大変長らくお待たせしすぎて既に失踪判決が出ていても何も不思議ではないという……
それでも待っていたと言ってくださる方がいたら、とても嬉しいです。
さて、割と長く続いた幻物語も今回で最後となりました。
上手く幕を降ろせたかどうかはあまりわかりませんが、最後まで楽しんで
読んで頂けたらと思います。
それでは最終回、『幻物語 参拾ㇳ弐』をお楽しみ下さい!
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うつくし姫。
儂が主様にあの話をしたのはいつじゃったか……
……ダメじゃな、思い出せん。
何せ儂が吸血鬼になってから約七世紀、その七分の一をあの男と共に歩んできたことになる長いか短いで言うのなら、長いのだろうと儂は思う。だから忘れてもしょうがない。
それはそうと……
「か、かかっ……まさか発動のタイミングが揃うとは思わんかったわい……」
『童話・うつくし姫』と『自壊の願望』。
阿良々木暦によって紡がれる悲しい物語と、忍野忍によって語られる罪への嘆き。
『自壊の願望』によって『童話・うつくし姫』が物語から史実へと変化し、
『童話・うつくし姫』によって『自壊の願望』はより強い呪いとなり
忍野忍、及びキスショットに降りかかる。
「『――ツ!――――ッッ!!ガッ…………』」
「果てたか……まぁ無理もないの、碌な吸血鬼性も持たずにこの自殺衝動には耐えられぬ。……現に、儂も……っ!ぅぅぅあ……っ!!」
限界か……
儂が死んで、あの男はどういうリアクションをとるのだろうか。
怒るだろうか、悲しむだろうか。
願わくばたった一滴でもいいから儂の為に涙を流してほしいものじゃの……
「かかっ」
不思議じゃの
あの時、あの初めて我が主様に出会った時にはあんなにも怖かった死が
今じゃ何ともないわい
『自壊の願望』の影響なのか、それとも阿良々木暦という人間と出会えたからなのか……改めて振り返ってみると中々壮絶で愉快な生涯じゃった
「かかっ!」かかかかっ!!」
「…………」
「かかかかかかっ!!!」
「…………」
「かかかか……
「な、何爆笑してんの?お前」
「かかか――――はぇ?」
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咲夜さんの表情がただ事じゃなかったので全力で駆け付けたはいいんだけど……
「かかかかっ!!」
何アレ怖っ、めっちゃ笑ってるんですけど。
謎の胸騒ぎは何だったのか。
「あー、咲夜さん?忍さんがなんでしたっけ?」
「えっ、その……とても大きい魔力が爆発したと思ったら忍さんと敵が突然
血を噴き出して倒れたので……」
ふむ、なるほど……
噴き出した血は既に蒸発済み、そして寝転がって笑う忍……
「かかかか……
「な、何爆笑してんの?お前」
「かかか――――はぇ?」
少々の沈黙。
「咲夜さんが凄い形相で呼びに来たから文字通りすっ飛んできたんだけど……
もしかして忍も、使った……?」
とりあえず応急処置で忍を僕の血まみれにしながら
ほとんど確信していることを改めて聞く。
「……み、見ればわかるじゃろうがっ、がぼっ、ごぼごぼっ!
ちょっ、お前様!もういい、もういいわい!げほっ」
「あぁ、ごめんごめん」
これでもかと血を浴びせられ溺れかけた忍に平謝りして
忍を抱き起す。
「どうやらお前様の方もキリがついたようじゃな」
「そっちもな」
まさか同時にアレを使ってたとは思わなかったけど。
「忍さん、これは……死んでいるのでしょうか?」
少し離れたところで倒れて、目を開かないキスショット(仮)に
ナイフを向けて警戒する咲夜さん。
「死んではおらん……まぁそこは不死身の怪異だからこそか。
じゃがあの状態では放っておけばそのうち回復力が枯渇して消滅するじゃろうな」
「キスショット!!」
スキマの中から裏暦が慌てたように現れ、側に寄り添った。
というか何で生きてるんだコイツ
「人間としては死んでます。あれはもう思念体に近いかと」
「なんだ八九寺、まだいたのか」
文さんの掴んだリュックにぶら下がる形で輸送されてきた八九寺。
「まだいたとはなんですか、まだとは!!私達がいなければ今頃阿良々木さんは――」
「あの、紫さん。コイツらって一体どうなるんですか?」
ギャアギャアと五月蠅い八九寺は忍に投げつけて放置。
「どうなる、とは?それは貴方が決めることですわ、暦さん。
敗者は勝者の思うがままに、それが幻想郷のルールです」
「僕は……」
僕は、どうしたいのだろうか。
道を誤り、違う結末を迎えた僕を。
救いたいのだろうか。
罰したいのだろうか。
正直な所、『何も感じない』というのが今の気持ちだ。
僕なのに僕ではない。
僕は……こいつを……
「喰え」
「――は?」
キスショットを抱きかかえた僕と同じ風貌をした男は、
あろうことか『あいつ』と同じ要求をしてきた。
「だから喰えって、吸血鬼。エナジードレインだ。
それで兎の眼も、お姫様の怪力も、今まで俺が斬った『全ての怪異の能力』
がお前の物になる。キスショットに使った賢者の石もまだほとんど消費していない
後は元に返すなりお前が利用するなり好きにしろ」
「ふむ……おい、お前様。こやつの言う事、案外良い提案かもしれんぞ」
「なっ……忍まで!」
「考えてみろお前様、このままこやつ等を消滅させたら奪われた能力は帰ってこないままじゃ。しかしお前様なら……」
「僕なら……皆に奪われた能力を返せるのか?」
「この刀、『隠渡』の力は奪うだけじゃない。奪った能力の変換と譲渡、キスショットはその力を使って復活させた。最もこの世界のやつ等の能力は癖が強すぎて変換しきれなかったが。とにかく、この刀ごと俺を呑み込んじまえば万事解決、一件落着ってわけだ」
「お前は――」
それでいいのか、と言いかけて言葉が詰まる。
いいはずがないのだ。高校二年直前の春からこの男はあの地獄から抜け出せずにいる。
犠牲者のまま、自分の後悔に縛られ人の枠から外れてしまったこの男を僕は……
「殺せるのか、って?優しい、優しいねぇ主人公。一方的で、残酷な、善意の押し付けだ。殺せ阿良々木暦、俺はもう十分満足した。そろそろ俺の物語も幕を下ろしてもいいだろ?悪いが奪った能力、返しといてくれ」
「そんな借りてたDVD返しといてくれみたいな…………ホントにいいんだな?」
「あぁ、既に骨身は残ってないからもう一人の阿良々木暦の魂、残さず喰いきってくれ」
そう言われるとなんか嫌だなぁ……自分食べるのかぁ……
「お前にも謝らないとな、キスショット……二度もお前を死なせてしまって……」
悲しげな目でキスショットの頭を撫でる裏暦の首筋に僕は歯を突き立てた
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『う……』
『目が覚めたか、従僕よ』
気が付くと俺はキスショットに膝枕されていた。
『お前、キスショットか?ここは……』
キスショットの膝から起き上がり、周りの景色を確認する。
そしてその結果、学習塾跡の屋上だった。
『ここはあの時のままじゃな……』
羽川を失い、意気消沈する僕に気分転換にとここで話をしたのだ
『その後、お前と戦って……俺は、お前を……』
『そうじゃったな……』
『俺はまだあの時の――』
『なぁ従僕よ、儂はな、あの時うぬに殺されたかったんじゃ』
『……え?』
『元々、儂はあの場所……うぬと初めて出会った場所でひっそりと死んでいくつもりじゃった。しかし直前で、うぬに出会った儂は死ぬのが怖くなった。無様にも命乞いをしてしまった』
『それを、僕が助けた……』
『そう。何も関係ないはずのうぬは自らの命を差し出した。なんのメリットも無いというのにな』
『今の俺には想像できない行動だな……』
『嬉しかった』
『え?』
『嬉しかったと言っておる。あの時助けてくれたことも、あの時殺してくれたことも
うぬはその時最も辛い選択を儂の為に選んでくれた。感謝しておるよ』
『俺は、間違っていなかった……のか?』
『そうじゃな……うぬが間違ったのだとしたら、儂を殺した後も怪異と関わってしまったことかのぅ』
『それは……』
初めのうちは忍野への借金を返済するためのアルバイトのつもりだった。
キスショットの残した心渡、夢渡があったから戦闘に関して苦労することはなかった。
そしてとある件により、自分のいる世界が本来とは異なった歴史を歩んでいることを知った。
あの【主人公】の世界を知った。羨ましいあの世界を、笑い、泣き、怒り、都合よく進んでゆくあの世界を知った。
だから……
『やり直そうと思った……か。のぅ我が従僕よ、置換魔術による過去の再現に儂を置換しなかった理由を聞いてもよいかの?』
『お前が、良かったんだ。お前だけは、他で代用なんてしたくなかったんだよ』
『う、うぬ……よくもそんな恥ずかしい台詞を臆面もなく口にできるな……』
『悪かった、キスショット。俺の我儘のせいでお前を二度も死なせてしまった。』
『気にするな、我が従僕よ。儂は吸血鬼じゃぞ?二度どころか何千、何万と死んでおる。それに……またうぬに会う事ができた』
そう言ってキスショットがこちらに腕を伸ばし、引き寄せてくる。
『キスショット……?』
『愛しておるぞ、我が従僕。いや、暦。じゃからそんなに自分を嫌わないでくれ。
儂が愛する男を嫌う者がいるというのは、悲しいからの』
『……俺も、愛してるよキスショット。だから、僕に殺されて死にたいだなんて悲しいこと、言わないでくれよ』
男の物語は幕を下ろす。
その結末が幸か不幸か、それは当人たちにしかわからない。
それは、阿良々木暦とは違う、阿良々木暦の幻の物語。
阿良々木暦の、終わりの物語。
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後日談。というか今回のオチ。
裏暦を吸収し、妖刀『隠渡』と奴が奪ってきた大量の能力、魔力、妖力を手に入れた。
これらを返す過程でもまたひと悶着あったのだが、それはまたおいおい。
あの後地霊殿と紅魔館からの融資により、僕は人里から少し離れたところに住居を建てることが出来た。
現在はそこで怪異の専門家……みたいな事をやって生計を立てている。
専門家といっても病や呪いの治療がメインで、妖怪相手にドンパチするような派手な仕事はしていない。
そういうのは目の前の紅白巫女の仕事だ。
「にしても、この無駄な大きさは何なのかしらね。アンタ達2人じゃかなりもてあますんじゃないの?」
来客用の椅子に腰かけ、来客用のお茶菓子を盗み食いする霊夢が皮肉をたれる。
「何だか元々店としても使えるようにわざと大きめに建ててくれたらしい。
まぁ、お客さんが来ない日もこうしてお前や魔理沙、レミィがほぼ毎日遊びに来るから
もてあますってことは無いよ」
八九寺の命令(本人は啓示とか言っていたが)により設置した、北白蛇神社の分社的な神棚から八九寺も遊びに来る
「ところで忍は?こんなに広い家に住んでるのにまた影の中にいるの?」
「あいつは今日紅魔館に行ってるよ。咲夜さんが新作ドーナツを開発したんだってさ」
「ふーん……随分と馴染んでるわねぇアンタもまだ慧音の寺子屋に顔出してるみたいじゃない?」
ほほ笑む霊夢だが目が笑っていない。
『不用意に人里には近づくなと言ったはずだが?』
というプレッシャーが凄い。
「い、いやほら、あれは慧音先生が……」
『あのー、すみませーん。怪異の相談所ってここで合ってますかー?』
霊夢がスペルカード手を伸ばす瞬間、扉の向こうから救いの声があがる。
「ほ、ほら!霊夢!お客さん来たみたいだからさ!今日の所は帰ってくれよ!
話はまた今度聞くからさ!」
「……ちっ、わかったわよ。退治系の依頼だったら私に回しなさいよね」
「さて……」
お客を迎え入れる為、僕は玄関のドアノブに手をかける。
ここから、阿良々木暦の物語は再び始まるのだ。
幻想郷での阿良々木暦の活躍、乞う、ご期待。