制限時間:一時間
“急ににわか雨が降り出したら、覚悟を決めろ”――。
この辺りでは結構有名な言葉だ。曇りもしていない快晴の日に、突如にわか雨が降り出す事がある。そんなときは決まって、
――
「ああ、今日もか……。可哀想に」
俺の前に横たわる被害者は、雨で確かに湿っている。左側だけの体がこちらを見る。痛かっただろう、まるで修羅のような顔をしたまま、その男は死んでいた。
「これで二週間目……まるで衰える気配が無いねぇ。そろそろ本格的に対策を考えなきゃいけないんじゃない?」
隣に立った男が、深刻な顔でそう言う。その言葉通り、これで二週間連続での被害だ。計16人。男も女も、子供も容赦なく殺されていた。俺はこの事件の専属調査官になったとはいえ、何の手がかりも得られないまま犠牲者を増やし続けている。にわか雨の警告は出しているのだが、いかんせん唐突に降るお陰で完璧な対策はできていない。
「そうだな……。――ん?」
ふと、犠牲者を眺めていた俺の目に不思議なものが映った。
それは、長い金糸のようなもの。拾い上げる。それは、紛れもなく髪の毛だ。
「どうした?……髪の毛?それがどうしたんだ?」
今、目の前に横たわっている男は黒髪だ。俺も。隣にいる相棒は薄い茶髪だ。つまりこの髪の毛は、ここにいない誰かのものだという事になる。
金髪をしているのは大抵人に近しい種族だ。エルフとか、そういうもの。そんな存在は、この辺りにはいない。そういうやつらはもっと都会のほうに集団で住んでいる。少数種族の保護が何だとかでやたらいい待遇らしい。
そして、ここから最寄の村……今の活動拠点に住んでいる中に金髪の人間は……いる。一人だけ。いつからいるのか分からない、金色の長髪をした女が一人。周りと大した交流をしないので、かなり浮いた存在になっていたが……。そんな彼女の髪がどうしてこんなところにあるのだろうか。
「なあ、確か村の中に、金髪の女が一人いたよな?」
「ああ。意外と美人だぜ、あの子。あんまり見ないけどな。確か刀鍛冶の家系の跡取り娘だとか。親は両方死んでるみたいだが」
なぜそこまで知っているのか。どうせ女好きなこいつの事だ、密かに狙っているのだろう。そんな事はどうでもいい。
刀鍛冶の跡取り娘。
「その子、どこに住んでるか知ってるか?話が聞きたい」
「お、お前も気になるのか?横取りは許さないぜ?」
たぶん話が噛み合っていないが、そんな事はどうでもいい。第一容疑者を見つけたのだ。話を聞かないわけにはいかない。
晴天の空の下、俺は村に向かって歩き出した。
ぽつり、ぽつり。
降るはずの無いにわか雨。確かに感じる、
「……私ならここにいますよ?捜査官さん」
神経を舐めつけるようなおぞましい声で、背後の女性は言った。しかし、感じるのは彼女だけではない。
恐る恐る振り向いた俺の視界には、一人の少女と一体の怪物。金髪を濡らして立つ少女と、まるで蛞蝓か何かのような怪物。においはしない。しかし、ぐちゃり、ぐちゃりという耳障りな音が、雨音の中から聞こえてくる。
「この子が雨を降らせるんです。日の下は苦手みたいで」
愛おしそうに怪物を撫でる少女から目を離せない。隣にいるはずの相棒の気配は感じない。視界の端に、二人分の左腕が見えるだけだ。
「食いしん坊ね。まだ食べ足りないの?そこにもう一つエサがいるから、それで我慢なさい」
ぼそり、ぼそりと呟く声は、俺の命を肥やしか何かとしか思っていないのだろう内容だ。しかし、逃げるには足の力が足りない。吸い込まれるような彼女の瞳に魅入られて、体がいう事を聞かないのだ。
少女がこちらに歩み寄る。その顔は妖艶に微笑みを湛えている。村で見かけた時とはまるで別人だ。性的興奮とかそういうものを超越した美しさ、まるで女神のような――。
「さようなら、捜査官さん」
視界がずれる。左目で見えたのは、彼女の首元にあるネックレス――ハート型に加工された宝石。飛んでくる光の波長を乱し、精神に影響を与えることもある宝石……。
妙に冷静にそれだけ考えて、俺は半分になった。
なんかトレーニングのほうに投稿できました。でもこっちも投稿します。書きあがり次第投げるので、見れる時間に差があったりはしません。