制限時間:一時間
私は運動が嫌いだ。体を動かす事が嫌いだ。特に理由があったり原因があるわけでもなく、ただただ嫌いなのだ。だから、私は仕事でもなるべく体を動かさないようにしている。
手に持った杖をつきながら、私は周りでも一際大きい建物に入る。そこは酒場を兼ねた集会場である。今日も今日とて多くの人々が酒を片手にやんややんやと騒いでいた。
「はい、これ。十分でしょ?」
腰に提げていた鞄からいくつかの宝石を取り出す。ついさっき、この町から少し離れた場所で取ってきた物である。希少性はそうでもないが、最近は町の外に生息する魔物たちの活動が活発になっているので、多少の採取でもそれなりの報酬が出る。
「ひい、ふう、みい……はい、OKです。じゃあこちら、報酬です」
受付嬢がカウンター裏から持ってきたお札を受け取る。最近は楽な仕事でも実入りがいいから、大分生活が楽になった。
適当にお酒を注文し、座るための席を探す。ぐるりと一周視線を回すと、ちょうど知り合いの女の子が一人で食事をしていた。
「やっほう、お久しぶり」
グラスを持って席に座る。少女はこちらの姿を認めて、一旦箸をおいた。
「ああ、久しぶり。最近どう?繁盛してる?」
「ん、まあね。最近は依頼の報酬もベースアップしてるし、楽よ。あんたもそうなんじゃない?」
ちらりと彼女が食べている料理を見る。……私の今回の報酬の半分は消し飛ぶだろう。
「私は討伐したりするから、お金も危険度もダンチなのよ」
私の視線を感じたのか、彼女は得意げにそう言う。そんな事は分かっているのだが……。
「あ、そうだ。これから中央の闘技場で見世物やるらしいけど、来る?」
「見世物?……ああ、アレ?うーん、あんまり気は進まないかなぁ」
昼下がりに闘技場、といえば、毎週恒例のスポーツ大会だ。手懐けられた魔物と腕っ節に自信のある人間が戦うという、時には命の危険もあり得るスポーツ。もはやスポーツと言っていいのか微妙なところだ。
「いいじゃない。久しぶりに会ったんだし、行こうよ」
彼女のその言葉に引き摺られて、私は結局闘技場に向かうことになった。
そこは、熱狂の坩堝だった。酒場とは比べ物にならないほどの人々が、声が枯れるのかと思えるほどに騒いでいた。
「……はぁ。人が死ぬかもしれないのに、何がそんなに楽しいんだか」
私の呟きに、私の隣で飲み物を買ってきた彼女は反応した。
「それは、このスポーツを誤解しているよ」
「……誤解?」
「あのね、出てる人たちはみんな、そんな事はわかりきってるの。それでも命を賭けて楽しんでるんだから、楽しまなきゃ失礼じゃない」
確かに。その言葉には一理ある。観客席から中心を見れば、勇気ある男が、向かいの檻に入った魔物が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。
「……そういうものかもね。まあ、払ったお金分は楽しませてもらうわ」
ぎゃあぎゃあと五月蝿い興奮の中で、私は持ってきてくれた炭酸飲料を一口飲んだ。ちょうど試合が開始された。恐ろしい魔物もこうなってしまえば見世物に過ぎないのだろう。可哀想に。私では到底勝てないだろう魔物とほぼ素手で渡り合う男を眺めながら、この世の無情さに少しだけ思いを馳せた。