制限時間:30分
私は愕然とした表情で、隣に立つ彼に尋ねた。
「もしかして……家事?」
彼は肯定するように、にっこりと笑った。
―――――――
なんでこんな状況になっているかと言えば、それは今日の午前中にまで遡る。
朝。私は気持ちのいい朝日を浴びて、実に健康的に早起きした。時刻は午前6時きっかり。昨日寝たのが22時だから、ぴったり8時間の睡眠である。
今日は、私の彼氏とのデートの日だ。私ももう26である。大学を卒業して一般企業に就職して、彼とはそこで出会った。
始まりは劇的でもなんでもない。たまたま彼が私の教育係になったのだ。教え方が丁寧で、私もすぐに仕事に慣れた。以外とイケメンだった彼は教育係を外れても私の事を気にしてくれていて、たまに会っては仕事の話で顔を付き合わせていた。
そんなある日、彼は私をカフェに呼び出した。いつもとは違う雰囲気に少しだけ気圧されたけれど、会ってみれば何の事もない。告白だった。
私も彼のことが嫌いではなかったから、一も二もなく了承した。
それから何度かのデートを経て、今に至るのだ。いつかと同じような文面で、彼は私を呼び出した。私はなんとなく言い知れぬモノを感じた。直感で、彼は私にプロポーズをするつもりなのだろうと感じた。
だからこんなに朝早く起きているのだ。できうる限りのおめかしをして、何度も頭のなかでシミュレーションをして。きっと彼の前に出たら頭が真っ白になってしまうだろうけど、無駄ではないはずだ。
お昼頃。私と彼はいつもの待ち合わせ場所であるカフェで落ち合った。彼はいつにも増して緊張するような面持ちで、私もきっと同じような顔をしていた。奢ってもらった珈琲の味を気にする余裕などなく、美味しい美味しいと言っておいた。
二人で街を歩いた。ゲームセンターに寄った。カラオケをした。そうしているうちに、日は暮れ落ちていた。
「……なあ、話がある」
イルミネーションの綺麗な中で、彼は声を出した。ついに来たか。私も身を引き締める。
「……なに?」
声が震える。冬の寒さは容赦がない。それとも武者震いか。
「俺と――結婚してくれ」
それからの記憶は曖昧である。嬉しくって舞い上がって、何度も頷いて。涙も流した。
一連の興奮が収まった頃には、私は彼が住むマンションの前に立っていた。
たしか、やってほしい事があるとかだった。今まで彼の家に入ったことはない。少しばかりの期待を胸に、私はドアをくぐった。
――――――
そうして、冒頭に戻るのだ。
ドアの向こうの彼の部屋は見るも無惨に散らかりきっていた。ゴミの袋は二つ。脱ぎ晒しの洋服たちに、書類や書籍の山。お世辞にも人間が住める環境ではない。
私は、彼とのプロポーズを承諾したのだ。事実上は夫婦と言ってもいいだろう。しかしこれは……。
にっこりと微笑む彼の事が、初めて面倒な存在に思えた。