ガルパン短篇集   作:はるたか㌠

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ドラマCDを聴いていて、聖グロの話が書きたくなって考えてみました。
別作でもそうですが、ルクリリとローズヒップは公式設定で学年が不明の為それぞれ二年生と一年生の設定としています。


聖グロリアーナ女学院、新たな船出

 コポコポと音を立て、琥珀色の液体がカップを満たしていく。

 湯気と共に、香りが立ち上る。

 

「どうぞ、ダージリン様。アッサム様も」

「ありがとう」

「いただきますわ」

 

 聖グロリアーナ女学院での日常光景。

 オレンジペコが紅茶を淹れ、ダージリンとアッサムが嗜む。

 授業よりもティータイムの方が長いのでは、と他校から見ればあり得ない時間。

 それが此処での日常だった。

 

「そう言えば、こんな言葉を知っている?」

 

 また始まったかと、アッサムとオレンジペコは顔を見合わせる。

 ダージリンの格言・名言好きにも慣れたとは言え、あと半年は付き合わされるのは確実な二人。

 とは言え今更なので、黙ってダージリンの言葉を待つ。

 

「じっくり考えろ。しかし、行動する時が来たなら、考えるのをやめて、進め」

「……はい?」

「……ダージリン様。それってまさか」

「アッサムはわからないようだけど、ペコは知っているようね」

「は、はあ……。ナポレオンですよね、それ」

「そうよ。流石ペコね」

 

 満足気に頷き、ダージリンはカップを傾けた。

 

「いえ、そうではなく。いいんですか、ナポレオンの名言なんて使って」

 

 聖グロリアーナ女学院はあくまでイギリス風の、日本の高校である。

 とは言えただ校風がそうだという訳ではなく、考え方も英国風になっている生徒も少なくない。

 ナポレオンは言わずと知れたフランスの英雄だが、同時にイギリスからすれば仇敵でもある。

 ダージリンが名言として拝借する人物としては不適切……オレンジペコにはそう思えてしまう。

 だが、当の本人は意に介した様子も見せない。

 

「歴史がどうあれ、それを頭ごなしに否定するのは愚かね。柔軟さこそ、戦車道には大切なのよ?」

「ダージリン様。大洗に影響されたんですか?」

「うふふ。プラウダ戦で一生懸命に大洗を応援していたのは誰だったかしら?」

「あ……」

 

 赤くなるオレンジペコ。

 

「しかしデータによりますと、我が校では」

「わかっているわ、アッサム。だからこそ、さっきの言葉ですわ」

「仰る意味がわかりませんが」

「私もです」

「ペコもまだまだね。では、本題に入りましょうか」

「……話の枕が相変わらずわかりにくいですけど」

 

 ボソと呟くオレンジペコ。

 

「何かおっしゃいまして?」

「いえ。それで何でしょうか、ダージリン様」

 

 ダージリンはカップを置き、オレンジペコを見た。

 

「我が校戦車道チームの今後の事よ」

「今後、ですか」

「ええ。わたくしとアッサムはもう三年生。あと半年程で卒業よ」

「そうですね。そろそろ、次の隊長も決めませんと」

「そうよ。それでわたくし、ずっと考えていましたの。ですが、もう結論は出たから後は進むのみ」

「それで、ナポレオンだったんですね。……では、どなたを隊長に?」

 

 と、クスクス笑い出すダージリン。

 オレンジペコは訳がわからず、困惑した。

 

「ペコ、ここまで話してまだわからないのかしら?」

「申し訳ありません」

「ま、いいわ。ペコ、貴女よ」

「……はい?」

「だから、貴女を新隊長に任命すると言ったのよ」

「……え? ええーっ!」

 

 思わず、ポットを取り落としそうになるオレンジペコ。

 アッサムが素早く手を伸ばし、床が大惨事になる事態は避けられた。

 

「アッサム、ありがとう。ペコ、気をつけなさい」

「ど、どういう事なんですかダージリン様!」

「言った通りよ。ねえ、アッサム?」

「はい。私も賛成でしたし」

「…………」

 

 呆然となるオレンジペコ。

 が、すぐに立ち直ってみせた。

 

「ダージリン様、私まだ一年ですよ?」

「勿論、知っているわよ」

「二年生の方々も大勢いらっしゃいます」

「それなら問題ないわ。黒森峰のまほさんだって一年生から隊長を任されていたわ」

「西住流家元のエリートと比べないで下さい。第一、私は装填手しかやった事ないんですし」

「ええ、そうね。でも、貴女はずっとわたくしの隣にいたわね?」

「それは……そうですが」

「なら、わたくしの采配は貴女が一番良く知っているでしょう? そんな隊員は、他にいないわよ」

「…………」

「貴女がどうしても気が進まないのなら仕方がないけど。どうするのかしら?」

 

 オレンジペコは、どう返すべきか思い悩んでいるようだ。

 来年になれば、もしかしたら隊長や副隊長候補にはなれるかも知れない……そのぐらいならば彼女も考えた事はある。

 が、副隊長どころかいきなりの隊長指名。

 ダージリンがそれだけ自分を買ってくれていた事は嬉しく、光栄ではあった。

 が、だからと言って即答出来る程には心の準備は整ってはいない。

 オレンジペコは自信過剰とは無縁の性格であり、大胆よりは慎重と自分を見定めていた。

 

「ダージリン様」

「何?」

「ルクリリ様やローズヒップさんはどうなさるおつもりなんですか?」

 

 オレンジペコが挙げた二人は、車長だけでなく小隊長の経験があった。

 それがチームの総隊長に繋がるかどうかは兎も角、少なくとも車長すら未経験のオレンジペコよりは実績も上と言えよう。

 

「そうね。ペコが隊長なら、ルクリリは副隊長かしら。ローズヒップは……」

「クルセイダー以外には似合いませんね。チャーチルやマチルダIIは速度も遅いですし」

「そうね、アッサム。それに、あの娘は防御よりも攻撃で真価を発揮するタイプだから……」

「我が校の伝統を考えれば、不適任かと」

 

 ローズヒップについては口にこそしたものの、オレンジペコも二人の見方に異論はないようだ。

 性格ばかりは急には変えようもなく、またクルセイダーの快速を活かす方が聖グロチームには間違いなくプラス。

 

「ルクリリ様はどうなんですか?」

「悪くはないわ、だからこそ副隊長にと考えたのよ」

「ですが、それなら隊長をルクリリ様にして私が副隊長の方が自然だと思います」

「ペコ。同じ事を何度も言わせないで、わたくしは考えた末に進んでいるのよ?」

「…………」

「貴女も見たでしょう。大洗の、そしてみほさんの戦いぶりを」

「……はい」

「来年は間違いなく優勝候補筆頭ね。みほさんなら抜けた戦力をきっちり補強して来るでしょうから」

 

 それにはオレンジペコも同意せざるを得ない。

 戦車も不揃い、隊員は素人ばかりのチームを纏め上げ実力で全国大会優勝を成し遂げたのは快挙と言うよりない。

 例え対戦相手の慢心や油断があったにせよ、運だけで勝ち上がれる程甘い世界ではない。

 西住みほという実力の確かな指揮官あってこそではあっても、大洗女子学園自体の強さも疑いようのない事実。

 

「今のままでは、来年も我が聖グロリアーナが優勝旗を手にするのはかなり難しいでしょう」

「はい。データによりますと、現状で比較した場合でも大洗女子学園が優勝する確率は五割を超えます」

「それならば、尚更」

「ペコ。何も、来年優勝をしなければならないとは申しませんわよ?」

「……はい?」

 

 気の抜けたような声を出してしまうオレンジペコ。

 

「みほさんは確かに手強い相手。ですが、再来年には?」

「三年生ですね。……ダージリン様、まさか……?」

 

 ダージリンは頷き、カップを手に取った。

 

「そう。聖グロリアーナが目指すのは再来年の優勝。……勿論ペコが来年も優勝すると言うのならより結構だけれど」

 

 戦車道大会に参加する以上、どの学校も当然優勝を目指すのは当然。

 あのアンツィオ高校でさえ、チャンスがあるならば優勝とアンチョビが口にしていたのだ。

 だが、仮にも聖グロリアーナ女学院は準優勝経験もある強豪。

 先を見据えての事とは言え、ダージリンの決断はあまりにも大胆過ぎる。

 OGや隊員からも批判が出るのは必定で、そんな状態でオレンジペコが指揮など取れる筈もないだろう。

 確かにみほが引退した後ならば、如何に大洗女子学園と言えども勝ち抜くのは相当に厳しくなる可能性は少なくない。

 その間に戦力を整え、練度を上げ続けていたとしたら。

 他校も気を緩めたり手を抜く事はないだろうが、元々高い実力のある聖グロを自身も鍛え上げたオレンジペコが率いる……ダージリンが予想する成果を得る事も夢物語ではなくなるだろう。

 ただし、その為にはダージリンの壮大な構想に理解を得て皆に協力を得るのが大前提。

 

「少し、考える時間をいただきたいのですが」

「ええ、宜しくてよ。でも、早めに返事は聞かせて欲しいわね」

「時は金なり、ですか?」

 

 オレンジペコの言葉に、ダージリンは目を丸くする。

 そして、微笑んだ。

 

「まさか、ペコの方から諺を言うとはね。ふふ」

 

 

 

 オレンジペコは一人、戦車用ガレージへとやって来た。

 大洗女子学園とは違い、伝統ある聖グロリアーナだけあって設備一つ取っても本格的である。

 整備班が入念に各車両のチェックをしているのが見えた。

 

「ご苦労様です、みなさん」

「こんにちは、ペコさん。何か御用ですか?」

「いえ。ちょっと、チャーチルを見たいのですが宜しいですか?」

「ええ、どうぞ。整備は終わってますから」

 

 整備班長に許可を貰うと、オレンジペコはチャーチル歩兵戦車の側に立った。

 彼女は聖グロに入学すると、戦車道を選択。

 隊長のダージリンはその素質を見抜き、隊長車であるチャーチルの装填手に抜擢した。

 オレンジペコはその期待に応え、すぐに優秀な隊員にしか与えられない紅茶の名で呼ばれるようになった。

 彼女もその事は誇りに思っているし、ダージリンに対しても敬意を払っている。

 このチャーチルは、オレンジペコの戦車道そのものとも言えた。

 

「よっ、と」

 

 小柄な彼女だが、手慣れたもので車体にするするとよじ登る。

 ハッチを開け、車内へ。

 乗員五名のチャーチルだが、オレンジペコが座るのはいつも装填手の席。

 すぐ隣が車長席、ダージリンの指定席。

 もうすぐ、それも空席になる。

 

「……隊長、か」

 

 オレンジペコには、その情景がどうしても想像できない。

 常に優雅で冷静。

 的確な指示で強豪軍団を率い、結果を残してきた名隊長がいなくなる。

 世代交代は世の常とは言え、どうしても実感がわかない彼女だった。

 ……と。

 オレンジペコは車内を見回し、それからハッチを閉めた。

 そして、そっと車長席に座る。

 いつもと同じようで、違う視界。

 ……いつかは、この席に座る日が来るかも知れないとは思っていた。

 それが、すぐに現実になろうとしている……彼女の決断如何では。

 

「本当に……私でいいのかな」

 

 独りごちるオレンジペコだった。

 

 

 

「ペコ。起きなさい、ペコ」

「……ん」

 

 体を揺さぶられ、オレンジペコは目を開けた。

 彼女を覗き込むのは、ダージリン。

 

「……あ、あれ? ダージリン様?」

「姿が見えないからと探したら、こんな場所で寝てるんですもの」

「す、すみません……」

「それにしても」

 

 ダージリンは、オレンジペコの額を小突いた。

 

「考えさせて欲しいだなんて、ペコも一人前に焦らしたつもりなのかしら?」

「え? い、いえ。これは……その……」

 

 慌てて立ち上がろうとする彼女。

 ダージリンは微笑むと、手を伸ばしてハッチを開けた。

 

「ペコは自覚十分みたいだけど、どうかしら?」

「ペコが隊長で異議無しでございますわ!」

「私も、ペコの指揮を見てみたいですね」

「ローズヒップさんに、ルクリリ様?」

 

 ハッチから顔を覗かせた二人。

 どうやら、ダージリンと共にやって来ていたらしい。

 

「……ダージリン様」

「ペコ。わたくしはもう進むのみよ、貴女はどうするの?」

「……もう、選択肢もないじゃありませんか。わかりました」

 

 オレンジペコは立ち上がり、ダージリンに頭を下げた。

 

「不束者ですが、隊長の役目お引き受けします。改めて御指導御鞭撻、宜しくお願いします」

「そう……良かった。後の事は気にせず、頑張りなさい」

「はい!」

 

 

 

 後に数々の名勝負を繰り広げた伝説の隊長、オレンジペコ誕生の瞬間だった。




聖グロに関しては、ルクリリが隊長というのはどうしてもしっくり来ません。
となればペコを抜擢する他ない訳で。
その前提で、思い切って仮説を立ててみました。

同じような事がプラウダ高校でも起きそうですね。
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