制限時間:30分
少し遅れた3/9分。
読書の秋。芸術の秋。食欲の秋。人々はなぜだかこぞって秋に枕詞をくっつけて、その日々を意味あるものにしようとする。私にとっては運動の秋だ。
暑くもなく、寒くもなく。いや、少しだけ肌寒いくらいだ。そんな気温は運動するには最高の環境である。
ランニングシューズの紐を結び直し、軽くかかとを地面に打ち付ける。丁度よく靴がフィットしたところで、私は一つ、小さく息を吐いた。
地面に両手をつき、腰を引く。そして、心の中の合図で駆け出す。
走り始めた私は、吹き抜けていく気持ちのいい風を体全体で感じながら、見慣れた風景のグラウンドを駆け抜ける。
無理のないペースで、私以外誰もいない校庭を回り続ける。一周、二周と重ねる旅、段々と体が火照り、いっそう風が心地よくなっていく。
しばらくそうして走り回り、いいところできりをつけた私は、私物が置いてあるベンチを見やった。
「お疲れさま。相変わらず速いねぇ」
そこには、一人の男子生徒が座っていた。この学校の入学動機の半分以上を占めるであろう洗練されたデザインの制服を身に纏い、細い銀縁の眼鏡をかけた少年。私と同じ学年で同じクラスの、帰宅部だ。
「そこで何をしてるの?帰ったかと思ってた」
「帰る予定だったけど、教室から君が走ってるのが見えたから。なんとなく来てみただけだよ」
彼は悪戯っぽくそう笑う。その顔は可愛らしく、彼がクラスの女子からそこそこの人気を博しているのが何となく分かる。結局顔が判断材料なのだ。そういう彼女自身面食いの気がある事を自覚している。
「見てて楽しいものじゃ無いでしょう。君も一緒に走ってみる?」
彼から手渡された水筒で水分を補給しながら、なんとなしにそう言ってみる。彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「僕が?んー、確かに最近運動してないし。たまには動いてみてもいいかもね」
上着を脱ぎながらそう言うのだ。私も断ると思っていたので、少し驚きながら彼を見る。
「なに、走るの?」
「走っちゃいけないか?」
既に準備万端、といった感じで彼は軽くジャンプする。その姿は不思議と出不精の多い帰宅部のそれには見えず、むしろ長いこと運動をしてきた人のようだ。
流れるようにクラウチングスタートの構えを取り、彼は走り出す。目標は決めていないだろうが、走っている彼の顔は爽やかに笑っていて、実に楽しそうに、そして真面目に走っていた。
悔しいが私よりも早いそれを見て、私の中のアスリートの意識がむくむくと立ち上がってくる。ただの帰宅部に負けていては、陸上部の名が泣く。
「私も、もうちょっと走ろう」
ちょうど一周してきた彼の横につく。彼は私を横目で見て、何も言わずにギアを上げる。
私も追いすがるように速度を上げる。
そんな秋の日。私にとっては秋は運動する季節だ。結局彼に持久力で負け、グラウンドに二人で倒れて笑った。たまにはそんな日も気持ちがいい。