制限時間:一時間
「彼女はロシアからの交換留学生だ。さあ、自己紹介を」
教壇の上に立ったのは、いかにもロシア人、といった感じの少女だった。金髪蒼眼で色白で、綺麗だとしか言えないような顔立ちだ。どうして外国人だというだけであんなに綺麗なのだろうか。俺は最後列の窓際の席で頬杖をつきながら、たどたどしい日本語で挨拶をする少女のことを眺めていた。
うちの高校には、時たまこうして外国人が留学してくる。彼女もその一人であるのだろう。ぼけっと彼女を眺めていると、緊張しているだろう彼女が俺のほうを向いた。目が合った。
「……」
だからといって、何かがあるわけではない。彼女は普通にクラス全体を眺め回していた。たまたま俺のほうを向いただけだ。
「よし。アリサには……あー、あそこの席に座ってもらう。みんな、仲良くするんだぞ」
小学校みたいな言い方だ。まあ留学生が来る度に小学生というか幼稚園児みたいにクラスメイトが騒ぎ出すのだからレベル的には適正だろう。
窓の外は突き抜けるほどの青空で、今日は初夏だ。あと一週間かそこらで大型連休が来るという事で、クラスメイトたちの予定合わせの声は止まるところを知らない。ちなみに俺は完全フリーである。
「あ、あの」
右側から声を掛けられて、顔だけをそちらに向ける。目に映ったのは、真っ白な少女。先ほど挨拶をしていた少女だった。確か……アリサ、だったか。
「何だ? すぐ授業だし、席に戻ったほうがいいぞ」
そもそも、どうしてこちらに声を掛けるのだろうか。そんなに俺が気になるのだろうか。……そんなわけは無いだろう。
「いや、あの、ここ、私の席、ですよね?」
変な返答だ。そう思って、もう少ししっかりと彼女を見た。
彼女は既に席についていた。ちょうど隣の席だった。そこから半身を乗り出してこちらを見ていたのだ。確かに席には着いていた。
「……ああ、すまん。で、何だ?」
俺が体を直すと、彼女も普通に席に座った。そうして俺のほうを見て、一つ小さく咳払いをした。なぜだか様になっている。
「あの、私、アリサ、いいます。よろしくどうぞ、です」
微妙に変な日本語で、彼女は座ったままお辞儀をした。素材がいいと何をしても絵になるのだから、美人というのは便利だ。
「よろしく。俺は三城だ」
何となく右手を出すと、彼女は笑顔で左手を出してきた。友好の握手だ。彼女の手は柔らかかった。そして小さかった。
「ミシロ……さん。それは、みょーじですか?それとも、名前?」
「ああ、苗字だ。名前のほうが良かったか?」
「ハイ。できれば、なのですが」
確かに、外人は名前で呼び合うイメージがある。それを考えると苗字で呼び合う日本は独特なのだろうか……。ここは日本だが。
「芳夫だ。三城芳夫。好きに呼んでくれ」
そう言うと同時に、教室の扉が開いた。どうやら時間のようだ。俺は一応怒られないように教科書を取り出し、机の上に置いた。隣のアリサも教科書を取り出した。そうして軽く頬を叩いて、吐息を一つ、吐き出した。
……気合の入れ方はどこの国も変わらないのか。どこか色っぽさすら感じる彼女はとりあえず置いておいて、俺は窓の外を眺めた。
この授業が終われば、彼女はクラスメイトたちの包囲網に囲まれて、回答に四苦八苦することだろう。隣で騒がれてはたまらない。俺はどうやってこの席から脱出しようかと、青い空を見上げた。