制限時間:一時間
最近この話が連載染みてきたけど、お題がお題だから仕方ない。
「……妹?」
目の前にいる一人の少女を見て、私は自分でも珍しいと思う素っ頓狂な声を上げた。なぜなら私に妹はいない。そのはずなのだ。確かに下層の人々には出生届などという統制は存在しないし、私は親の顔も知らない。だから血の繋がった妹がいたとしても不思議ではないのかもしれない……が、少なくとも私は彼女を知らない。よくよく見れば顔は私に似てなくも無い……のだろうか。自分ではよく分からない。ただ、血縁者だからだろうか。何となく、彼女が私に関係した人間である事がぼんやりと感じられる。
「そうですよ、姉さん」
彼女は私より少し幼い顔で、声でそう言う。上目遣いで声を掛けられると、何となく心を許しそうになってしまう。いけないいけない。顔を自分でひっぱたいて気合を入れて、もう一度彼女を見る。彼女は不思議なものを見たような顔をして首を傾げた。かわいい。
「……私は貴方を知らない。けど、捜査を邪魔するなら帰ってもらう」
そうだ。私は今は捜査員。油を売っている場合ではないのだ。
姫君と呼ばれている女が行方不明になった、という情報を受けて、私は相棒の男と捜査に出た。なかなか外に出なかった私は久しぶりの外出を面倒だと思ったが、私が抜擢されたのはそれなりの理由があったからこそなのだろう。そう思って職務を全うする気で現地に赴いた。
そうして重要参考人と思われる少女と面会をしてみたら、彼女が突然私のことを姉だと、姉さんだと言い始めたのだ。
「邪魔なんて、とんでもないです。私はまさか姉さんが捜査員になっているとは思いませんでしたから、完全なる偶然です」
彼女の言をどこまで信じればいいのかは分からないが、少なくとも害を与える意思はなさそうである。私は溜め息を一つ、気持ちを切り替える。
「まあ、それは置いておいて。姫君の行方不明事件について、知っている事を話してくれる?」
「はい。私が知っている事はごく一部ですが……」
そうして自称妹が話し出した。なんでも彼女は姫君のファンらしく、毎日のように彼女を見に行っていたらしい。……私の親族だとしたら、色々と教育してやりたい。
「で、先日私が姫君様を見ていたらですね。どうやら彼女の近くにいる男たち……えすぴー? って言うんでしたか。彼らの中に見知らぬ男を見つけましてね」
「なるほど。続けて」
「新入りの男の子と言い争って、そのあとどこかに行ってしまったんですよ。護衛を放棄してですよ?おかしいと思いません?」
「……で?」
「私は姫君様を見ていたんですけど、やがて配給の時間が終わってお帰りになったんです。そこから先はわかりませんけど、そのいなくなった護衛の人が怪しいと、私は思うんです」
一言で済む情報を長々と喋った彼女。私とは正反対の性格だ。そりが合いそうに無い。だが情報は貴重だ。
「ありがとう。それだけなら、帰っていいわよ」
「ちょっと待ってください! 姉さんはこれから姫君様を探すんですよね!?」
「……そうだけれど」
「私も連れて行ってください! 姫君様が心配です!」
「駄目。たとえ本当に貴方が私の親族でも、“トカゲ”と一緒にいるのは良くない」
「“トカゲ”……? どういう意味ですか?」
私は彼女の問いには答えない。そうして部屋から出ると、相棒の男が壁に背を預けて立っていた。彼は私のことを認識すると、何も言わずに私の後に続いて歩き出した。
彼女が親族かは分からない。けれどたとえそうだとしても、私と関わって碌なことがあるとは思えない。心を許しそうになったのは否定しないが。癒しマスコットとしては悪くないかもしれない。
私はさらなる情報を求めて、姫君の身辺警護に当たっていた男たちの身元を探ることにした。妹の事は、これが終わった後でも遅くはないだろう。そう考えて。