ガルパン短篇集   作:はるたか㌠

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明確な公式設定ではありませんが、この二人が同時期に所属していたら……そんなif話です。
ミカの設定はより非公式で説の一つに過ぎませんが、それを踏まえてご一読いただければと思います。


継続高校のとある一日

 継続高校。

 戦車道が盛んな学校であり、フィンランド軍をモデルとしている。

 サンダース大学付属高校や聖グロリアーナ女学院のように予算が潤沢ではない都合上、戦車も寄せ集めで強力な車輌はほとんどない。

 全国大会には毎年出場こそしているものの、殆どが初戦敗退の弱小校である。

 他のスポーツでもそうだが、強豪校ともなれば生徒は必然的に集まる。

 戦車道でも、黒森峰やプラウダなどは毎年応募が殺到し倍率も相当なものになっている。

 継続高校は定員割れにこそならないものの、それらと比較するとお寒い限り。

 当然、戦車道経験者も少なく有望株が来る事など期待もできない。

 それでも、歴代の隊長は必死に結果を出そうと努力を重ねていた。

 今年の隊長もまた、例外ではなく。

 

「う~ん……」

 

 編成表を前に、今日も唸っていた。

 彼女自身は、この学校にしては珍しく戦車道の経験が豊富だった。

 それならば他の強豪校に何故行かなかったのか、そう問われた事もある。

 だが、経験があればどの学校でも通用するとも言い切れない。

 強豪校は必然的に集まる生徒のレベルが高く、レギュラー争いも熾烈なものとなる。

 それに破れ、二軍や控えに甘んじる可能性も決して少なくはない。

 戦車道自体を楽しみたいのなら、そういった場所よりも寧ろ……と考える生徒も一定数存在する。

 彼女もまた、その一人だった。

 

「車輌は仕方ないとしても、メンバーだよなぁ……」

 

 ボヤく彼女。

 三年生となり、そろそろ次期隊長を選ぶ時期になっていた。

 今も副隊長を置いてはいるものの、残念ながら後を任せるには物足りない。

 他に適任も見当たらず、そうなると新入生から抜擢せざるを得なかった。

 継続高校は伝統的に操縦技術は高く、その意味で戦力として期待できそうな生徒は少なくなさそうだった。

 だが、戦車は動かすだけではどうしようもない。

 車長というだけなら、経験を積み鍛えればどうにかなるかも知れない。

 隊長は冷静な判断力と、何より他のメンバーを惹き付けるだけの何かが必要……彼女はそう考えていた。

 それで、何度となく新入生の経歴を眺めているのだが。

 

「ピンと来るような娘はいないなぁ……。とりあえず、いろいろやらせてみるしかないか」

 

 溜息をつくと、彼女は立ち上がった。

 

 

 

「皆さん、継続高校へようこそ。私は隊長のルミ、よろしく」

 

 集まった新入生一同を前に、ルミは挨拶を始めた。

 

「皆さんが知っての通り、我が校は決して強豪ではありません。ですが、戦車道を楽しむという点では他校に決して引けを取らないと自負しています」

 

 そう話しながら、全員を見渡す。

 ……と、ルミは一人の生徒に目を遣った。

 集まった新入生の一番隅、木の根っこに腰を下ろしてチューリップハットを被っている少女がいた。

 しかも、手にしたカンテレを優雅に奏でながら。

 話を聞いていない訳ではなさそうだが、一年生にしては妙にふてぶてしい態度とも言えた。

 咎め立てする事も出来たが、何故かルミはその気になれなかった。

(変わった娘だけど、何か気になる……。確かめてみるか)

 

「では、早速ですが動かしてみましょう。未経験者は上級生が指導します、右手に集まって下さい」

 

 その言葉に、一部の生徒がぞろぞろと移動した。

 件のカンテレ少女は、微動だにしない。

 つまり、戦車道経験者という事なのだろう。

 未経験者達は他のメンバーに任せ、ルミは残った経験者集団に向かって続けた。

 

「こちらは経験者のようですね。では、チーム編成を行います」

 

 継続高校所有の車輌で、比較的癖が少ないのはⅣ号J型、Ⅲ号突撃砲G型、T-34あたり。

 その中から割り振りを行おうと、ルミはメンバーを選び始めた。

 と、件の少女が立ち上がった。

 

「ちょっといいかな」

 

 上級生であるルミに対し、いきなりのタメ口だった。

 が、不思議とルミは腹立たしい思いは感じなかった。

 ミステリアスな雰囲気のせいかも知れない。

 その代わり、ルミも丁寧語を止めた。

 

「何だ?」

「乗りたい戦車を、選んでもいいのかい?」

「そりゃ構わないが、整備が済んでない車輌もある。動かせる奴の中からならいいぞ」

「じゃあ、アレでいいかな?」

 

 少女が指差したのは、BT-42。

 快速戦車ではあるが、継続高校が持つ車輌でも一番癖が強い。

 装甲も薄く、何より搭載している榴弾砲の設計が古く手間のかかる分離装薬式の為連続発射も出来ない。

 扱い辛い為にルミ自身もほとんど乗らず、試合でも出番は少なかった。

 

「……一応聞くが、どんな戦車か知っての事だろうな?」

「勿論さ。あの子が、私に乗って欲しいって呼んでいるのさ」

「なら好きにすればいい。じゃあ、メンバーは……」

「この二人でどうだい?」

 

 少女の傍らに、二人の新入生が立っていた。

 一人は背の低い、金髪のお下げ髪。

 もう一人は赤髪で、どことなく活発なイメージがある。

 付き合いの長さまでは窺えないが、どうやら三人は既に知り合いのようだ。

 

「いいだろう。その前に、名前ぐらい聞かせてくれないか?」

 

 少女はポロロン、とカンテレを鳴らす。

 

「私は名無しさ」

「おいおい、名無しはないだろう。それとも、名乗れないのか?」

「じゃあ、ミカとでも呼んでくれればいいさ」

「ミカ、な。そっちの二人は?」

「はい、私はアキです」

「私はミッコ!」

「わかった。じゃあ、三人でBT-42に」

 

 ルミがそう告げると、ミカは漸く腰を上げた。

 

 

 

「おいおい……」

「あれ、本当に新入生なのか?」

 

 好きに動かしたいと言うミカ。

 不遜とも言える態度にムッとするメンバーもいたが、ルミは敢えてそのままにさせた。

 ただの大言壮語なのか、それとも実力に裏打ちされた自信のなせる技なのか。

 お手並み拝見とばかりに、その行動を見守る事にした。

 ……そして、誰しもが呆気に取られていた。

 搭乗の際、役割分担については動かす前に各車とも必ず申告させていた。

 ミカの車輌については、車長がミカで操縦手がミッコ、装填手兼砲手がアキと認識している。

 BT-42が扱い辛い理由の一つが、狭い車内という事もあり三名で運用しなければならない事。

 操縦手は当然それに専念するしかないので、実質二人で装填と砲撃を行う必要がある。

 ……が、ミカは車長のみで他は全てアキがやっているというだけでも驚愕物としか言えない。

 114ミリ砲は分離装薬とは言えそれなりに重量はあり、加えて砲の仰俯角と旋回のハンドルが別々という構造。

 照準を合わせるには本来は別々の人員が対応しなければならないのに、それもアキ一人でやっているのだから。

 それでいて、静止しているとは言え的にはきっちりと当てている。

 アキのポテンシャルが高いのは勿論だが、果たしてそれだけだろうか。

 それに加え、ミッコの操縦技術も相当なもの。

 眺めるメンバー達の反応は、至極当然と言えた。

 

「こりゃ意外な拾い物……。いや、ひょっとすると……」

「ルミ隊長?」

「私の車輌、用意してくれ。整備は終わっているんだろう?」

「あ、はい。じゃあ、運んできます!」

 

 傍らにいたメンバーが、戦車置き場の方に駆けていく。

 それを見送りながら、ルミは無線機を手にした。

 

「ミカ、訓練中止! 元の位置に戻れ!」

 

 

 

 そして。

 

「あ~あ、負けちゃったね」

「惜しかったよなぁ。もうちょいだったのに」

「そうだね。でも、この勝負は人生に取って大切な事かな?」

 

 ルミが指揮するT-34とのタイマン勝負となり、ミカは敗れた。

 仮にも隊長であるルミとしては負けるつもりもなかったし、また負けられなかった。

 だから、一切手を抜かずに勝負に臨み……勝利を得た。

 が、その表情は厳しいまま。

 声をかけようとしたルミ車のメンバーも、それを見て思いとどまってしまう程だった。

 黙ってハッチから出ると、ミカ達に近寄った。

 アキとミッコはそれを見て立ち上がったが、ミカは我関せずとばかりにカンテレを奏でている。

 ルミもそれを気にする素振りも見せず、三人の前に立った。

 

「見事な動きだったな。もう少しで、こちらもやられるところだった」

「そうかな?」

「私も、事実を認めない程狭量じゃないつもりだけどな。アキとミッコは経験者だったな?」

「はい。中学ではずっと、装填手をやってました」

「私は始めた時から操縦手一筋!」

「……だろうな。で、ミカはどうなんだ?」

「…………」

 

 ミカは質問に答える事なく、素知らぬ顔をしている。

 

「あの変幻自在の動き、ミッコの操縦技術だけじゃないだろう。まさか、二人に任せっきりでただカンテレを弾いていただけじゃないだろう?」

「さあ、どうだろうね」

「アキとミッコが高いポテンシャルを持っているのはよくわかった。でも、戦車は車長次第だという事ぐらい私も重々承知している」

「この子が、こう動けって呼んだだけさ」

 

 掴みどころのないミカにも、ルミは動じない。

 

「アキ、ミッコ。ミカの指揮はどうだった?」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「確かに二役は大変でしたけど、ミカが言うタイミングで装填して照準を合わせて撃ったら外れる気がしませんでした」

「私も、ミカの指示で止まったり発進したりだったけど……絶妙だったかなぁ」

「二人はこう言ってるぞ、ミカ?」

「じゃあ、きっとそうなんじゃないかな」

「……なら、はっきり言おうか。ミカ、あの動きは島田流そのもの。自己流ではああはならない、違うか?」

「君がそう思うのなら、それでいいんじゃないかい」

「え? ミカ、あの島田流門下なの?」

「そりゃ凄いぜ!」

 

 ルミのみならず、戦車道に関わっている者であればその流派について多少なりとも知っていて当たり前。

 ましてや、西住流と並び称される島田流である。

 その門下生ともなれば、有望どころの話ではない。

 

「島田流でも西住流でも、それに意味はあるのかな?」

「大アリだろ、普通に考えて!」

 

 思わずツッコミを入れてしまうルミ。

 そして、フッと息を吐いた。

 

「ま、言いたくないならそれでもいいさ。ミカ」

「なんだい?」

「今日から、お前には我が校戦車道チームの副隊長をやって貰うよ」

「ええっ!」

「ふ、副隊長!?」

 

 驚くアキとミッコ。

 当のミカ本人は、相変わらず涼しい顔のままだったが。

 

「いいのかい? 素性も知れない一年生に、いきなりそんな大役を任せても」

「実力は見せて貰った、後は経験だけだろう? ミカなら、私なんかすぐに追い越してしまうかも知れないし」

「……風に流されてやってきて見れば。人生はわからないものだね」

 

 ポロロン、とミカはカンテレを鳴らした。

 

 

 

 それから、二年が過ぎた。

 

「ルミ副隊長!」

「なんだ?」

「は、はい! 大洗女子学園チームに、次々と増援が!」

 

 ルミはチームメンバーの声に立ち上がり、双眼鏡を手にした。

 

「こんにちは! 継続高校から転校して来ました!」

 

 草原の彼方から、見慣れた車輌が姿を見せた。

 白い車体に、大きく描かれた『継』の文字。

 見間違えようもない、あのBT-42そのものだった。

 

「来たか……ミカ。まさか、こんな形で勝負する事になるとはね」

「副隊長?」

「……油断するな。相手は高校生とは言え、楽な勝負にはならないかも知れないぞ」

 

 そう言ったルミは、不敵な笑みを浮かべた。

 立場を変えた二人の激突が、始まろうとしていた。

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