即興短編集   作:遠名 彬

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お題:走る裏切り
制限時間:一時間

昨日は忘れました。申し訳ありません。


忘れられた約束

どうしようもなかった。そう言ってしまえば簡単な事であるが、容易に片付けられない問題である事は私が一番分かっている。

私は彼女を裏切った。彼女は私のことを信じていた。私も彼女を信じていた。彼女とは昔からの知り合いで、何だかんだで十年程度は付き合いがあった。携帯電話で簡単にやり取りできる今の時代でも、私と彼女は時たま会っていた。かなり遠くに住んではいるけれど、私も彼女も共に合う日を待ちわびていた。気の置けない間柄の親友は彼女だけだと断言してもよかった。

そんな私に、彼氏ができた。彼は大学の頃の同級生だった。今は一般企業で働く私と彼は、大学の同窓会で出会った。大学にいた頃は、学部が違ったので特に接点も無かった。お酒の席で出会った私たちはすぐに意気投合。どうして学生時代に付き合わなかったのか、と思ったほどに早く、そして激しかった。

翌日の朝、私は携帯電話の呼び出し音で目を覚ました。見れば、時計は既に昼を回っていた。今日は約束の日であった。

私は寝ぼけた頭で携帯の電源を落とし、隣に眠る彼の胸に沈んだ。何も考えたくなかった。昨日の幸せな記憶を引き摺って、そのまま生きていたかった。間違いに気付いたのは、それからしばらくしてからだった。

彼と過ごす時間は夢のようで、学生の頃から色恋沙汰とは無縁だった私はすぐに夢中になった。彼は私とは何もかもが違ったが、何もかもが同じだった。そんな錯覚を抱いたくらいには、私は現実が見えていなかった。

家に帰った夜。私は携帯電話の電源が入っていなかったことに気付いた。そして電源をつけた私の目の前で、液晶は無常な現実を映し出した。

不在着信、20件。未読メールが5件。どれも同じ人から。送信者は見ずとも分かった。そして、今日が約束の日であったことも、考えずとも分かってしまった。

“どうして電話に出てくれないの?今どこにいるの?”

“何で無視するの?連絡待ってるから”

“ねえ、何かあったの?連絡して、お願い”

“来ないから私、帰っちゃった。気付いたら連絡頂戴ね”

そんなメールは、私が何をしたかを思い知らされた。去年から決めていた日なのだ。彼女の貴重な休日を、私はふいにしてしまった。連絡も無しに。

“私との約束はどうでもよかったの?”

最後のメール。怒りが伺えるその文言は、たった一行で私の心に罅を入れた。

謝らなきゃ。そう思って電話をしても、留守電のコールが無情に鳴るだけだった。もう寝ているのだろう。当然だ。

私はベッドに潜って、今日の行動を猛省した。そうして、早く明日が来る事を祈り続けた。

 

翌日。そのまた翌日も、彼女と連絡はつかなかった。付き合ったと思っていた彼の電話番号は、間違っていた。

 

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