即興短編集   作:遠名 彬

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お題:ぐちゃぐちゃな村
制限時間:二時間


とある村

さて。それでは、私がある時に立ち寄った村の話をしよう。

 

それはそれは辺鄙な所にあった村だった。今もあるかどうかは知らないが、あの忌々しい記憶を鑑みれば、無くなっていて欲しいものだ。

私があの村を訪れたのは、いわば若気の至りのようなものだ。自分探しだのと理由をつけて、現実社会から逃げ出した私の前に現れた、名も知らぬ村だった。

完全に舗装されていない道や、まばらに建つ茅葺き屋根の家々は、私の中に昔懐かしい田舎を想起させた。それだけで少しだけ安心感を抱いた私は、道を歩く老婆に声をかけたのだ。

 

「こんにちは。今日は良い天気ですねぇ」

「おや、見ない顔だ。こんな辺鄙な村に何の用かい?」

 

老婆は柔和に笑ってそう聞いてくる。私は適当に事情を話し、この村の事を聞いた。

 

「この村は、どんな村なのですか?」

「ここは、何でもある村。全てがあるが故に滅茶苦茶な村だよ」

 

摩訶不思議な回答に、私は精神病患者にでも話しかけてしまったのか、と錯覚する。しかしはっきりとした返答からはそういうわけにも思えず、モヤモヤとした気持ちを抱えながら老婆と別れた。

そうしてしばらく村を徘徊していると、妙な事に気がついた。

村の中には人がいる。しかし、彼ら彼女らは一人一人、違うのだ。十人十色とかそういう事ではなく、例えば肌が白い……白人のような肌に金髪青目の典型的な英国人(ブリティッシュ)がいれば、そのすぐ向かいには真っ黒な肌をした黒人がいる。そんな風に、ありとあらゆる顔、体型をした人々が、さも当然のように生活しているのだ。

そういえば、と建造物を見れば、遠くからは同じように見えたそれらも一つ一つ違う。ありとあらゆる世界中の建築物を一つ一つ再現したように、国際色豊かな家々が建ち並んでいた。そしてそこに住む人々もバラバラだ。中国風の家には中東っぽい人が住んでいるし、伝統的な日本家屋にはロシア風の白人が住んでいた。

何もかもが滅茶苦茶な村。ぐちゃぐちゃな村、という言葉がしっくりくるような、そんな場所だった。

私は当時、そんな村を気に入った。いや、気に入ってしまった。面白いじゃないか、と。

何とかしてこの村に住めないか。そう考えて、私は初めの老婆に相談を持ちかけた。

 

「おばあさん。私はこの村が気に入った。住みたいのだが、どうしたら住める?」

 

すると、老婆は怪訝な顔をしてこう言った。

 

「あんた、何人なんだい?」

「……根っからの日本人だが。それが?」

 

これだけ色々な人々がいるのだ。国籍は重要なのか……なんて呑気に考えていた私は、まだまだ若かった。

 

「この村に住める()()()は一人まで。わたしが日本人。その居場所を奪うつもりなら――」

 

その先は聞く必要もなかった。老婆がどこからか取り出した農作業用の鍬でもって、私に襲いかかってきたからだ。

 

今、私が生きているのは、命からがら逃げてきたからだ。この話を信じるも信じないも勝手だが、迂闊に決断をするものではない。取り返しのつかないことになるかもしれない。それだけを覚えておいてくれれば、私もこんな馬鹿らしい思い出を語った甲斐があったというものだ。

 

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