制限時間:30分
百合の花というものは、よく女性自身に当てはめられる。美しい女性は歩く姿も百合の花である、と古くから言われているし、毎朝見せつけられるアレも、世間一般ではきっと百合と呼ばれるものだ。
無論、私にそういう趣味は無い。
ここは女子寮。某有名大学に通う人々の中で、何らかの理由で自宅、もしくは下宿先から通学することを拒んだ女子たちが集う場所。向かいには同じくらいの大きさの男子寮も存在する。
最近では寮、といっても昔ながらの熱血体育会系のような繋がりは皆無であり、言い表すなら学校公認のアパートのようなものである。お互いの生活にはほとんど干渉しないし、あって廊下で挨拶を交わす程度だ。行事事なども存在せず、門限も寮母もいない。
しかし、そこは同じ学校に通う者同士である。同じ学部や学科に通う人々とは連日キャンパス内で顔を突き合わせて勉強するから、それなりの友情というか、連帯感のようなものは感じる。私がそうしている相手は殆どが実家通いなので寮内ではあまり目立たないが、中には一大ネットワークを築き上げている猛者もいると聞く。課題を見せ合いっこしたり自発的に勉強会を開いたりするのに、寮という環境はおあつらえ向きであるから、よく夜中にそういう事をしている声を聞く。大概後半は飲み会めいた雰囲気になって五月蠅いものだが、それでも大学生活を楽しんでいる雰囲気は伝わってくる。
そう、そんな彼女らの中には、衣食住を最も近い所で過ごすうちに心を惹かれる真性の百合女という魔物が潜んでいることもある。
毎朝寮の出入り口で夫婦漫才を繰り広げる女が二人。片方は先輩で、片方は同級生である。女三人寄れば姦しいと言うが、彼女らの場合は二人ですでに姦しい。
教材は持ったか。ハンカチとちり紙は持ったか。課題で忘れているものは無いか。休講の時間はあるのか。小学生の親と子供のような内容が大半だが、一々真面目に確認しては手を握ったり体を触ったり。そうして完璧であることを確認して、二人は軽くキスをして出かけるのだ。ここは公衆の面前だが、そういう事は気にしてはいないらしい。そもそもこんな朝早い時間……一限の開講一時間半前に、キャンパスまで歩いて10分の寮を出る真面目な学生は私くらいなものなのだが。
私は私でそんなに早く行って何をしているのか、ということだが。勿論講義の予習……をするほど真面目な学生ではない。歩いて歩いて、人がいなくなるくらいに歩いて。辿り着く場所はサークルの部室。私の第二の拠点であり、私のような不真面目な生徒が集う場所である。
アナログゲーム同好会。名前からして遊ぶ気満々なこのサークルは、去年同志たちによって設立されたできたてほやほやである。活動内容は推して知るべし、というやつだ。
私が部室の扉を開けると、炬燵にダメにされた同志たちが真昼間からカードゲームに興じていた。
こんな馬鹿らしい日常で、私の世界は回っている。それはとても素晴らしい、堕落した世界だ。