制限時間:一時間
この世界には、色々と解明されていない神秘が存在する。それは大抵誰か一人しか使えないような希少性と、理屈や過程をすっ飛ばした結果を生み出す超自然的な面を持つ。たとえば……この世界で私しか使えない、錬金術とか。
錬金術といっても、金を生み出す技術という意味ではない。もちろん作ろうと思えば作れなくもないのだが、それだけに限定された技術というわけではない。ありとあらゆる材料を組み合わせて、様々なものを作り出す技術。既存の技術体系に囚われない結果を生み出す錬金術は、自分で言うのも何だが世界中からひっぱりだこだ。
もっとも、そんな世界で唯一の神秘が溢れかえっているこの世界では、私のような“地味め”の個性程度では人気者になれるわけもなく……。
「ありがとうございましたー……」
久々に訪れた客を送り出し、私は大きく溜め息をついた。客が来るなど何日ぶりだろうか。家の中にひきこもっていると体力が消えていく。軽い接客と依頼の受諾だけで疲れが押し寄せる。愛用のロッキングチェアに深く腰を落とす。ゆれる椅子に身を預けたまま、最近の依頼や近況について思いを巡らす。
私がここ……片田舎の辺境に錬金術の店を構えたのは今から十数年前のことだ。当時は物珍しさからか多くの客が押し寄せ、都会から田舎まで東奔西走していた。今ではすっかりお馴染みとなり、店先に掲げられた看板に古めかしさのある、閑古鳥が鳴き続ける変わり者の店だ。時たまよく分からない物を欲している人や特殊な物体を捜し求める人が来る程度で、それ以外は大した仕事も無い。職業柄お得意様もでき辛く、恒常的に需要が発生するものでもない。このくらいがちょうどいいのだろうが、お陰で贅沢が仇敵である。
今回の依頼は、散発的に出現する強力な魔物へ対抗するために作られた無人兵器の燃料を作ってくれ、というものだ。量産できない燃料を用いている時点で無人兵器を運用するメリットを放棄している気がしなくも無いが、話を聞く限り開発者がまともな頭をしていないらしい。まあ討伐ギルドや傭兵家業が隆盛している現代に真正面から喧嘩を売るスタンスの時点でお察しだ。嫌いではないのだが。
受け取った記録メモリーを自前の情報端末で読み込むと、精巧な機械の設計図が現れる。別に無人兵器のことはどうでもいい。私の仕事ではない。ページを送ると、目当ての情報も出てくる。……面倒な素材だ。これでは機械を動かす為に討伐対象を必要としてしまう。正直に言おう。馬鹿じゃないのか。
「……えーっと、素材があれと……この血液は無いから依頼、あと粘土質は素材屋で売ってるかな……ああ、面倒だ……」
久々の仕事は、過去に類をみない馬鹿らしさであった。受けなきゃ良かった、という後悔を抱きながら、私は独り言を紡ぐ。癖のようなものだ。メモの代わりに口に出して覚える。どうせ誰も聞いていないのだ。
この仕事が、やがて唯一のお得意様となる馬鹿科学者との出会いの始まりであった。