制限時間:一時間
タイトルは気にしないでください。
「……なんで私はこんなところに……」
高級なベッドから上体だけ起こして、私はぼそりと呟いた。何とか痛む頭を抱えて、昨日の事を思い出す。私は――。
私は、どこにでもいる普通の少女だった。特に特技があるわけでもなく、何か特別な事情を持っているわけでもなく。親は一般的なサラリーマンとパートの共働きで、私は都会の高校に通う女子高生。これ以上なく普通の家庭の普通の少女だ。これだけは自信を持って言える。
そんな私の日常は、昨日まで続いていた。そう、つい昨日までは。
昨日、私はいつも通りに学校へと行った。いつも通りにつまらない授業を受け、友人とマンネリ化した受け答えをして……。何も考えずに日を過ごしていた。
最後の授業を受けた頃には、既に空は赤く染まっていた。今は冬前で、日が落ちるのが早い。何となく窓の外を見て、今日も一日が終わった、と思っていた。
授業を終え、私は学校を出た。そんな時、校門の前に見知らぬ車が止まっているのに気がついた。真っ赤な車だった。いまどき見ないスポーツカーであった。何となく不思議に思って寄ってみると、中には一人の女性が眠っていた。
シートを倒し、目のところにタオルをかけて、女性は静かに眠っていた。その豊満な胸部が性別を主張しているから女性だと分かるのだが、そうでなければその顔から性別を判断する事はできなかっただろう。そう思えるような中性的な顔であった。
「……ん?誰だお前?」
そうやって車の中を覗いていると、後ろから不意に声を掛けられた。驚いて肩をびくりとさせて、私は恐る恐る振り向く。
初めに目に入ったのは、ビニール袋に入った缶コーヒーの山だった。見てもいくつか分からないほどに多くの、まったく同じ種類のコーヒーが入った袋を軽々と持つ、男の人が立っていた。
「……あ、ごめんなさい」
やたらと目つきの悪いその男にビビッて、私は一歩、車から遠ざかる。そして、帰ろうと帰り道に足を向けた。
一歩を踏み出した瞬間、ありえないほどの命の危険を感じた。衝撃に心を飲まれるような謎の圧力を感じて、私は固まった。
「おい、危ないぞ!」
男の叫び声で、私は正気を取り戻した。急いで先ほどの車のほうを振り返ると、ちょうど一人の女性が車から出てきていた。先ほど寝ていた女性だ。
「いいか、そこを動くな。振り向くな。すぐ終わる」
私の近くに来た男が、缶コーヒーを私に手渡しながら言った。先ほど叫んだくせに妙に悠長だ、と不思議な違和感を感じながら、私はコーヒーを受け取った。
「……なんですか、これ?」
「まあ、あんまり現実的じゃあないものだ」
気の抜けた風に言う男は、まるで何も起こっていないように振舞っている。しかし私の背後を絶対に見ようとしない。女性は私の横を通って後ろに行ったのに、彼は何もしないのだろうか……。なんどか気になって振り向こうとしても、男の人が遮ってくる。ただならぬ気配を感じるので私もなんとも言えず、ただコーヒーを啜っていた。
そうして、何分経っただろうか。現実離れしたその数分は、すぐに終わった。一際大きい音がして、私の隣の男がちらりと私の後ろを見た。そうして無言で頷くと、私を置いて車へと戻って行った。どこか疲れたような雰囲気の女性も歩いてきて、何事も無かったかのように車に乗った。
「……あ、あの!」
さすがにこのままお開きというのは消化不良すぎるので、声を張り上げた。男の人はそれでこちらを見て、そうして手招きした。
「お前も、巻き込まれたんだ。こっち側だよ」
不思議な言葉を聞いた途端、まるで吸い込まれるように私の意識は遠のく。抵抗しようとしてもできず、硬いコンクリートの上に倒れていった……。
そうしてこうなっているのだ。まったく意味が分からない。私は説明を求めて、ベッドを降りる。これから三流アニメのような日が訪れる予感を、うすうす感じながら。