即興短編集   作:遠名 彬

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お題:死にぞこないの電話
制限時間:一時間


私とスマホ

歩きスマホというのは、マナー違反だの何だのと言われて規制されているが、結局自制する人はかなり少ない。現代はSNSやらソーシャルゲームやら、手軽に張り付く事を強要する娯楽が氾濫している所為で、スマートフォンを手放せない人が増えているのだ。

かくいう私も、スマートフォン中毒者の一人である。最近流行りのパズルゲームにどはまりして、お金を湯水の如く溶かし尽くしている。過去を振り返らない私は今の娯楽に全てを捧げている。今が楽しければそれでいいのだ。

コンビニで買った一万円分のプリペイドカードを台紙から引き剥がし、裏の銀の部分を一円玉で削って落とす。現れた英数字の羅列をスマートフォンに打ち込むと、ゲームの中で使えるお金に早変わりする。

そうして得たゲーム内通貨を消費して、私は強力なモンスターを求めてガチャを引く。最近色々と批判されているガチャシステムだが、私は別に悪いとは思わない。お金をかければ誰だって強いキャラを手に入れられるのだ。強いキャラを手に入れるためにプレイヤースキルを問われないシステムというのは私としては大歓迎なのだ。私はさしてゲームが上手いわけでもない。だからお金をかけるのだ。完全にゲームの上手さに依存するランキングなど面白くもなんとも無い。

コンビニのゴミ箱に使い終わったプリペイドカードのゴミを捨て、私はスマートフォンを弄りながら歩き出す。SNSの中の呟きを監視しつつ、最近のニュースを流し見る。友人から飛んでくるテキストメッセージに適当に返信しつつ、ガチャで出てきた目玉キャラの性能を分析し、私のパーティに居場所があるかどうかを検討する。

そうやってスマートフォンを延々と弄りながら歩く。まさに歩きスマホというやつだが、今更だ。ついでにイヤホンが繋いであって、黒いコードを伝って音楽が聞こえる。

私は視界の端の人が歩き出したのを見て、信号待ちの交差点を歩き出した――。

 

衝撃。

 

何も見えなかった。何も聞こえなかった。聞こえたのは最近流行りの優男の女々しい声だけで、見えていたのは液晶の向こう側で微笑む数万円のガチャ産の少女だった。

私の足は地面を捉えず、冗談みたいに空を飛んだ。右耳からは相変わらず馬鹿みたいにポップな曲が流れ続ける。そして――。

 

もういちど、衝撃。

 

私は右腕からアスファルトに落下した。どこか客観的にそう分析できる程度には、現実感はどこかへといってしまっていた。

左目は何故か真っ暗で、右目の視界がかろうじて残っていた。ちょうど顔の前には、不自然な角度で私にスマホの画面を見せる右腕。でも親指はいつものように動かず、ブルブルと着信のバイブレーションで揺れるスマートフォンを操作する事はできない。

しばらく何もできず、私はただ倒れていた。気が遠くなることも無く、かといって元気に動き回れる事も無く。

周りがぎゃあぎゃあと騒々しくなってくる頃に、スマートフォンが振動をやめた。電話はもう来ないだろう。画面の半分が真っ黒になっていた。右耳からはもう何も聞こえない。

誰かに助け起こされた私は、もうスマートフォンの画面を見ることはできなかった。

 

すぐに飛んできた救急車のお陰か、私は死なずにすんだ。半身不随に視野狭窄、聴覚も失ったけれど、何とか生き永らえていた。

病室で目覚めた私の元には、私の遺品……じゃなくて所持品が置いてあった。その中には粉々になった定期とか、血まみれで動かない腕時計とか。奇跡的にまだ動けるスマートフォンは、画面が半分割れて、イヤホンジャックも潰れていた。カメラも使い物にならないだろう。私と瓜二つな瀕死状態であった。

バイブレーションの音で、何とか生存を知らせてくれる。まだ死なないんだぞって言っているようなその姿はどこか哀しくて、私は画面を裏返した。

お見舞いに来る友達は、誰もいなかった。

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