フォロワーのちまきさん(@U9Works)が描かれていたワンドロ絵を見て浮かんだ話です。
タイトル通り、ナカジマとホシノの話となります。
宜しければご一読下さい。
5/6 誤字訂正と一部修正。
ピタリ、と停止線に停まった車のドアが開いた。
降り立った人物は、ヘルメットを脱ぎ髪を揺らした。
そこに近づく、別の人影。
「ホシノ」
「あ、ナカジマ。どうだった?」
「また新記録だね。流石、チーム一速い女だね!」
ナカジマの言葉に、フッと表情を緩めるホシノ。
「でも、いいの?」
「何が?」
「ナカジマだって、走らせたいんじゃないかって。なんか、いつも整備ばかりさせちゃってるし」
「いいっていいって」
「でも……」
「最近、走らせる以上に整備が面白くってさ。自分のチューンでホシノのタイムが短くなっていくと嬉しいんだ」
「そう? それならいいけど」
「それより、ホシノも一緒にエンジン周り見て欲しいんだ。ちょっと、試したい事があってさ」
そんな遣り取りをする二人、傍目から見ても大の仲良しと言えた。
出身地の違う二人が出会ったのは、とある自動車レース。
元々モーターファンだった二人は、両親にせがんでしばしばレース観戦に足を運んでいた。
自動車レースの最高峰は勿論F1グランプリだが、それ以外にもレースは数多く開催されている。
たまたま二人が揃って観戦したレース。
観客がまばらだった事もあり、同じ年の二人は何となく言葉をかわした。
そして、当然のように意気投合。
連絡先を交換して、メールやSNSでやり取りする仲になった。
そんな折、ナカジマの両親が転勤で茨城県に引っ越す事に。
意図した訳ではないが、家もホシノの近くに決まった。
会いやすくなった事に二人は喜び、互いの家に頻繁に遊びに行くようになる。
こうして親友になると、今度は一緒に実際のモータースポーツに携わりたいと考えるようになった。
双方の両親に理解があり、また我が子の熱意を見たのか地元のチームに入る事をすんなりと承諾。
知識と言えば試合観戦や本での事ぐらいであり、加入当初は当然基礎から学ぶ事になった。
そのうちに、ナカジマとホシノはそれぞれに適性を発揮し始めた。
勿論、一通りの事が水準以上にこなせた上での話。
ナカジマは元々機械いじりが好きだった事もあり、整備技術がぐんぐん上達していく。
一方のホシノは、ドライビングテクニックで才能を開花させていた。
自然に、二人の役割は定まっていく。
華やかで目立つ存在のドライバーと比べ、縁の下の力持ちであるメカニックはどうしても地味な存在になってしまう。
ホシノはナカジマの整備に絶対の信頼を抱きつつも、一方で自分ばかりスポットライトを浴びる事に申し訳なさも感じてしまっていた。
それで、度々このような会話が繰り広げられていた。
ナカジマもそれはわかっているので、時折逆の立場にもなったりしていた。
ナカジマにしても、整備やチューニングの結果がどうなるかを自分で確かめる意味もあってそれはそれで楽しんでいた。
ホシノも整備が嫌いだった訳ではないし、腕も決して悪くなかった。
そんな二人が組んでいるのだから、結果は自ずと出てくる。
いつしか、二人は地元では有名な存在になっていた。
そして、年は過ぎ。
中学三年生となった二人は、進学先を決める時期となっていた。
女子高だけではなく、共学の高校で自動車部を持つ学校からの誘いも数多く来ていた。
中にはかなりの好条件を提示してきた学校すらあった。
そのぐらい、二人は有名になっていた。
「ホシノ、どうするか決めた?」
「ううん、迷ってる。けど」
「けど?」
「ナカジマと一緒の学校がいいな。これからも一緒に走らせたいし」
「勿論! とりあえず、話を聞いてみてからかな」
二人が整備をしながらそんな話をしていた時。
一人の人物が、二人を訪ねてきた。
直接スカウトが来た事はあるが、聞けば教員ではなく彼女らと同年代との事。
訝しく思いながらも、二人はとりあえず会う事にした。
「初めまして。私は大洗女子学園一年のテラダ、よろしく」
「あ、こちらこそ。私はナカジマです」
「ホシノです」
テラダと名乗る高校生は、人好きのする笑顔を見せた。
「いきなりでゴメンね。実は、二人をうちの学校に招待しようと思って」
「招待?」
「スカウトじゃないんですか?」
「勿論、うちの学校に来てくれたら嬉しいけど……」
と、テラダは頭を掻いた。
「うちの学校、他の学校みたいに裕福じゃないんだよ。だから授業料免除とかそんな事はとても無理なんだ」
率直なテラダの言葉に、ナカジマとホシノは思わず顔を見合わせた。
「だから、まずは招待って訳。うちの学校、同じ県内だから近いしどうかな?」
「それはありがたいんですが……」
「何かな、ナカジマさん?」
「どうして、テラダさんが? 普通、こういう場合って先生とかが来られるんじゃないかって」
「ああ、それなら話は単純なんだよ。うちの学校、生徒の自主性を第一にしていてね。だから校外に出て何かをしたい場合、申請して通ればこうやって動ける訳さ。それに」
「それに?」
「会ってみたかったんだよ、凄腕コンビにね」
テラダは片目をつむってみせた。
「つまり、テラダさんも自動車部って事ですか?」
「その通りさ、ホシノさん。あ、別に招待したからってうちの学校に入学しろなんて言わないから。それは約束するよ」
ナカジマとホシノは、互いに頷き合った。
「そういう事でしたら、喜んで」
「今度の週末だったら、レースもありませんから」
「じゃ、決まりだね。大洗駅まで来て貰えたら迎えに行くから、時間がわかったらこの番号に連絡をお願いね」
こうして、二人は大洗女子学園を訪ねる事となった。
「これが学園艦……」
「凄い大きさ……」
女子高は学園艦に設けられているという事は知っていた二人だが、改めてその巨大さに圧倒された。
大洗女子学園学園艦は人口としては三万人、所属する大洗町の陸上部と比べても倍の人数が暮らしていた。
艦船である以上、運行させる人員が必要となるがこれは船舶科の生徒が担っていた。
高校生だけで対応しきれない問題は大人が手伝う事もあるが、基本的には口出しをしない。
これは大洗女子学園に限らず、全ての学園艦が同じ。
「これでも小さい方なんだよ。サンダース大学付属高校の学園艦なんて、うちのと並んだら小山と富士山ぐらいの違いがあるから」
「そ、そうなんですか……」
「聞きしに勝るってヤツですね……」
「あはは、まぁうちのを見ておけば他に行ってもあまり驚かなくなるかもね。じゃ、中に入ろうっか」
艦内に入り、エレベーターで上甲板へ。
航空母艦を模した構造の学園艦は、ここが街になっている。
大洗女子学園の校舎を中心に、住宅や商店、公園などが設けられていた。
周囲を見渡せば勿論海が見えるが、それがなければ地上と何ら変わらない。
台数は多くないものの、車も走っていたりする。
「ホシノ、これ完全に普通の街だよね?」
「ナカジマもそう思う?」
「確かに、風が潮の香りだけど……驚いたね」
「うん。コンビニとかスーパーまであるし」
物珍しそうにキョロキョロと街並みを眺める二人は、テラダに連れられ学園へと到着。
古さは否めないが、立派な校舎がそびえ立っていた。
その入口に、二台の車が停まっている事にホシノは気づいた。
「ナカジマ、あれ」
「え?……ポルシェ911ターボS!」
「流石だね。勿論、その隣もわかる?」
テラダの問いに、二人はその車に近づいた。
「ホシノ、ソアラだね」
「うん、Z20系かな」
「ご名答。どう、乗ってみない?」
「え?」
「ポルシェにですか?」
「違う違う。ソアラの方だよ、ポルシェは学園長のマイカーだから」
「ぽ、ポルシェがマイカーですか……」
若干引き気味のナカジマ。
一方のホシノは、ソアラのドアを開けて運転席に滑り込んだ。
クラッチを踏んでキーを回すと、ツインターボエンジンの心地よい振動が伝わってきた。
「これ、だいぶ手を入れていますね?」
「わかる? それ、うちの自動車部が日々チューニングした結晶なんだ」
「エンジン音が違いますから。あ、ボンネット開けていいですか?」
「いいよ」
ホシノは一旦エンジンを切った。
それからボンネットを持ち上げ、ナカジマはエンジンルームを覗き込んだ。
ホシノも運転席から降り、その隣に並んだ。
「これ……かなりのモンスターだね」
「いろいろと手を加えたのがよくわかるね」
「わかって貰えて嬉しいな。……あ、やって来たね」
そこに、五十代と思しき男が姿を見せた。
テラダを見て頷くと、ポルシェのドアを開けた。
「あれが学園長さ」
「そ、そうなんですか……?」
「あの……。それで二台並んでいるのはどういう事ですか?」
「もし良かったらだけど、学園長と勝負してみない?」
唐突なテラダの提案に、ナカジマとホシノは目が点になった。
「どういう事ですか一体?」
「見ての通り、学園長も車好きでね。機会があれば、私達も勝負してるんだけど……」
「?」
言い淀んだテラダに、二人は首を傾げた。
「私達のメンバー、整備は好きなんだけど走行技術の方が今ひとつでね。この子を乗りこなせなくてなかなか勝てないんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。それで、二人に是非乗って貰いたいって思って。学園長に話したら、入学の話抜きで大乗り気になったんだよ」
「そうでしたか。ホシノ、どうする?」
「私は構わないけど……。一つ、聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「勝負って言いましたけど。もし負けたら、入学しろって事じゃないんですね?」
「ああ、それはないから。純粋に勝負してみて欲しいだけだよ」
「わかりました、そういう事なら。ナカジマ、いい?」
「私もいいよ。ホシノが、これをどう乗りこなすか楽しみだから」
「じゃ、決まりだね。コースは学園艦一周で」
ホシノはナカジマとグータッチを交わし、ソアラに乗り込んだ。
「じゃあ、位置について。三、二、一……スタート!」
テラダが勢い良くフラグを振ると、ソアラとポルシェは勢い良く走り出した。
そして。
学園長のポルシェは途中でコースアウトし、艦橋に激突。
怪我こそないものの走行不能になってしまった。
一方のホシノは、初めて走るコースにも関わらず巧みな走りで無事走り抜け戻ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「うん、楽しかった!……途中で相手がリタイヤしちゃったけど」
「あはは、学園長たまにやっちゃうんだよねあれ。だから、私達も全敗にならないんだけど」
苦笑するテラダ。
「でも凄かったよホシノさん。初めて乗ったこの子をあそこまで乗りこなすなんて」
「ええ、とても楽しかったですよ。でも、まだまだポテンシャルは引き出せそうですね」
「そうだろうね……。あのね、もし良かったらまた乗りに来て貰えないかな? ナカジマさんにも、チューニングに加わって欲しいんだ」
「え?」
「私も、ですか?」
「勿論。うちに来て貰わなくてもいいけど、もっとこの子でいろいろ試したいんだ。どうかな?」
ナカジマとホシノは、少し考えてから頷いた。
「いいですよ。私も、勉強になりそうですし」
「私もです。また、この子に乗ってみたいですから」
「本当? うん、助かるよ!」
こうして、二人は暇を見ては大洗女子学園を訪ねるようになった。
……そして、そのまま進路として選ぶまでに時間は要さなかった。
テラダのソアラへの想い、それが二人を運命づけた。
「……そんな事があったんだね」
「でも、それがなかったらこのメンバーは集まらなかったんだから。運命だよねぇ」
コスモスポーツを整備しながら、スズキとツチヤが口々に言った。
「ま、まさかその時は戦車の整備までやる事になるとは思わなかったけどね」
「そうだね。でも、私はナカジマと一緒にやれて嬉しいけどね」
今日も、いつものツナギ姿で油に塗れる自動車部の面々だった。
また何か浮かんだら更新します。
澤ちゃんの方はもう暫しお待ちを……。