fate/zero 滅びの魔王と騎士の譚   作:ぴよぴよひよこ

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-創世と滅亡-

 

 

 日暮れ時。宵闇が辺りを包み始めた冬木の様相は、連日起こる怪異に怯える住民たちに息を潜ませる。陽が落ちては歩いてならぬ。誰もが無意識の内に忌避する程に、今の冬木は何かの気配に満ちていた。

 そんな中を二人、連れ添って歩く男女。美男美女の連れ合いはともすれば恋人にも捉えられかねないが、帯びている闘志がそれを否定している。冷たい空気を押しのけるが如く迷いなく進む歩みは足跡に陽炎のような揺らめきすら残す。

 

「どこを当たっても(もぬけ)の空と思えば、よもやこのような催しに招かれるとは」

 

 エリスティンとディルムッドは敵を探して彷徨っていた。当面の敵と認識していた黄金の王だったが、その拠点と思しき屋敷は無人であり土地勘もない二人は往く当てもなく歩き続けたのだ。

 そこへ、街中に揚がった魔力の花火が我此処に在りと知らしめた。何者かも、目的も解りはしないがその下には誰ぞ英霊がいるだろう。

 魔王とその騎士は真っ直ぐに、正面からそこ――冬木市民会館を目指した。

 

「呼び寄せた者らは残ったサーヴァントを一網打尽にするつもりでしょうか。そこまで剛毅な者といえば、やはり……」

「ギルガメッシュであろうな」

 

 未だ残る英霊の数は五騎。後半戦というには些か以上に気が早い。だが誰に対してかも解らぬこの狼煙は間違いなくその全てをかき集めることになるだろう。そんな豪胆な戦略はさしもの征服王ですら有りえない。騎士王でもない。つまりは、全てのサーヴァントを相手取ってなお不足無しと嗤うあの英雄王に違いないはず。

 なんという堂々たる王だろうか。

 エリスティンは歓喜せずにはいられない。彼女の矜持と同じく逃走もなく、己で侵略者を討たんと裁定するあの英霊はまさしく王だ。だからこそこうして、真正面から向かっている。

 目的の場所が橋の向こうに見えた時、やはりかの者は現れた。

 黄金の粒子がさんざめき、眩い王の姿を描き出す。

 

「来たな稀人よ」

「来たぞ英雄王」

 

 相対する二つの世界の王。片や滅ぼし尽くし、片や栄華を極めた対極にしてどこか相似する二人の王は、どちらも血の様に紅い双眸を以て"敵"を視る。

 

「この世界は時の果てまで余すことなく(オレ)の庭。踏みしめることは許したが、滅ぼすことは断じて許可できん。――故に、貴様はここで死ね、魔王」

 

 至極愉しそうに。しかし殺意は変わらず紅く魔王を射抜く。

 

「フフ。そなたの庭、存分に楽しませてもらったよギルガメッシュ。もう充分だ。今再び、滅びの歩みを進めることにする。――故に、貴様はここで滅べ、英雄王」

 

 至極嬉しそうに。しかし破滅の気配は変わらず英雄王を呑み込まんと渦を巻く。

 

「畏れは無いか。それでこそ稀人よ。今こそ世界の王の姿、その眼に刻み込んでやろう!」

「畏れは無いさ。初めて許されたこの挑戦、久遠の王に刻み込ませてもらう!」

 

 互いに眼を眇めて、けれどもやはり口の()は上を向いていた。形は違えど、世界を手中に収めた者たち。全霊を賭して剣を執るに値する愛しい怨敵。格を認めつつも、その存在を赦してはおけぬ。

 

 迸る魔力が二人の間に豪風をもたらし、それが戦端を開く合図になった。

 片腕を上げたギルガメッシュが夜空の星々に劣らぬ輝きと数を誇る宝具の群れを展開し、プラネタリウムもかくやの燦然とした球がエリスティンとディルムッドを圧し包む。

 逃げ場などどこにもない、確定した死の球の中で魔王は呵々と大笑していた。

 

「ハッハッハ! この世の財を統べるという統政の極み、全てを奪い尽くした私とどちらが勝るかな!」

「エリスティン様――!」

「遅れるなよディルムッド。我が歩み、その目にしかと焼き付けよ!」

 

 視界が黄金に包まれても魔王は歩みを止めない。ディルムッドを引き連れ泰然と前へ出る。

 圧政の究極と称される『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』ないし英雄王。

 対するエリスティンは星の全てを喰らった魔王。特筆すべきは吸収または奪取と呼ぶ特異体質ではなく、むしろその『許容量』である。一個の惑星を胎に収めてなお飢餓感を覚える彼女のキャパシティこそがエリスティンを魔王足らしめているのだ。

 

「まずは前菜だ。きっと王の酒より美味いんだろうなァ!」

 

 黄金の(ひずみ)から射出された宝具が彗星の如く尾を引いて殺到する。エリスティンは頬が裂けそうな程に大口を開け……何かを噛み砕くように歯を打ち鳴らした。

 飢える大牙(エクセルトゥス・シヴァリォム)。魔術風に表すならそんな字面が似合う、魔王の起源的能力。

 自身を取り囲んでいた百や二百ではきかない宝具の、一つ一つが内包していた途方もない神秘、魔力、果ては運動量に至るまで。それが持つありとあらゆる要素を魔王は噛み砕き、咀嚼し、飲み込んだ。

 途端、ほぼ全ての宝物が輝きを失い砕け散り、あるいは不滅を特性としたものでさえも虚しくがらんどうな音を立てて地に落ちる。

 

「一噛みでは収まりきらんか。こんなことは初めてだぞ、さすがは英雄王!」

「なんと悪食(あくじき)な侵略者か。ならば次はこれだ」

 

 黄金の王は己を誉めそやす敵対者に、球形に展開していた『王の財宝』を今度は翼を広げるように背後に煌めかせる。射出されたのは先ほどよりも強力な宝物武具だ。そして貪欲な侵略者に相応しい仕掛け(ヽヽヽ)も施して。

 

「はっは、御代(おかわ)りか? だが――――ガフッ!?」

 

 先と同じように噛み砕き飲み込んだ魔王が、血……ではなくドス黒い何かを吐瀉した。養分となってエリスティンに内包されている生命のカタチとでもいうべき魔力の塊。それが零れ落ちるほどの、身体を溶かすような異物が魔王の中を蹂躙している。

 

「魔王様!」

「ヒュドラの血は不死の怪物でさえ死を選ぶ猛毒よ。さあ、お前はどうする、稀人よ」

 

 くつくつと喉を鳴らす英雄王。ディルムッドがよろめくエリスティンを支え、さらに飛来する宝剣を弾き落とした。しかしあまりの数に如何な高ステータスを誇る槍の英霊(ランサー)でも全てを受け切れはしない。隙を縫うように背後から射出された槍が魔王の片腕を斬り飛ばす。

 ギルガメッシュが第二射に施した仕掛けとは宝物庫内にあるヒュドラの肉、その血を武具に塗り込むことによる猛毒の礫だ。

 あらゆる要素を呑み込むという離れ業に面し選択したのは、不死身の怪物があまりの苦痛に不死を返上したという伝承が残る悪辣な毒。ある種の不死性も持つエリスティンには効果的な策と見たのだ。

 

「ぬう……んん! ――っはぁ……不味いな、これ」

「――なんだと?」

 

 しかし悪食ここに極まれりと言うべきか。エリスティンは無理矢理嚥下するような仕草を見せると、もう毒など無いかのように俯けていた身を起こした。次の瞬間には腕さえも再生させて感覚を確かめている。

 致命的な超猛毒、ヒュドラの血。彼女がそれに耐えることができたのは、単に慣れの問題である。

 ケンタウロス族の賢者ケイローンは強力な呪詛のような毒を受けて苦痛に耐えきれず死を選んだが、かの者は大賢者。秩序の体現者。善なる者。そしてエリスティンは魔王、呪われた者。生まれてからこの方、呪い以外の何物も受けたことの無い身である。その味はもう、知っている(ヽヽヽヽヽヽ ヽヽヽヽヽ)

 

「……ハハ、フハハハハ! 面白い、面白いぞ魔王! 神すら恐れる猛毒を消化するとは。その胎、どうなっているか開いて見てみたい!」

「やめておけ英雄王。その眼に能わぬ汚物さ、この胎は」

 

 珍しいものには目がない、この世の贅を極めたる者。ギルガメッシュは己の知らないものには特に興味をそそられる。外界から来たという魔王はその眼鏡に適ったが、エリスティンはそれを否定した。

 全てを呑み込んだこの胎は、あの海魔よりもえげつない。星の粋を集めたといえば聞こえは良いが、その実態は全てを養分に変えた堆肥みたいなものだ。そんな醜濊(しゅうわい)、英雄王の眼に触れさせていいモノじゃあない。

 

「そなたに相応しきはやはり、この輝きよ」

 

 腰に()いた一対の白色双剣を眼前に構え、吐息を吹きかける。すると先ほど喰らった星々のような宝具の煌めきが乗り移り、神秘がその刀身に息衝(いきづ)いた。

 

「ふふ……こいつも初めて満たされただろうな」

 

 エリスティンが純粋な己の魔力だけでもって創りだした一対の剣。これらも彼女と同じく周囲を喰らい、その身に宿す。普段は空虚な無彩色のそれは、今や金銀にさざめきギルガメッシュの放った無数の宝具を一纏めにして刃を煌めかせていた。

 持ち主と同じようにいつも腹を空かせていた剣がこれほどまでに燦然と輝くのは魔王も初めて見る光景だ。やはり英雄王とは名にし負う存在であると再認識できる。

 

「猪口才な、(オレ)の威光の寸分にも届かぬそれで満足する気か?」

「何を馬鹿な。もっともっと見せておくれよ英雄王。前菜じゃあ、私の腹は満たされぬ!」

 

 嘯くと同時、縮地が如く疾さで距離を詰め黄金の王に斬りかかる。

 接近戦が得意とは言えない英雄王であるが、数々の宝具からのバックアップを受けることでそのステータスは限界を知らず高まり、(ひずみ)から抜いた巨剣を小枝を扱うように振り回して魔王と鍔競り合った。

 翳すは魔剣『ダインスレイヴ』、その原典。持ち主に破滅を与えるというニーベルンゲンの詩語法に語られる屠竜の大剣。悪食の魔王に喰らわせるならと選んだ一振りだ。吸収すればその身を焦がす呪いが一層膨れ上がることだろう。……焼石に水かもしれないが。

 奇しくも持ち主と正反対な色合いの白金と黒銀がぶつかり合い、火花を散らす。双方ともに凄烈な笑みで犬歯を見せ合い、打ち合った衝撃の余波だけで冬木大橋は軋みを上げた。その凄まじさは一級の戦士ディルムッドをして主の援護をする隙すら見つからない。

 

「ハハハ! 裁定の王よ、この身はまだここに在るぞ!」

「そう死に急ぐな侵略者。誅とはいえたまの遊興、すぐに終わらせては勿体無かろう」

 

 山を穿つ威力の宝具を数百と束ねた双剣が唸りを上げる。英雄王はそれを正面から受け止め、さらに押し返してみせる。『報復』の力を持つダインスレイヴ。敵の刃が鎬を削れば削るほど鋭さを増し、力を研ぐ。そして無限に等しい兵站(ざいほう)がそれに相応しき膂力と斬撃を生み出すのだ。

 想像以上の王の力にエリスティンも沸き立つ喜悦をそのまま剣撃に乗せる。

 全力で振り下ろした剣が敵の身を断たないのは初めてだ。全力で駆けた身が敵の視線を切れないのは初めてだ。なんと凄まじい、これが英雄王。

 アスファルトが剥げ、鉄骨が折れ曲がり、地震も斯くやと破壊を振り撒く王者たち。その様は愉し気で、まるで踊り狂う死神のようですらあった。

 

 しかしやがて優劣が際立って顕れる。如何な圧政の極みであってもその身は王。ましてや戦士ではないギルガメッシュに剣技の何たるかは持ち得ない。しかしエリスティンは記憶・経験(じんせい)すら奪い取った星崩の魔王。惑星(ほし)の、ヒトの、個の究極。かつて己を追い詰めた技術、武錬、さらには永き時の中で()ぜ合わせた練達は高まったステータスを物ともせずに金色の鎧を削り取り始めた。

 

「チィッ!」

「足りぬ足りぬ、満ち足りぬ。腹が減っては戦しか(ヽヽ)できないというのに」

 

 ギルガメッシュの鎧が一部欠け、忌々しそうに飛び退る。腹立ち紛れに何か投げつけようともそれは無意味どころか敵の力を増す悪手でしかない。

 ――やはり、消し飛ばすにはアレしかない。外界の覇者と認めた者と剣を交えるのはそれなりに愉しかったが、そろそろ締めへと移るか。

 その在り方とヒトの極致たる演武は驚きとともに見事と評すれど、もはや問答も余興も必要ない。この世界の主として、この世界の理を示さなければならないのだ。

 

「見込み通り、貴様は異端も異端よな。外からの来訪者――討ち取るにはこの世の理で以て然るべきであるか」

「――ほう?」

 

 零した大言に目を輝かせる。エリスティンも知っているのだ。この燦然たる王は傲慢なれど、虚言など吐かぬということは。

 ギルガメッシュが取り出したるは黄金の鍵剣。

 虚空に突き刺し開錠するその姿は、歴史を物理的に紐解くようにすら見えた。鍵剣から葉脈のように広がる帯は世界の在り様を司る起源の道標(みちしるべ)。どこまでも無限に広がるこの星の樹形図。

 そしてそれは――( いち )へと還る。

 顕れた、剣と云うには異形に過ぎる武器。柄と鍔、そこまではいい。その先に在ったのは三つからなる円錐状の切っ先。一つ一つが魔力と(そう)するにはあまりに果てしない力強さ、神威としか云い様がないモノを纏って捻転している。

 

「――なんだ、ソレは」

 

 魔王が瞠目した。その身に駆け巡ったのは、悪寒。

 この世の王が取り出した武器は星崩の魔王に初めて恐怖を感じさせた。なぜならソレは、対界宝具。一個の惑星が如き魔王に対しても、過剰という表現にせざるを得ない暴威。

 乖離剣エア。神代に於いて天地を分かち世界を創造した、まさに此の世の理。

 無論そんなものを地表で揮えば甚大どころではない被害が齎されるだろう。しかしギルガメッシュは手を抜くつもりなど微塵もない。王として見過ごせぬ侵略者を討つのだ。手加減などできようはずもない。

 

「さあ、エアよ。外来の魔王に理を示せ!」

 

 英雄王の手の中で、やおら円柱部分が回転を速める。一つ捻じれる毎に空気が千切れ、二つ捻じれて空間が千切れ、三つ廻って時空さえも切り刻むその姿。

 魔王はその威容に涙すら流していた。

 ――なんということか。

 アレはまさしく天地創生の(つるぎ)。一個の世界を滅ぼした魔王を討つのにあれほど相応しいものがあるだろうか? ――否。どんな聖剣も魔法でも足りない、全てを呑み込み喰らい尽くしたこの身を滅ぼすにアレ以上はない。

 今だけはあれほど焦がれた征服王のことも忘れ、エリスティンはかの創世の奇跡に見とれていた。

 

「征くぞ侵略者。いざ仰げ――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』を!!」

 

 振り降ろした切っ先は真っ直ぐエリスティンに向けられた。だが台風が個人に照準を合わせられないように、ソレもまた一人の人間に向けて放てるものではないだろう。逆巻く颶風(ぐふう)がはち切れんばかりに炸裂し、橋の上全てを消し飛ばして顕現した神威が(ねじ)れ来る。

 しかし、魔王エリスティンはその全てを一身に受け止めていた。少しも逃してなるかと手を、脚を、その身に宿る全てを以て開闢(かいびゃく)の一撃に真っ向からぶち当たった。

 

 これは力比べだ。ただの、単純な。この世界とあの世界(ヽヽヽヽ)、どちらが強いかの勝負なのだ。天と地を創りたもうた一撃と、天も地も(ほろ)ぼした一人の鬩ぎ合いにして、子どもみたいな意地のぶつかり合い。

 エリスティンは自分を(ころ)しかねない猖獗(しょうけつ)の極みを受け止めながら、在る筈もない童心に帰った心地でいた。

 

 ――すごいすごい! やっぱり王様は偉大なんだ!

 

 耳が飛び、腕が千切れて、それでも魔王は嗤っていた。

 世界を創るなんて、どこまで途轍もなく、途方ない。そっか、そうなんだ。この王様がいてくれるのなら、世界はまた生まれるんだ。滅ぼしたって、無くなるわけがないんだ。

 エリスティンの中で、無意識の内にかけていたリミッターが、外れた。

 ――じゃあ、良いんだ。

 

「――馬鹿な!?」

 

 驚愕を露わにしたのはギルガメッシュだった。よもや慢心も無く全力で撃ち放った奇跡の再演が受け止められるだと。否、受け止めるだけではない。喰われ始めている(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)――!?

 

「が――ッあは――あははは――――ははッははハハ――アははははは――――!」

 

 エリスティンも知り得なかった自身の一部。子どもの時代が無かったからこそ分別を弁えずに奪い取ってきたかつての過去。記憶と知識を得てそれなりに自分を制御し始めてはいたが、ギルガメッシュの存在が、彼女に本物の童心を与えてしまった。

 ――滅亡(こわ)しても、良いんだ。だって、また創れるんでしょう?

 得たのは安心感。稚児の癇癪を宥めてくれる大人のような。空いたお腹を満たしてくれる両親のような。至極自分勝手な思想でいて、果てしなく純粋にエリスティンは歓喜した。私は世界を滅ぼすけれど、後はお願いね、王様?

 

 果たして。

 世界創生の一撃は、ほんの僅かな距離のアスファルトしか切り刻めずに姿を消した。

 変わらず立っていた二人の王。しかしてその面容は当初とはかけ離れ始めている。

 

「よもや、この一撃にまで牙を立てるとはな――」

 

 静かに激昂するはギルガメッシュ。彼の内に在るのは粉々に()み砕かれた矜持。『エア』は自身が最も誇り信頼を寄せる宝具であり、そこから放たれる『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』は絶対でなければならなかった。

 ソレを、喰う、だと? 在ってはならぬ。断じて許してはならぬ。この世の王として、それだけは、譲れない。

 

「あはァ、お腹が空いたよ、王様――」

 

 邪気の無い笑顔を見せるエリスティン。外れたリミッターは未だ戻らず、あまつさえ先の一撃を呑み込んでまだ飢えていた。

 もっともっと、食べてみたい。きっとまだまだ、すごいものが飛び出してくるに違いない。だって何でも持ってるのだから。その中のナニかなら――いや、総てなら。この空腹も満たせるやも知れない。

 

「その腹の底、引き裂いてくれる――魔王!!」

 

 ギルガメッシュは憤怒とともに再度の奇跡を振り翳した。まだ魔力には余裕がある(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)。新たなマスターに魔力供給の是非は問うまでもない。王に捧げるのだ。それで死したとして本望であろう。

 だが飢えた化け物にはただの御代(おかわ)りにしかならなかった。

 一つ目の世界(オードブル)を食い潰し、二つ目の世界(スープ)を呑み込んで、三つめの全力全開(肉と魚)までもその胎に収めてしまったのだった。

 なんだこの異常な有り様(しょくよく)は。この世の贅を身に浴びた己をして見たこともない暴食の獣。王の財宝を喰い荒らす、まさに外界の侵略者。

 

「おのれ――――!」

 

 竜巻より激しく、ハリケーンを超える暴風を以てしても歩みは止まらず。空間ごと引き裂く一撃を丸ごと呑み込む。

 

「つカまえタ」

 

 斯くして魔王は辿り着いた。燦然と煌めく世界の総てに。この世のありとあらゆるものを内包した黄金の王に。

 なんて綺麗なんだろう。なんて凄まじいのだろう。なんて――

 

「――おいしそう」

 

 ギルガメッシュはぞわりとしたものを背中に感じる。そして思い知った。外界の存在に、この世の理が通じる筈も無し――

 けれども真っ直ぐに王を見るルビーのような紅い眼が、あまりに純粋に己を讃えていて、ギルガメッシュは苦笑するしかなかった。

 

「なんという暴食よ。下品過ぎて目も当てられぬ。だが――純粋ゆえ」

 

 許してやらんこともない――

 魔王の牙が自身に突き立てられても、ギルガメッシュはその存在を赦した。コレは()だ子ども。なればこその傍若無人、天真爛漫。それに怒りを向けては王の度量にこそ(きず)が付く。

 直に触れて漸く解った。コレが飢えているのは、考えていたものとは、もっと違う――

 

 そうして黄金の粒子が虚空に消え、英雄王は聖杯戦争から脱落した。

 主の姿を後ろでずっと眺めていたディルムッドは戦闘と云うにはあまりに激しい衝突に呆けるしかなかった。静寂が耳朶を痛むほどに打ってやっと自我を取り戻し、主君たる魔王に駆け寄る。

 

「魔王様――!」

「…………」

 

 エリスティンは騎士の声に反応せず、喰らい尽くした黄金の影がまだそこに在るかのように手のひらを見つめ――やがて飲み下すようにして喉を鳴らしたかと思うと、(おもむろ)に立ち上がった。

 彼女の中にあったのは、生まれて初めて感じた満腹の枝折(しおり)。八分目くらいには満たされた胎が、エリスティンにこれまでにない感情を齎していた。今までどれだけを喰らってもほんの僅かにしか得られなかったものを、あの黄金のサーヴァントはたった数十分の内に埋めてみせた。創世の一撃、あれをあと二発でも喰らえばもしや何かが変わっていたのかもしれない。勇者との邂逅とはまた違う、己の存在意義が新たに生まれていたのやもしれぬ。そんな期待と後悔と、紛れもない称賛の念が彼女の内に生まれていた。

 

(むべ)なるかな。しかして総ては魔王の胎の中に。滅びはまだ止められぬ」

 

 どこか残念そうに言った彼女に、ディルムッドは深く瞻仰(せんごう)した。

 主は紛う事無く勝利した。あの人類最古の英雄王に。己では到底成し得ぬその偉業、畏れてなお賛嘆の意を表さざるを得ない。きっとこの魔王は世界を滅ぼすだろう。そう確信しても、もはや止める気など起きはしない。

 この身はもう英雄でなく騎士なれば。主の御身を守護し、帰趨を決する瞬間を見届けることこそが唯一賜わされるべき褒賞なのだ。

 

「我が主よ。見事な勝利に御座いました」

「ああ。――世界(おう)は美しかったな」

 

 礼賛を全能たる王へ。その身を喰らっても、ギルガメッシュの存在感はいつまでもエリスティンの中で輝きを放っていた。

 だが事が終わればまた、彼女は魔王として残された望みへ向かう。幾千年もの間、飽くことなく願った真たる勇者との邂逅。僅かに満たなかった胎の淵に、最後の一滴を齎すだろう者の進軍を、エリスティンはこの橋の上で待つことに決めた。

 

 征服王。見果てぬ夢への道中で、魔王さえもその踏み台にしようという大莫迦者。魔王さえも欲しがった、魔王をして貪欲と笑うしかないその在り様。きっと彼なら見せてくれる。座して待つだけのこの生に、生まれた意味を示してくれるはず。

 エリスティンはいつものように玉座を創り、傾き始めた冬木大橋の真ん中に腰を下ろした。

 

 どこまでも魔王らしく、やってきた全てを受け止めんと。

 

 

 

 







ああああああついに出したオリジナル魔術ルビぃwwwww
ラテン語辞書を引いて牙と飢餓を適当にくっつけたやつです。振り切って厨二心出し尽くしたらァ!とやったけどこうなんていうかゾワッときますwww

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