即興短編集   作:遠名 彬

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お題:夏の狙撃手
制限時間:一時間


夏の日、都会の真ん中で

夏は嫌いだ。暑い。気持ち悪い蒸し暑さと喧しい蝉の鳴き声が、どこまでも私の精神を逆撫でする。自然現象にとやかく言うほど不毛な事も無いだろうが、それでも文句が口をつく。

 

「あー……はやく秋にならないかなぁ」

 

もやもやした気分を抱えながら、私は帰路を歩く。なんだってこんな猛暑の日に出かけなきゃいけないのか。理解に苦しむ。早く冷房の効いた我が家に帰って、ぐうたらしながら日々を浪費する休暇に戻りたい。

着信音で、SNSで呼び出しがかかった事を知る。ポケットから手の平サイズのPDA……個人用情報端末を取り出してロックを解除する。同僚たちが残業に発狂しているタイムラインを読み飛ばし、自分宛に送られてきた文章を読む。それはかつての同級生からの何の他愛も無い雑談で、私はそれに適当な返信を送る。

顔を上げれば、既に駅前通まで歩いてきていた。私は迷い無く駅のほうに歩いていく。私と同じように暑さに参っている人々が行きかうこの辺りは、大きな駅に似合った大都会である。周囲には天を突くような高層ビルが乱立し、足元は灰色の硬質素材に覆われている。周りを歩く人は周囲に気を付けるほど余裕がなさそうに忙しない。物質的な発展を優先した結果、精神的な豊かさが無くなってしまった……とは、意識が高そうな学者様の言だ。

私はそんな中を歩く。ちょうど改札が見えてきた。定期券を取り出して、内蔵されたICチップで自動改札を突破する……。

ふと、視線を感じた。周囲を軽く見回してみるが、しかしこちらを覗く不審者はいない。気のせいか、と思ってプラットホームに下りる。既に多くの人が電車を待っていて、ホームは混雑していた。元々蒸し暑い気温が、人の密集でもっと蒸し暑い。壁が無いから一応風が通っているが、その風は人の壁に阻まれて私に届く事は無い。

手で団扇の真似事をしながら、未だに感じる視線を探し続ける。そうして視線を上げて、周囲を取り囲むビル群に目を向ける。

……ふと、とあるビルが目にとまった。それは何の変哲も無いビルだけれど、その一角の窓から妙な光を見た。

ぴかり、と光る。それは太陽の反射か何かだろうと当たりをつけるが、光っているそこは反射しない筈の角度である。……なんだ?

ぱっと思いついたのが、最近はまっているゲームの一場面。近代的な世界の中で戦争をするゲーム。不自然に画面が光れば、そこにはスコープを覗いた狙撃手がいる合図だ。

しかし、これは現実だ。まさかそんな事は無いだろう。私はその光から視線を逸らして、ちょうど聞こえてきた電車の音に気を向ける。これに乗れば、私は無事に帰れる。あとは録り溜めたアニメを消化して、ゲームをして、ネットで馬鹿話をして……。理想的な休暇が私を待っている。

ちょっとだけ気合を入れて、私は前を向いた――。

 

《電車がまいります。黄色い線の内側へ――》

 

私の視界に、一人の男が映った。彼は電話で焦ったようにどこかへと通話しながら、電車が来るのを構わずホームギリギリに立った。

ばん、と空気の弾ける音。男は後頭部から赤い液体を撒き散らしながら線路内に落下する。誰も状況を飲み込めないままに電車はホームへ滑り込む。男は鉄の下に消えた。

 

――誰かの悲鳴。一気に騒がしくなるホーム。私が振り向いてさっきのビルを見ても、もう光ってはいなかった。

私は真っ直ぐ帰れなくなったことに少し憤って、面倒事に溜め息をついた。

ああ――これじゃあ、私がこの事件を担当する事になりそうだ。

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