迷いの竹林。踏み込んだら最後。よほど幸運が重ならない限り脱出が不可な場所。
違和感がないくらいに斜めに立っている竹が、進むものの感覚を奪うのだ。
「で、もこたん。迷ったんだけどどうしよう」
「もこたん言うな。後、お前の能力使えばいいだろうが」
竹林の中にある家。藤原妹紅の家だ。もう一つ、この竹林には家…いや、屋敷がある。
本日の龍の目的地はそこだった。
「能力は禁止されてるんだよ。家で寝てるワンちゃん連れてきてもいいけど、その場合もこたんの家に被害が及ぶかもよ?」
「なんつー脅迫するんだお前は。私がどれだけ頑張ってここに家を建てたと思ってるんだ」
「もこたんの焼き鳥屋復活?」
「もう壊す気満々か!?」
仕方ない。家を建ててから復活しないのだから、やってもらうように説得してみるのだ。
「はぁ…で、迷ったんだろ?なんだ?永遠亭に行きたかったのか?」
「うん。そのつもりなんだけど…大丈夫?」
「問題ない。行くぞ」
「おぉ、ありがとう」
そうして、龍は妹紅と一緒に永遠亭を目指す。
* * *
「なんで急に永遠亭なんかに行きたがったんだ?」
「おぉぅ、もこたん。いい質問だね」
「そうか。冗談はいいからさっさと教えてくれ」
「むぅ、つれないなぁ…別に、そんな重要なことでもないよ。そろそろ傷薬が底を尽きかけてるから調達しに行くの」
「そんなの、兎に持ってきてもらえばいいだろ?」
「言ったじゃん。ワンちゃんズが今家に居るって。ウドンゲが食べられちゃうよ」
「……むしろ食べられるのはその犬の方な気がする…」
「もこたん。それは言っちゃいけないよ?」
今現在、たぶんウドンゲは武器を手に入れてから絶好調である。ただ、あまり暴れると師匠である八意永林にお仕置きされるので控えるようにしているらしいが。
「……なぁ龍。あそこ、誰か落ちてないか?」
「え?……あ、本当だ。誰か落ちてる。見に行ってみよ~っと」
「え?お前、能力禁止されてるから危ないんじゃ……」
「大丈夫ですか~?」
龍はあっという間に落ちている人物のもとへと移動すると、その人物の肩を揺する。
「もこたんもこたん。急患だよっ!さぁ、背負って!」
「お前が背負えよ」
「アイサー」
やれやれ。と言った表情の妹紅に、笑顔で返事をする龍。本当にそのまま背負い、妹紅はとりあえず急ぐことにした。
* * *
「お~い!ウドンゲ~!いるか~?」
「だからなんでウドンゲなのよ!鈴仙で良いじゃない!」
目の前にあった扉が勢い良く開き、ウサミミブレザー少女が出てくる。
「永林いる?」
「またスルー!?師匠はいるけど…どうしたのよ」
「道端で拾った子がかわいそうで…」
「凄い真剣なんだろうけど、龍が言うと冗談に聞こえるな」
「ひどくね!?」
「と、とにかく師匠のところまで案内するからついてきて」
「了解」
「私は輝夜のところにでも行くかな」
「物理的な喧嘩はやめろよ~」
「今日こそはぶっ倒す」
そうして、妹紅と龍達は別れる。
* * *
「ただ単に行き倒れね」
永林の突っ込みが入る。
「そっか…行き倒れか。なら良かった」
「どこに安心できる要素が?」
「後は永林に任せればいいからだよ!」
「拾った少女を人に押し付けない」
ファイルの角で叩かれ、猛烈に痛がる龍。どうやら頭に突き刺さったらしい。
「医者が怪我人増やすってどうなのさ…」
「医療費が増えるから良いんじゃない?」
「なんて悪徳!」
まぁ、これくらいなら放っておけばいいんだけどさ。と呟く。
「それで、貴方の本来の目的は何よ」
「ん?え~っと…あ、そうだ。傷薬貰いに来たんだよ」
「タダであげるわけないでしょ。金額は六千ね」
「物々交換は?」
「何かあるの?」
「いや…そんなに良いものじゃないんだけど、これはどう?」
そう言って龍が永林に渡したのは、黒い宝石のようなもの。
「これは…どこで手に入れたの?」
「拾ったっていうか、家にいるケモ少女達が拾ってきたっていうか?まぁ、凶悪な石程度にしか感じないから大丈夫かなって」
「そう…随分と危険なものなんだけどね…これ」
永林は感触を確かめたり、光に透かしてみていた。
「で、傷薬どれだけと交換出来る?」
「そうねぇ…鈴仙。この前の傷薬ってどれくらい残ってたっけ?」
「50個くらいでしょうか…?」
「じゃあ30個持ってきて。出来れば袋詰めで」
「良いんですか?複製難しいんですよね?」
「この石と比べたら楽なものよ。取ってこれる?」
「分かりました。行ってきます」
鈴仙はそう言ってスタスタと行ってしまう。
「それ、結局なんなんだ?もう渡したものだから返してなんて言わないが」
「そうね…闇の結晶と言ったところかしら?使い道は…まぁ、置いておくとしても、稀少性は高いから釣り合うでしょ」
「そうか…何に使えるのか気になったけど、分かんないなら良いや」
「負の方面で使い道が広いのよねぇ…これをどこまでいい方面に持っていけるかが腕の見せ所ね」
「そうか。じゃあ期待して待ってることにするぜ」
「そうしてちょうだい。時間はかなりかかるだろうから」
「おぅ。了解」
そして数分後、一つの大きな袋を抱えて鈴仙が帰ってくる。
「し、師匠!これでいいですかぁ!?」
「完璧よ鈴仙。ほら、龍。受け取りなさいよ」
「あぁ、うん…って、重っ!ナニコレ重っ!」
受け取った瞬間に崩れ落ちるほどの重量。
「ふぃー…重かったです…あ、龍。大丈夫?」
「……あ~、まぁ、大丈夫かな~…?」
「なんで疑問系なのよ」
「ハハハ…いや、なんでもない。よし。目的は達成したし、帰ろうかな」
「えぇ、じゃあね龍」
「またいつでも来なさいよ」
「おぅ。じゃあな~」
そう言って、彼は出ていく。
「……そう言えば、龍、結局あの少女置いていったわね」
「あ……師匠?なに考えてます?」
「いえ…鈴仙が可哀想でね」
「絶対そんなこと思ってませんよねぇ!?」
フフフ。と微笑む永林の顔が、悪魔に見えた鈴仙だった。