制限時間:一時間
きのうは普通に忘れてました。
わたしは自分があまり好きではない。すぐ卑屈になる心とか、そういう内面的なものはまあ原因の一つではあるのだが。やっぱり一番嫌なのは――。
「さあ、頼むぞ。お前の耳が頼りだからな」
「わかってますよ。静かにお願いします」
――この耳だ。
わたしは生まれつき耳がいい。それは人と比べてそれなりに……という次元のものではなく、それはもう、他の人からの私の存在意義が聴覚だけになるくらいには良かった。
わたしはあまり、人と関わるような社交性のある人間ではない。しかしギルドに登録する際の聴覚検査で、人間とは思えないほどの異常な聴覚を持っていることが発覚し、否応無く交流関係を広げる事となった。
わたしに近づいてくるその殆どが、わたしの耳が目当てなのだ。わたしを見てくれる人はいない。有益な存在の有益な部分にだけ目を向けるのは間違った事ではないだろう。きっと逆の立場ならわたしもそうしている。けれど当事者となれば話は別だ。
「……二時。それと……八時に一匹。あとは……十一時に不審な物音。要注意」
「聞いたな。各自事前に決めた分隊に分かれて各個撃破だ」
依頼主である現部隊の隊長の指示に従って、隊員たちはそれぞれの行動を開始した。わたしは隊長の傍で、彼に護衛されつつ耳で周囲を索敵する役目だ。聴覚を最大限に生かした立場ではあるが、精神的に疲れるのと、暇だ。
「……ふぅ。今日の任務はこれでお終い、かな」
「まだ終わってないぞ。だが……お前の耳にはいつも助けられている」
隊長は少し真面目なトーンでそう言う。しかし心なしか顔が緩んでいるから、彼の中でもこの度の依頼はもう終わったも同然なのだろう。私の中でもそうだ。どうせ有象無象の魔物をかるーく討伐して帰るだけだ。何の苦労も無い。……フラグではないことを祈っている。
「まあ、これくらいしか取り得は無いですからね……。お役に立てているなら光栄です」
「そう言うな。お前は耳だけではない。もっと自信を持て」
彼はわたしの肩を叩く。それは年を食った大人の余裕か、それとも男としての力強さか。いまだ成人すらしていないわたしにはよく分からない感覚だが、きっとそういうものだ。
それに、私のことを真面目に見てくれる人は彼くらいなものなのだ。使い捨てられない依頼元は彼しかいない、と言い換えてもいい。散々使われた挙句人手がどうだとか理屈をこねられて敵地のど真ん中に捨てられたのはもう何年前だっただろうか……。アレのお陰で若干人間不信があるのは否定できない。
「帰ったら、飯の一つでも奢ってやる。日頃の礼だ、遠慮するなよ」
「ああ、それはどうも……。助かります」
実際任務報酬はしょっぱいので、素直に生活に助かる。戦わないからってギルドの下っ端もびっくりの薄給なのはどうかと思う。お陰で日常生活すらカツカツだ。
特に何事も無く任務は終わり、わたしは護衛に守られながら帰還した。自分の耳は嫌いだが、それで生かされているのだから文句は言えない。人のお金で食べる焼肉は、最高に美味しかった。