制限時間:30分
「私と一緒に、死のう?」
目の前の少女がそう言うのだ。その右手には、どこからか手に入れた手榴弾を握って、満面の笑みで。
彼女は誰だったか……。そうだ。たしかこの間の小規模な戦闘で親と兄弟を失ったとかいう少女だ。自失呆然といった具合で銃弾が飛び交う戦場のすぐ傍にいたので、我々が保護したのだった。話を聞いてみると、どうにも血縁者とか知り合いとかが死んだらしく、軽く錯乱したままだったのでしばらくは保護観察をする事になっていたはずだ。
しかし、少女は今、物騒な凶器を持って、それなりに仲の良いはずの私を道連れにしようとしている。普通に考えれば彼女がトチ狂ったのだろうと判断するが、私には深い絶望の末の決断だという事が分かる。
可哀想に。極普通の、底辺で救いようの無い生活を謳歌していた彼女は、一日の出来事でその全てを失ったのだ。幸福には頂点があるけれど、不幸には底は無い。今が不幸のどん底だと思っているときには、さらに深い深淵がすぐ傍まで忍び寄っているものだ。かくいう私もそういうクチなのだから間違いない。
「悪いけど、私はまだ死ぬ気はないの。やる事があるから」
私は彼女を拒絶する。そう言うと、彼女は少しだけ驚いた顔をした後に、ゆっくりと微笑んだ。
「そう。なら、私は一人で死ぬわ」
私は少女の決意を見た。これ以上の邪魔は野暮だろう。何も言わず、私は扉を開けて外に出た。重い扉だった。鉄でできているのだから当たり前だ。ここは倉庫なのだから。今では使われていないが、機密性だけは素晴らしい。内部で爆発の一回や二回があっても壊れはしないだろう。
私が扉を閉め切る前に、鋭い金属音が聞こえた。あれは、ピンを抜く音だ。私には馴染み深い音だが、しかし彼女の指からは聞きたくなかった音だ。
冷たい扉に背を預けて、夜の世界を見る。明かりが少ないこのあたりは、日が落ちれば真っ暗になってしまう。夜目にそこそこ自信のある私には、ぽつぽついる、雨風を凌ぐ場所さえない人々の顔が見える。
どん、と、背中が揺れた。それがなにを表しているかは言うまでもない。当分この倉庫は使用禁止だろう。夜に抜け出していろいろ遊ぶのに重宝していたので、少し残念だ。
この世界はなんともままならない。格差社会ここに極まれり。底辺で生きる私たちは時折こうして、自ら未来を切り取る。それに救いを求めて。その気持ちは分からなくもないけれど、残される人の気持ちを考えると、どうしても踏ん切りがつかない。
夜に響いた音の所為か、一人の男がこちらに来るのがわかった。見慣れた阿呆顔の彼は、あれでも私たちを纏めているリーダーだ。
何があったのか、なんて、説明するのも面倒くさい。けれど、彼女はきっと救われたのだろう。扉を開けた私は、跡形も無く消えた彼女を見てそう思った。