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さて。それでは、私がある時に立ち寄った村の話をしよう。
それはそれは辺鄙な所にあった村だった。今もあるかどうかは知らないが、あの忌々しい記憶を鑑みれば、無くなっていて欲しいものだ。
私があの村を訪れたのは、いわば若気の至りのようなものだ。自分探しだのと理由をつけて、現実社会から逃げ出した私の前に現れた、名も知らぬ村だった。
完全に舗装されていない道や、まばらに建つ茅葺き屋根の家々は、私の中に昔懐かしい田舎を想起させた。それだけで少しだけ安心感を抱いた私は、道を歩く老婆に声をかけたのだ。
「こんにちは。今日は良い天気ですねぇ」
「おや、見ない顔だ。こんな辺鄙な村に何の用かい?」
老婆は柔和に笑ってそう聞いてくる。私は適当に事情を話し、この村の事を聞いた。
「この村は、どんな村なのですか?」
「ここは、何でもある村。全てがあるが故に滅茶苦茶な村だよ」
摩訶不思議な回答に、私は精神病患者にでも話しかけてしまったのか、と錯覚する。しかしはっきりとした返答からはそういうわけにも思えず、モヤモヤとした気持ちを抱えながら老婆と別れた。
そうしてしばらく村を徘徊していると、妙な事に気がついた。
村の中には人がいる。しかし、彼ら彼女らは一人一人、違うのだ。十人十色とかそういう事ではなく、例えば肌が白い……白人のような肌に金髪青目の典型的な
そういえば、と建造物を見れば、遠くからは同じように見えたそれらも一つ一つ違う。ありとあらゆる世界中の建築物を一つ一つ再現したように、国際色豊かな家々が建ち並んでいた。そしてそこに住む人々もバラバラだ。中国風の家には中東っぽい人が住んでいるし、伝統的な日本家屋にはロシア風の白人が住んでいた。
何もかもが滅茶苦茶な村。ぐちゃぐちゃな村、という言葉がしっくりくるような、そんな場所だった。
私は当時、そんな村を気に入った。いや、気に入ってしまった。面白いじゃないか、と。
何とかしてこの村に住めないか。そう考えて、私は初めの老婆に相談を持ちかけた。
「おばあさん。私はこの村が気に入った。住みたいのだが、どうしたら住める?」
すると、老婆は怪訝な顔をしてこう言った。
「あんた、何人なんだい?」
「……根っからの日本人だが。それが?」
これだけ色々な人々がいるのだ。国籍は重要なのか……なんて呑気に考えていた私は、まだまだ若かった。
「この村に住める
その先は聞く必要もなかった。老婆がどこからか取り出した農作業用の鍬でもって、私に襲いかかってきたからだ。
今、私が生きているのは、命からがら逃げてきたからだ。この話を信じるも信じないも勝手だが、迂闊に決断をするものではない。取り返しのつかないことになるかもしれない。それだけを覚えておいてくれれば、私もこんな馬鹿らしい思い出を語った甲斐があったというものだ。