即興短編集   作:遠名 彬

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お題:少年の能力者
制限時間:一時間

コテコテの能力物を目指した。某魔法少女っぽいのは仕様です。


現実の裏側で

冷たく張り詰めた空気の中、人影が二つ。太陽が沈んだ後も都会は人工的な光で満たされ、真昼のように明るい。自動車が煩く行き交い、時折クラクションの音が響く。そんな日常の一角で。

 

「チッ……ついて来んな!鬱陶しいんだよ!」

 

少年が荒々しく吐き捨てる。その視線の先には一人の少女がいた。二人は不自然に人がいない都会の闇の中を、常軌を逸した軌道で飛び回る。聳え立つビルを足蹴にして、三次元的な軌道を描いて飛ぶ。

 

「つれないわねぇ。私は貴方が欲しいだけなのに……」

 

必死に逃げる少年の後ろで、まるで疲れた様子も無く平然と追いかける少女。長い黒髪を風に揺らし、露出の多い服装で恥ずかしげも無く肌を晒している。

 

「それがお断りなんだよ!いい加減……」

 

少年は振り向きざまに両手を合わせる。その瞬間、眼前に幾何学模様で構成された魔方陣が展開される。紫色に淡く光るそれを見た少女は、僅かに眉を顰める。

 

「諦めろ!」

 

少年の掛け声と同時、その魔方陣から光が溢れる。そのまま質量を伴う光は少女に向かい猛進する。少女は実に面倒くさそうな顔をして、右手を軽く前に翳す。

 

「その程度で……可哀想に」

 

少女の右手の先からは、同じような魔方陣が展開される。少年のものよりは遥かに小型であるものの、それとは比べ物にならないほど力強く輝いていた。

衝突。眩い閃光が溢れる。少年はそれを見ずに一目散に後退する。懐から時代遅れの折りたたみ式携帯電話を取り出し、着信履歴に大量に記された番号にリダイヤルする。

コールが一回、二回。すぐに途切れる。

 

「もしもーし。どったの?」

 

相変わらず暢気で危機感の感じられない声がスピーカーから流れる。適当なビルの陰に隠れ、少年は口を開く。

 

「どうしたもこうしたも無い!またアイツが来た!今戦闘中!」

「あー、そうなんだー。頑張ってねぇ」

「本部に連絡、頼みますよ!」

 

一方的に怒鳴って切る。この調子だとどうせ一人で晩酌していたのだろう。少年はそう判断した。そして無傷で漂う少女の前に飛び出した。

 

「あら、お電話の時間はお終い?」

「ああそうだよ。本部のヤツらが来るまで、ちょっとばかし付き合ってもらおうか」

 

連絡は済んだ。この瞬間、少年の任務は逃亡から時間稼ぎに変わった。少年の力では少女には敵わない。そのことは少年が最も分かっている。しかし、それで情けなく逃げ回っているのは性に合わない。

 

「本部の……ねぇ。それまで貴方が持てばいいけど」

 

少女は妖艶に笑い、大きく手を広げた。きわどい服装のお陰で健全な少年が見るには少々過激であるが、少年は特になんでもなさそうに目線を逸らした。その顔は僅かに赤らんでいる。

 

「さあ、お姉さんと遊びましょう?」

 

見た目は少年とそう変わらない年齢の少女の周りには、いつの間にか無数の魔方陣が出現していた。それは一つ一つが青白く輝いており、凄まじい力が込められていることが少年には嫌でもわかった。

 

「はは……俺、生きて帰れるか……?」

「帰れるわよ。私たちのお家に」

 

少年の乾いた笑いと言葉に、少女は得意げに言った。夜の闇が、明るく照らされた。

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