即興短編集   作:遠名 彬

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お題:僕の好きな部屋
制限時間:一時間


社畜の趣味

今日も一日の仕事が終わった。残業をこなしたので、外は既に真っ暗だ。僕はタイムカードを押すと、黙って会社を後にした。

 

僕は何か特筆すべき長所があるわけでもない、一般人である。普通に大学を卒業し、普通に会社に就職した。それ以外に言う事は特に無い。

 

一人で夜の町を歩く。周りでは騒々しい人々が騒ぎたてている。今日は金曜日だったか。通りで酒臭いオッサン共が大声で騒ぎ立てているわけだ。僕にはそんな馬鹿騒ぎをするような同僚もいない。一人で歩くだけだ。

飲み屋街を抜けて、車が騒がしく通り抜ける本通りに出る。そこでは路地への入り口ごとにキャッチが騒ぎ立て、ざわざわと止む事のない喧騒で溢れていた。

僕は一人でその中を歩く。スーツにも革靴にも慣れてきた。長時間歩いていても大して疲れなくなっている自分がいる。今日は早く帰れたほうだから、あまり疲労が溜まっていないのかもしれない。

僕は目的地に向かって歩く。そこは通勤に使っている駅からは少々遠いが、こうして早く帰れた日にはなるべく行くようにしている場所だ。

煌びやかに光り輝くビルの一角、大きく宣伝の看板が出ている自動ドアをくぐる。

 

「いらっしゃいませー」

 

やる気の無い店員に迎えられて入ったそこは、カラオケ屋である。天井のスピーカーからは最近流行りのJ-POPが流れ、入り口にあるダーツコーナーでは大学生らしき男が二人で黙々と矢を投げている。そんな場所。

 

「一人で。二時間でお願いします」

 

自分でもこなれてきたと思える応答で、手早く部屋を一つ予約する。店員はだるそうな雰囲気を漂わせながら、マイクとフリードリンク用のプラスチックコップを僕に渡した。かごに入ったそれを受け取って、僕は階段を上った。

 

204号室。二階の四号室。僕は開きっぱなしのドアの中に入り、中からドアを閉める。それだけで外の音が遮断され、聞こえてくるのは中にあるディスプレイで流れるくだらないアイドルの話し声だけである。

 

僕はこの空間が好きだ。外の音から遮断されたこの部屋が。いつか自分の家を建てる時は完全防音室が欲しいと何度も思っている。

マイクの音とディスプレイの音量をつまみを回して調節し、いつも通りの数値にする。そうしてマイクに軽く声を吹き込み、いつも通りの感覚である事を確かめる。

 

端末を操作して、自分のオンラインアカウントにアクセスする。最近はそれでいつも歌う曲を出せるので便利である。

いつも初めに入れる曲を送信すると、僕は思うがままに歌いだした。カラオケこそが、会社で磨り減った僕のストレス解消法である。

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