ガルパン短篇集   作:はるたか㌠

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ふと思いついて亜美の過去話を書いてみました。


亜美と華

 蝶野亜美一等陸尉。

 陸上自衛隊富士学校の幹部教育支援や戦術の研究などを行い、全戦車部隊の模範とされる戦車教導隊に所属している。

 隊長は一等陸佐、一尉である彼女は幹部の一人でもある。

 最新型の装備である10式戦車は第一中隊に配備されている。

 あの若さでその地位にある、それだけでも彼女がエリートである事は疑いようがないだろう。

 戦車乗りとして優秀なのは間違いなく、それは学生時代に打ち立てた数々の伝説が物語っている。

 そんな彼女は、当然ながら多忙である。

 本来の業務もさることながら、戦車道連盟の公認審判員に日本戦車道プロリーグ強化委員としての役割もある。

 果たしてプライベートの時間はあるのだろうか、隊員達の中には首を傾げる者も少なくない。

 

「う~ん、やっと着いたわ」

 

 その当人が、駅を出て大きく伸びをした。

 鹿島臨海鉄道・大洗駅。

 エキシビションマッチでは駅前広場が砲撃でボコボコになったりした場所だが、当然ながら今は綺麗に修繕されていた。

 今日の亜美は、ジーンズにTシャツという軽装だった。

 普段のきっちりとした制服姿しか知らない人間が見れば、大抵はそのラフさに驚くかも知れない。

 

「ようこそ、大洗へ。お待ちしておりました」

 

 そんな彼女の前に、同じぐらいの背格好の女性が立った。

 大洗女子学園の新生徒会長、華だった。

 

「こんにちは、五十鈴さん。今日はお招きありがとう」

「いいえ、こちらこそご足労頂きありがとうございます」

「西住さん達は元気?」

「はい。来年に向けて、皆さんと一緒に頑張っています。……申し訳ありません、本当は皆さんでお迎えに上がりたかったのですけれど」

 

 視線を落とす華に、亜美は手を振る。

 

「仕方ないわよ。本当は、五十鈴さんだって忙しいんでしょう?」

「いえ、わたくしはまだ……。優花里さんや沙織さん達も頑張っていただいてますし」

「だから気にしないで。それより、早く行きましょう?」

「はい。ではご案内します」

 

 一礼し、華は歩き始めた。

 

 

 

 駅を出て、歩く事約十分。

 住宅街を抜け、商店街へ。

 

「変わらないわねぇ、この町も」

「そうなんでしょうか。普段は学園艦ばかりですので、あまり町は歩いた事がないのですけれど」

「そうよね。私の時もそうだったし」

「……あの。失礼ですが、蝶野さんは大洗にいらっしゃった事があるのですか?」

「昔ね。もう何年前かなぁ」

 

 そう亜美が呟いた時。

 道路を走ってきた軽トラックが、二人の前で停まった。

 運転していた男性が窓を開け、亜美に目を向けた。

 

「お、アンタは確か亜美ちゃん!」

「あら、お久しぶりですわ」

「いやぁ、べっぴんさんになったなぁ。いつ帰ってきたの?」

「ついさっきです。今日は、五十鈴さんに招待していただいたんですよ」

「そっかそっか。後でうちの店寄りな、お茶ぐらい出すからよ!」

「ありがとうございます」

 

 男性は手を振ると、そのまま走り去って行った。

 

「あの~。今の方、お知り合いでしょうか?」

「ええ、商店街の方ね。昔からお店をやっているのよ」

「そうなんですか。先程、何年前かに大洗にいらっしゃったと」

「そうよ。あ、ちょっとあのお店に寄りましょう。ちょっとお腹空いちゃったし」

「は、はぁ……」

 

 割とマイペースな華ですら、亜美には振り回され気味であった。

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

 テーブルに置かれた皿から、甘い香りが漂う。

 大洗名物の一つ、みつだんご。

 提供する店舗は今となっては数えるほどしかないが、その味に惹かれる人は少なくない。

 材料は小麦粉と水を混ぜ、焼く。

 それにみたらし団子のような蜜だれをかけるだけのシンプルな一品である。

 

「ふふ、相変わらず美味しそう。……それにしても、五十鈴さん?」

「はい、何でしょうか?」

「確かにみつだんごはおやつだけど……お昼食べてないの?」

 

 呆れたように話す亜美の視線の先には、山盛りとしか例えようのない程のみつだんごがあった。

 ちなみに亜美が頼んだのは、三本。

 軽く食べるのならこれが普通の量と言える。

 一方、華は小首を傾げて皿に目をやった。

 

「いえ、このぐらいなら普通じゃないのでしょうか?」

「いや、どう見ても普通じゃないんだけど……」

「?」

 

 華は黙々とみつだんごを平らげていく。

 店員も特に驚いた様子もなく、ただニコニコとしていた。

 

「ま、いっか。私も冷めないうちにいただきます……ん、美味しい」

 

 と、奥から年配の女性が姿を見せた。

 そして、亜美を認めると笑顔で側へとやってきた。

 

「あら、亜美ちゃん! 随分お久しぶりじゃないの」

「こんにちは、おばさん。お元気そうで何よりです」

「そりゃ、戦車道でこんなに大洗が盛り上がっているんだもの。病気なんてしてらんないって!」

 

 そう言って、豪快に笑った。

 それから、華に目を向けた。

 

「あんた、確かあんこうチームの人だったよね?」

「あ、はい。五十鈴華と申します」

「西住ちゃん、あの娘も凄いけど。この亜美ちゃんも凄かったんだよ!」

「え?……あの、失礼ですけど。蝶野さんとは一体どういうご関係なんでしょうか?」

「決まってるじゃない。この娘は、あんたの大先輩だよ! 大洗女子学園のね」

「まあ、そうだったんですか」

 

 驚く華。

 もっとも、リアクションはみほや沙織らに比べれば随分と薄いのだが。

 

「残念ながら優勝旗は持ち帰れなかったんだけどね」

「でもあの時は盛り上がったねぇ。特に十二時間に及んだ決勝戦とか!」

「じ、十二時間ですか?」

 

 優花里に肝が座っていると評される華も、これには驚いたらしい。

 数々の激戦を潜り抜けた彼女ではあるが、半日ともなると流石に未経験だった。

 その間撃破されずに戦い続けるだけでも至難の技だが、何より人間の集中力はそこまで長時間維持など出来ない。

 実際の戦争とは違いあくまで戦車道は武道であり安全には配慮されているとはいえ、それとこれとは話が別。

 

「生徒会長さんも、そのぐらい知っておいた方がいいよ。ここいら辺の大人には当たり前の話だからさ」

「は、はぁ……申し訳ありません」

 

 華は亜美に顔を向けた。

 

「では、蝶野さんが最初に教官役を引き受けていただいたのも……?」

「ええ。私が卒業して少ししたら、大洗女子学園の戦車道はなくなる事が決まったの。寂しかったけど、私は当時防大の学生でしかなかったし……。わかってると思うけど、戦車道は人数も必要だし何より費用が膨大にかかるのよ」

「県立高校でしかない大洗女子学園には、その負担に耐えらなかったんですね」

「そうね。それでも暫くは寄付が続いたし何とかなってたんだけど……」

 

 店の女性が、ため息を吐いた。

 

「運がなかったよねぇ。ちょうどあの頃、景気が一気に落ち込じまってさ」

「そうでしたね……。それで、寄付金が一気に減ってしまったと聞きましたから」

「おまけに県知事選があって、新しい知事は赤字削減を掲げて当選したから。大洗女子なんて槍玉にされたりねぇ」

「あの……。まさか、その時も廃校の話があったんでしょうか?」

「五十鈴さん、流石にそこまでは話が発展しなかったわ。ただ、戦車道は打ち切りが決まったけどね」

「戦車も売りに出されちまってねぇ。亜美ちゃんの愛車もそれっきり」

「ですが蝶野さん。学園艦には、戦車が何輛か残っていましたけど」

「ああ、あれね。……あれはね、実は売れ残りなの」

「売れ残り……ですか?」

「そうよ。戦車道は勿論当時も他の学園艦では続けられていたし、主力戦車はすぐに買い手がついたの。でも装甲が薄かったり整備が大変な車輛は結局そのまま。処分するにも費用がかかるから、それなら学園で保存する……そうなる予定だったらしいんだけど」

「保存費用の見積もりが県議会で論争になってしまってねぇ。使いもしない戦車に税金を無駄遣いするのはけしからん、って」

「そうでしたわね、おばさん。で、結局予算案は否決されて半ば不法投棄みたいな形で学園艦のあちこちに放置されていたのよ」

「そうだったんですか……。わたくし、ちっとも存じませんでした」

 

 落ち込む華。

 そんな彼女の前に、何かが差し出された。

 濃厚な牛乳から作られたソフトクリーム、この店の隠れた人気メニューだ。

 

「あの……?」

「食べな、これは奢りだから。女の子がそんな辛気臭い顔するもんじゃない、折角の美人さんが台無しじゃないか」

 

 店の女性は、屈託なく笑う。

 

「知らなかった事を今知ったんだ。勉強になったじゃない」

「…………」

「そうだろ、亜美ちゃん?」

「はい。五十鈴さん、溶けちゃう前にいただきなさい。知らない事は恥じゃない、それにこれは昔話だから。大洗女子学園の歴史はこれからもまだ続くんでしょ?」

「……はい! では、有り難く頂戴します!」

 

 華はにっこり笑うと、ソフトクリームを受け取り口に運んだ。

 

 

 

 夕方。

 二人の姿は再び大洗駅にあった。

 

「今日は付き合ってくれてありがとう、五十鈴さん」

「いえ。あの、本当に学園艦にお立ち寄りになりませんか?」

「また今度にしておくわ。これもあるし」

 

 そう話す彼女は、トートバッグやリュックに詰められたお菓子や地酒に目をやった。

 自分で買った物もあるが、ほとんどが商店街を歩いていて誰かしらに渡された物。

 華はその度に目を丸くしてしいた。

 

「あの……。一つだけお伺いしても宜しいでしょうか?」

「いいわよ?」

「……角谷さんが戦車道を復活させると言い出した時、蝶野さんにもお知らせが行ったのでしょうか」

「どうして?」

「蝶野さんは戦車教導隊所属と伺っています。本来なら戦車そのものの指導は職務や専門とは違いますよね?」

「ああ、それなのに私が教官としてやって来たのは不自然だって事?」

「はい」

「そうでもないんじゃないかな? 五十鈴さん、私は確かに自衛官だけど別の肩書きを忘れてない?」

 

 そう言われ、華は顎に指を当てた。

 

「戦車道連盟の公式審判員……でしょうか?」

「それもあるけど、ハズレ。戦車道連盟のプロリーグ設立に向けての強化委員としては、近い将来を担う存在として高校生選手やチームの動きはどうしても気になっていたの。その中に自分の母校の名前があったら、五十鈴さんでも自分で見てみたいと思わない?」

「それは……そうかも知れませんね」

「でしょう? だから、その立場を使わせて貰った訳。でも、行って正解だったわ。心配していた西住さんにも会えたし……何より五十鈴さん達に知り合えたんですから」

「え? 私達……ですか?」

「ええ。母校の戦車道が復活しただけじゃなく、二度にわたる廃校の危機まで救ってみせた。あなた達のお陰よ」

「そんな……。それに、それを言うなら蝶野さんのお陰です」

 

 亜美は頭を振った。

 

「私は大した事はしてないわ。それに、私もただ母校の危機だからと言うだけだったら……あんなにあなた達に肩入れする事はなかったでしょうね」

「では、どうしてですか?」

「そうね。あなた達の試合が、戦車道が楽しかったから。この先もずっと見たかったから……それじゃ理由にならないかしら?」

 

 ニカッと笑う亜美。

 

「頑張りなさい、これからも。期待してるわよ、後輩」

「……はい。お任せ下さい、先輩」

 

 亜美は華の肩を叩くと、改札へ向かって行った。

 

 

 

「そっか。蝶野さんとうちの学校ってそんな因縁があったんだねぇ」

「意外ですね。でも、そう考えれば今までの事が全て腑に落ちる気がします」

 

 学園艦に戻った華は、生徒会室で一日の事を沙織と優花里に話した。

 

「でも、そんな話が聞けるんだったら私も行きたかったなぁ」

「武部殿、それは私も同じですよ。ですが……」

 

 優花里は、溜息をつきながら振り向いた。

 そこには、乱雑に置かれたダンボールの山が。

 

「廃校騒ぎで書類を全部しまって、まさかそのままだったとは……」

「もー、いつになったら終わるのよこれ! 戦車道関係の書類だけでも全然揃わないじゃん!」

「沙織さん。とにかく、手を動かしましょう。私も手伝います」

 

 華はそう言って、未開封のダンボールに手をかけた。

 学園の歴史が、また一日紡がれていく。

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