない。野球だってあれからしたことないから、たまにはバッティングセンターにでもいこう。
だから……。
僕はたまに、君を呼ぶ。そうすれば君は喜んで来てくれる。たまに遊んで、おしゃべりをして。頭の中の君はいつまでも眩しい笑い声で僕を包む。そんな日々を願って。
君と一緒に、いつまでも。
30分で書けといわれるとかなりきつい。けど集中できて楽しい。