ガルパン短篇集   作:はるたか㌠

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そんな設定をツイッターで見かけたので書いてみました。
こんな感じで本編が始まったとしたら、全然違う展開になりそうですが。

ちょっと長くなりましたが、宜しければご一読下さいませ。


もし、みほが沙織&華と別のクラスだったら

 昼休み。

 生徒達は連れ立って食堂、或いは購買へと向かう。

 弁当持参の生徒は天気が良ければ屋上や中庭へ。

 そんな中、ぽつんと一人教室に残る生徒がいた。

 

 西住みほ。

 熊本の黒森峰女学園から転校してきたばかり。

 中途半端な時期での転校という事もあるが、彼女はクラスに溶け込めずにいた。

 訳ありな雰囲気を放っているせいもあり、周囲はみほに関わろうともしない。

 お陰で、未だに友人はおろかまともに話せる相手すらいない状態だった。

 

「お昼、食べなきゃ」

 

 誰もいなくなった教室で、みほはポツリと呟く。

 溜息を付きながら、のろのろと立ち上がる。

 がたん、と机に足がぶつかり机の上にあったものが床に落ちてしまう。

 拾おうと机の下に潜ると、今度は頭をぶつけて筆箱が落ちた。

 要領の悪さというか、鈍さは相当なものらしい。

 何とか拾い集め、整理し終わる。

 

「はぁ……」

 

 溜息をつくが、反応する人もなく。

 みほは頭を振ると、教室の出口へと向かって行った。

 

 

 

 購買で売れ残りのパンを買い、牛乳で流し込んで昼食は終了。

 あまり人気のない場所を探すうちに、みほはレンガ造りのがっしりとした倉庫裏に来ていた。

 特に何も書かれておらず、重そうな鉄扉はしっかりと閉じられていた。

 使われている雰囲気もないが、誰かに聞こうにも周囲に人気はない。

 

「……あれ?」

 

 ふと、みほは人が出入りする扉が一箇所だけ開いている事に気づいた。

 他はしっかり施錠されているのに、そこだけ開放したままというのはあり得ない。

 つまり、人が出入りしているという事になる。

 幸い、みほは簡単に食事を済ませてしまったせいもありまだ授業までは時間もあった。

 好奇心に駆られ、みほは扉に近づいていく。

 ……と、中から話し声がするのに気づいた。

 

「いやぁ、こんな場所にあったとはねぇ」

「でもこれ……動くんですか? なんかボロボロなんですけど」

「Ⅳ号戦車D型。これに間違いないようです」

 

 中にいるのは、三人らしい。

 その中の一人が言ったキーワードに、みほはピクリと反応する。

 

(Ⅳ号……? どうして、此処にそんなものが?)

 

 大洗女子学園では現在、戦車道は行われていない。

 転校先を決めるに当たり、みほが重視したのはそこであるから間違いはない。

 みほも独自に調べてみたが、数十年前に戦車道は取り止められていて所持していた戦車も売却されたという事だった。

 が、現にIV号というキーワードが聞こえてきた。

 みほは気になり、扉の影からそっと覗き込んだ。

 倉庫の中は薄暗く、はっきりとは視認出来ない。

 だが、ドイツ製戦車について叩き込まれているみほにはわかってしまう。

 

(間違いない。あれは……IV号)

 

 この学校がその後戦車道を一時的にでも再開したという記録はないから、取り止めてから一度も動かしてはいないのだろう。

 当然だが、戦車を動かすには燃料を入れるだけなく入念な整備が欠かせない。

 遠目に見ても車体には錆が浮いていて、履帯も外れているようだった。

 売り払った筈の車両が此処にある理由はわからないが、少なくとも稼働状態にはなさそう……それがみほの見立てだった。

 戦車道を実施している学校は他にもあり、コレクターもいる。

 状態は悪いようだが、売りに出せば引き取り手はあるかも知れない。

 売却して学校の運営資金にでも充てるつもりで探していたのだろう、みほはそう結論付けた。

 

 と、三人のうち一人が振り向いた。

 

「誰だ、其処にいるのは!」

「ひゃっ!」

 

 誰何にみほは思わず叫んでしまい、他の二人も振り向く。

 そのまま、みほのところへとやって来た。

 制服姿の三年生だと気付いたが、もう逃げようにも手遅れだった。

 

「おい、貴様! 此処は一般の生徒は立ち入り禁止だぞ!」

「す、すみません! 私、転校してきたばかりで……その」

「言い訳など要らん! ちょっと来い」

 

 片眼鏡の生徒に捲し立てられ、みほは押されて狼狽するばかり。

 と、隣にいた背の低い生徒が前に出た。

 

「まぁ、待て河嶋」

「ですが、会長!」

「桃ちゃん」

「む……」

 

 もう一人、胸の大きな生徒に窘められ片眼鏡は黙り込む。

 

「転校生……もしかして、西住ちゃん?」

「ふえっ? ど、どうして私をご存知なんですか?」

 

 会長と呼ばれた生徒は、ニカッと笑った。

 

「いやぁ、奇遇だねぇ。私は生徒会長の角谷杏だ、よろしく~」

「副会長の小山柚子です」

「広報の河嶋桃だ」

「は、はぁ……。西住みほ、です」

 

 みほは混乱しながら、三人の自己紹介を受けた。

 確かに高校での転校生は珍しいかも知れないが、何故生徒会が自分の存在を知っているのか。

 問題行動を起こした覚えもないし、そもそも友達もまだいないみほがマークされるのも妙な話だ。

 たまたまなのかも知れない、そうみほは思い始めた。

 ……が。

 

「西住ちゃん。戦車道の経験者だよね?」

「え、ええっ?」

「調べはついてる。貴様、黒森峰女学園で副隊長まで務めたそうだな?」

「それに、あの西住流家元の娘さんなのよね?」

 

 みほは、甘い希望的観測が跡形もなく吹き飛ばされた事を否応なしに思い知らされた。

 生徒会は知っていたのだ、それも正確な事実を元に。

 それにしても、不可解ではあった。

 戦車道が実施されていないこの大洗女子学園で、みほの家系や過去の経歴など何の意味があるのか。

 もし役立つとすれば、目の前のIV号を診断するぐらいだろうか。

 それでもみほは本職の整備士ではなく、正確な価値など弾き出せる筈もない。

 中古戦車を扱う専門業者は何社もあるのだから、査定させて見積もりを取ればいいだけ。

 そうなると、ますますみほには理解不能だった。

 

「あ、あの……。私、何をさせられるんでしょう?」

 

 怯えるみほに、杏がズイッと顔を近付けた。

 

「実はさ、今度うちも戦車道再開する事になってさ。西住ちゃんにもやって欲しいんだよね」

「え、ええっ!」

「西住さんも知っていると思うんだけど、もう何十年も戦車道やってなくて経験者が誰もいないの」

「その点、西住はうってつけだ。会長がそう判断されたのだ」

「そ、そんな……」

 

 三人に迫られ、愕然となるみほ。

 

「で、とりあえずIV号は見つけたんだけどさ。いやぁ、こんな状態とは思わなくてな。西住ちゃん、これ使えそうかどうか診てくれないかな?」

「西住さん、お願い」

「まさか、会長の頼みを聞けないとは言わないだろうな?」

「あ、あの……。私、そんなつもりじゃ……」

 

 みほはジリジリと後退りしてしまう。

 

(と、兎に角逃げなきゃ!)

 

 頭ではそう思うが、身体が動かない。

 そんな機敏さがあれば、そもそもこんな事態には陥ってはいない筈だ。

 その時。

 

「うわあ、本物のIV号D型が見られるなんて感激であります!」

 

 そう叫びながら、誰かが倉庫に駆け込んで来た。

 呆気に取られる四人を他所に、一人の生徒がIV号に手をついた。

 そして、なんと頬擦りを始めてしまう。

 

「あのロンメル戦車軍団でも主力を務めたIV号! この肌触りが堪りません!」

「……河嶋、小山。あれは誰だ?」

「さ、さあ……?」

「見た事ない生徒ですね」

「…………」

 

 生徒会の三人は勿論だが、一番引いていたのはみほ。

 戦車道の経験でも、こんな場面には出くわした事はない。

 戦車の好みならみほにもあるし、それを仲間と語り合うぐらいならば当たり前にしていた。

 が、ここまで戦車そのものに愛情を露わにする人物はまだお目にかかった事はない。

 みほも、その正体を計り兼ねていた。

 

「あ……すみません。西住殿、此処にいては皆さんの邪魔になります。行きましょうか」

 

 頬に鉄錆をつけたまま、件の生徒はみほの処にやって来た。

 そのまま、みほの手を取って歩き出す。

 

「ふえっ? あ、あの……」

「どうもであります!」

 

 みほは戸惑いながらも、そのまま引きずられて行く。

 後に残された生徒会の三人は、暫し固まってしまう。

 

「あー、逃げられちゃったね」

 

 杏の言葉に、柚子と桃はやっと再起動。

 

「追いかけますか?」

「いや、いいって。どうせ、学園にいる限りまた会うしね」

「そうだよ、桃ちゃん。それより、準備に戻ろう?」

 

 三人も、みほ達が出て行った扉へと歩き出した。

 

 

 

「不躾な真似、申し訳ありませんでした!」

 

 一方。

 みほは体育館裏まで連れて行かれた。

 どうするのかと思いきや、件の生徒はいきなり土下座して謝り出した。

 幸いにも全く人気はないようだが、みほはオロオロするばかり。

 

「あ、あの……止めて下さい」

「いいえ。咄嗟の事とは言え、西住殿ともあろうお方の手をいきなり掴んでしまうなど。本当に申し訳ありません!」

「で、ですからいいんですって。私を助けようとしてくれたんですよね……?」

「……はい。西住殿がお困りのご様子でしたから。差し出がましいとは思ったのですが」

 

 みほは、屈んで視線を合わせた。

 

「私の事をご存知みたいですけど、良ければお名前を教えて貰えませんか?」

「あ、失礼致しました。私、二年C組の秋山優花里と申します!」

「秋山さん、とりあえず座って話しませんか? 私も、そのままでは落ち着けませんから」

「い、いいんですか……?」

「はい。ちょっとびっくりしちゃいましたけど……大洗に転校してきて、初めてちゃんとお話出来そうで」

 

 みほは寂しげに笑う。

 優花里は、複雑そうにみほを見た。

 

 

 

「……そうでしたか。あの試合、観ていたんですね」

「はい! あの試合からずっと、私は西住殿のファンであります」

「…………」

 

 みほにとっては、トラウマでしかない出来事。

 戦車道全国大会決勝戦でみほが取った行動そのものは、未だに悔いはない。

 だが、実の母親であるしほには厳しく叱責され、周囲からは激しい非難も浴びた。

 元々戦車道を強いられていたという実感のあったみほは、それが切っ掛けで戦車道に背を向けてしまった。

 大洗女子学園には自分の意志でやって来たとは言え、それを逃げたという者もいる。

 

「私は、西住殿のあの時の判断は間違っていなかったと思います」

「……私も、もし今同じ事が起きたとしてもやっぱり同じ選択をすると思っています。でも……」

「それでいいじゃありませんか」

「……え?」

「ご自分で正しいと思った事を貫き通したのですから。そんな西住殿を、やっぱり私は尊敬するしかありません」

「秋山さん……。本当に、そう思ってくれますか?」

「はい!」

「……あり……がとう……」

 

 みほは、優花里の手をしっかりと握った。

 その眼からは、涙が溢れている。

 大洗に転校してきて正解だったのか、ずっと悩んでいた。

 なかなか友人も出来ず、一人ぼっちの毎日が続いた。

 戦車道から遠ざかろうとした、自分自身で選択した結果ではあった。

 それでも、みほには辛く我慢の日々。

 やっと、自分の話を聞いてくれる相手に巡り会えた。

 感激するなと言う方が無理であろう。

 一方、優花里は軽くパニックに陥ってしまう。

 

「に、西住殿!」

「ありがとう……本当に……ぐすっ」

「あ、あの。とととりあえず、涙を拭いて下さい。これ、どうぞ!」

 

 空いた手で、迷彩色のハンカチをみほに差し出す優花里。

 みほは頷くと、それを受け取り目元を押さえた。

 

「いろいろ辛い思いをされてきたんですね。……でも、少なくとも私は味方ですよ。西住殿」

「秋山さん……」

「……実は、西住殿が転校されてからずっとお話する機会を探していたんです。ですが、クラスが違いましたし……何となく、西住殿が近寄り難い雰囲気だったので」

 

 みほはハッとなった。

 大洗でずっと孤独だったのは、自分が奥手だったせいだけではない。

 知らず知らずのうちに、壁を作っていたのだと。

 それでは周囲の生徒も近寄ってくる訳がない。

 

「私は戦車の事にしか興味がありませんし、だから友達と呼べる人もいません。ですが、私で宜しければこうしてお話させていただきたいのであります」

「え? それって……」

「……駄目、ですか?」

 

 みほはブンブンと頭を振った。

 

「いいえ、本当に嬉しいです。……良ければ、お友達になって下さい」

「い、いいんですか?」

「勿論です!」

 

 優花里は両手を頬に当て、ぐりぐりと頭を動かした。

 

「に、西住殿とお友達になれるだなんて。感激であります!」

「お、大袈裟ですよ。……あ、そうだ」

「どうかなさいましたか?」

「うん。お友達に丁寧語は変かな、って。名前で呼んでもいいですか?」

「は、はい! ご随意に!」

「もう。……じゃあ、優花里さん。改めて、宜しくね」

「ここ此方こそ。不束者ではありますが、宜しくお願いするであります!」

 

 みほに、久しぶりの笑顔が戻った。

 優花里も、つられて笑顔になる。

 二人は、こうして知己を得た。

 

 

 

 その日の放課後。

 生徒会から召集がかかり、全校生徒が体育館に集められた。

 必修選択科目のオリエンテーションと言う名目ではあったが、実際は戦車道復活の告知と履修希望者を募る為のプロパガンダ。

 みほにはそれがわかったが、隣に座る優花里は目を輝かせてスクリーンに見入っていた。

 まだ仲良くなったばかりだが、みほには優花里がどれだけ戦車に愛着を持っているかは理解出来ていた。

 その戦車に実際に乗れるとなれば、優花里が興奮しない訳がない。

 最も、倉庫で見たあのIV号以外に車両があればの話。

 みほの調べた通りならあれが唯一の車両だし、しかも動かせるのかどうかもわからない。

 戦車道は団体戦、両数が多ければ戦術の幅が広がったり故障や不具合があってもカバー出来る。

 みほは西住流戦車道を叩き込まれた事もあり、強力な戦車を揃えて相手を圧倒する事の有利さが身に沁みていた。

 ……が。

 そんな現実を優花里に告げる事など、みほには思いもよらない事。

 楽しげな優花里の気分を無駄に害したくもなく、折角出来た友達にそんな事も言いたくなかった。

 プロモーション映像が終わると、生徒会は履修すれば様々な特典を与えると宣言。

 みほには生徒会権限でそこまでやれるのかと疑問に思えたが、すっかり雰囲気に呑まれている周囲を見て小さく溜息を漏らすばかりだった。

 

「西住殿はどうするのでありますか?」

「うん……」

 

 配布された用紙を手に、連れ立って下校する二人。

 戦車道の欄が強調されてはいるが、他にも華道や忍道などの選択肢が書かれていた。

 

「優花里さんは、やっぱり戦車道を?」

「はい! やはり、実物の戦車に乗れるまたとない機会ですから」

「そうだよね……」

 

 やはり、言えなかった。

 優花里は戦車そのものの知識だけなら、みほよりも上かも知れない。

 だが、戦車道は車両の知識だけで行えはしない。

 生徒会も突然復活を言い出した理由は不明だが、みほから見ても無謀としか言いようのない行為に映る。

 ただ戦車道を復活させたいだけにしても、車両だけではなく設備も人もない。

 燃料や弾薬、スペアパーツだって勿論タダではない。

 どう贔屓目に見ても金のないこの学園で、唐突としか言えない戦車道復活。

 文科省が世界大会誘致を見据え、若手育成を掲げて戦車道を奨励したという理由だけではないのだろう。

 そんな得体の知れない中では、優花里がいくらやる気に満ちていても何も出来ないままになりかねない。

 

「西住殿は……やはり、気が進みませんか」

「うん。どうしても戦車道はやりたくなくて……ごめんね」

「そうですか……。西住殿と一緒に戦車に乗れたら最高だったのですが」

「…………」

 

 優花里はみほに無理強いはしなかった。

 みほが強豪の黒森峰、それも副隊長と栄えある立場を捨ててまで此処にいる理由は察するに余りある。

 みほに対する敬慕の念は変わらないが、嫌々戦車に乗るみほは見たくなかった。

 自分から進んでと言うのなら、優花里は一も二もなく賛成しみほに従うつもりだった。

 

「では、どうするのでありますか?」

「香道を取ろうかな、って思ってるの。一度やってみたかったし」

「わかりました。……あ」

 

 優花里は、不意に足を止めた。

 

「どうしたの?」

「……家に着いてしまいました」

 

 其処は理髪店で、看板には確かに秋山と書かれていた。

 

「秋山さんの家、床屋さんだったんだ」

「はい。大変名残惜しいのですが……」

「ううん。じゃ、また明日ね」

「はいっ! それでは明日も宜しくお願いするであります!」

 

 優花里は敬礼をして、店に入って行く。

 戦車道の事はあったが、それでもみほは登校時に比べて明るい気分だった。

 優花里という友人を得られたのは、やはりみほには最大の収穫には違いなかった。

 

「早く明日にならないかなぁ」

 

 そう呟きながら、軽い足取りで寮へと向かうみほだった。

 

 

 

 翌日。

 みほは優花里と待ち合わせ、学食で昼食をとる事にした。

 一人ではあれだけ敷居が高かったのが不思議な程、みほは自然と足を踏み入れていた。

 

「メニューが豊富なんだね」

「それが自慢と言われていますから。何でも、生徒会長が食事が充実しなくては学園生活を楽しめないと主導したとか」

「生徒会長って……あの?」

「そうであります。西住殿はご存知ないかも知れませんが、今の生徒会長は兎に角イベント大好きでして。去年の学園祭など大いに盛り上がりました」

「そ、そうなんだ」

 

 生憎、みほはそうした姿は見ていない。

 倉庫で恫喝紛いに迫られた印象しかないのだから、素直に頷ける訳がない。

 大洗に来てしまった以上は顔を合わせずに済むとは思えないが、出来る限り接点は持ちたくないと思うみほだった。

 ……が、そんな彼女の願いはあっさりと打ち砕かれてしまう。

 

 

 

「これはどういう事だ!」

「何で、選択しないかなぁ」

 

 食事中、みほは緊急放送で生徒会室に呼び出された。

 心配してついてきた優花里と二人で部屋に入ると、例の三人が待ち構えていた。

 桃はみほが提出した必修選択科目の用紙を手に、みほを怒鳴り立てる。

 杏は呆れたように椅子に踏ん反り返り、柚子はその隣で何故か半べそをかいている。

 

「お終いです……。もう我が校は」

「そんな事はない! おい西住、今すぐこれを書き直せ!」

「そ、そんな……。必修選択科目は自由に選べるんじゃ……」

「貴様は別だ! 他を選ぶなど許さん!」

「待って下さい! いくら何でも横暴過ぎるのであります!」

 

 見かねた優花里が助け舟を出そうとする。

 が、三人には通じない。

 

「横暴は生徒会に与えられた正当な権利だ!」

「どうしてもやりたくないなら、二人ともこの学園にいられなくしちゃうよ?」

「会長は本気よ? 今のうちに謝った方がいいと思うよ?」

 

 優花里も気圧されてしまい、言葉に詰まってしまう。

 

「どうして……どうしてですか。私は、戦車道をやりたくなくて態々転校して来たのに」

「そうです! 嫌がる相手に無理強いせずとも、戦車道を復活させるだけなら」

「……復活させるだけじゃ駄目なんだよねぇ」

 

 杏の言葉に、桃と柚子が押し黙る。

 みほは、其処に重い何かを感じた。

 

「……理由を聞かせて下さい。戦車道は、IV号一両だけではどうしようもありません。しかも、そのIV号でさえ使えるかどうかも定かではないと思いますが」「西住……殿?」

 

 みほは、言わずにはいられなかった。

 隣にいて自分を案じてくれている友人には悪いと思ったが、もう止められなかった。

 そこまで自分に、そして戦車道に執着する理由を確かめるまでは。

 

「そんな事は貴様が知る必要はない!」

「そ、そうよ? 私達はただ、文科省の」

「河嶋、小山。……もういい」

「会長?」

「ま、まさか……」

 

 戸惑う桃と柚子を制して、杏はみほを見た。

 

「西住ちゃん。それから秋山ちゃん……だっけ? これから話す事、聞けばきっと後悔するけど覚悟はいい?」

「か、覚悟でありますか……?」

「そう。私達が何もしなくても、この学園にいたくなくなるかも知れないけど」

「に、西住殿……」

 

 優花里は、恐る恐るみほを見た。

 が、みほは俯く事なく杏を見返していた。

 

「……聞かせて下さい。どうするかは、お話の後で考えます」

「秋山ちゃんはどうする? 出て行くなら今のうちだけど」

「……いえ。西住殿がそう仰るなら、私も伺います」

「やれやれ、二人共物好きだね」

 

 杏は苦笑すると、食べていた干し芋を飲み込んだ。

 

 

 

「廃校……?」

「しかも、今年度限りでありますか……?」

 

 みほと優花里は、驚きを隠せない。

 文科省は学園艦の統廃合を進めていて、大洗女子学園はその検討リストに入っている事。

 目立った実績もなく、生徒数が減少している為にその最有力候補である事。

 そして、それを回避するためには戦車道を復活させ……しかも全国大会で優勝する事が条件である事。

 

「つまり、我々はあの黒森峰やプラウダ高校に勝たないと駄目……。いくらなんでも無茶であります!」

「無茶は承知だよ」

「それぐらいしか思い浮かばなかったのだ、あの時は」

「そうよね……」

 

 杏達は、沈痛な表情をしていた。

 優花里も、流石に顔面蒼白になっていた。

 ……そして、みほは。

 ジッと、何かを考え込んでいた。

 

「西住ちゃん、どう? また転校したくなった?」

「…………」

「…………」

「西住殿……」

 

 四人の視線が、みほに集まる。

 それでも、みほは微動だにしない。

 そのまま、沈黙が辺りを支配する。

 

 

 

 やがて。

 静寂を破ったのは、みほだった。

 

「会長さん」

「何?」

「……会長さんは、この学園が大好きですか?」

「愚問だね、西住ちゃん。私だけじゃない、河嶋も小山も」

 

 桃と柚子は、何度も頷いた。

 

「優花里さんは?」

「私もであります。……初めは、戦車道のある学校に行けなくて残念に思った事もありました。ですが、今はこの学園が私の居場所です」

「そっか……」

 

 みほは一度俯き、そして顔を上げた。

 その眼には、決意が漲っていた。

 

「……やれるとは言いません。また、大丈夫とも言いません。ですが……みなさんにその覚悟があるなら」

「……西住殿?」

「やります、私。戦車道を!」

「ええっ!」

 

 優花里だけでなく、桃と柚子も驚きの声を上げてしまう。

 杏だけが、みほの言葉を冷静に受け止めていた。

 

「……本当にいいんだね、西住ちゃん」

「はい。その代わり、宝くじを当てるよりもずっと難しく厳しい戦いになります。会長さん、後には引けませんからね?」

「どのみち、もうウチには進むしかないからさ。やってやろう」

「……わかりました。優花里さんはどうする?」

「言った筈ですよ。西住殿と一緒に戦車に乗れたら最高だと、あの言葉に嘘偽り無しであります」

「……うん!」

 

 みほは頷くと、全員を見渡した。

 

「兎に角、人を集めましょう。それから、戦車が他にないかもう一度確認をお願いします。Ⅳ号の状態確認も今からやらないと」

「…………」

 

 杏は席を立つと、みほの前まで歩いてきた。

 そして、手を差し出した。

 

「……ありがとう、西住ちゃん。一緒に、頑張ろう?」

「……はい」

 

 その手を握るみほ。

 桃と柚子、それに優花里がその上に手を重ねる。

 

「西住ちゃん、何か号令」

「ふえっ?……じ、じゃあ……パンツァー・フォー!」

「応!」

 

 

 

 大洗女子学園戦車道チームが、産声を上げた瞬間だった。

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