制限時間:一時間
「お前は相変わらず素直じゃないなあ」
そんな風に言われたのは、もう何回目だろうか。幼馴染の彼はいつも私と一緒にいる。どちらが言い出したわけでもなく同じ高校に入学し、同じ電車で通学している。同じクラスだから下校時間も一緒である。知り合いは出会う度に一緒にいる私たちのことを恋人だの何だのと囃し立てるが、もはや様式美のようなものだ。
「素直になるほど心を許してるわけじゃないのよ」
素っ気無く返すと、彼は少しだけしょんぼりして“そうか……”なんて呟いている。軽口のつもりだったのだが、思った以上に効いたらしい……。少しだけ罪悪感。しかし謝るつもりはない。
私は、彼のことが好きだ。それは偽れない気持ちだ。しかしそれを伝えるつもりはない。叶わない思いならば、無理にエゴを押し通して悲しい思いをする位なら、胸の内にしまっておくのが一番だ。
「おはよう。相変わらずラブラブだなあ」
「やめてくれよ。そういう関係じゃないってもう何回も言ってるだろう」
声を掛けてきたのは、目に見えてちゃらちゃらした男だ。中学の頃からの知り合いである。こうして私たちを茶化すのはもっぱら彼の仕事であるのだが、知り合って数年が経つ今でも言ってくるのだから妙なところで根性がある。もう三桁になるだろう。
「お嬢さんもご機嫌麗しゅう……」
「やめなさい。あんたに言われても気持ち悪いだけだから」
寄ってきたのを適当にいなして、私は席に座る。幼馴染の彼はちょうど対角の席であり、休み時間でもない限りは顔を突き合わせる事は無い。高校に入学してからのその事実に毎度の如く一抹の寂しさを感じながら、一時間目の用意を始める。
「まあまあ。俺はお前の事が結構好きなんだぞ? 冷たくされると傷つく」
私の動きが止まる。今なんと言った? 私のことが好き? 私は彼のことが嫌いだ。
「知らない。一方的な好意は気持ち悪いわよ?」
「片思いはロマンに溢れてるじゃないか。女なのにそんな事もわからないのか?」
勝手に女のロマンを語られるが、私は別にそれを追い求めているわけではない。
「勝手に言ってなさい」
「でも……お前、アイツの事好きなんだろ? 立派な片思いじゃないか?」
「……はぁ?」
囁くような小さな声で言われた言葉を、私は理解できなかった。何故こいつが知っているのか。何でそれを私に言うのか。
「丸分かりだよ。告白でもしてみればいいんじゃないか?」
「……そんなに軽く言わないでくれる? 彼とは……っ!」
思わず声を荒らげそうになって、すんでの所で耐えた。こんな簡単に塞いでいた感情がむき出しになる。こんなところで爆発するわけにはいかない。教室の中には彼もいるのだ。
「……まあ、悪かった」
後味の悪い。一人になった席で、私は机に突っ伏した。どうしようもない事もあるのだ。今回の事もきっとそうだ。
私は現状維持が精一杯だ。それでいいのだ。関係が崩れるのは絶対に御免だ。
顔を上げて彼のほうを見れば、席の周りに数人の女子を侍られて楽しそうに笑っていた。そこに私の居場所はないだろう。教師が来るまでの間、私はひたすら耳を塞いでいた。