まりやの誕生日企画で書いたものです。
というのを前にも言ったような記憶が……w
使い回しで申し訳ないw
その日――雲雀は応接室のソファーに深く腰を置き、一人物思いに耽っていた。
雲雀は、とある女子生徒のことをふとした時に思い浮かべ、近頃は知らず識らず溜め息を吐く回数が多くなっていた。
雲雀を悩ます少女の名は、花内まりや。
今年新たに並盛中学校に入学を果たした極々平凡な草食動物……――かと思いきや、彼女には普通の草食動物にはないある
そして、少女のことを雲雀は『ドジっ娘』と呼ぶ。
他に類を見ない究極のドジ体質であることから、雲雀は彼女を一種の『珍獣』と見て、日々自身や並盛に危害がないかを心配していた。
そんな彼女のことを、雲雀はいつしか考えずにはいられなくなっていた。
気づけばこうして彼女のことを考え、思い悩む日々。
彼自身もそんな自分に飽き飽きしていた。
そして、ついに行動に出るのであった。
「わからないなら調べ上げるまでだ。彼女の生態を洗いざらい掴んで…… 咬み殺す」
腰を上げると雲雀は確固たる決意を胸に、机へと向かっていった。
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翌日の早朝――雀の鳴く声が快晴の空に響き渡り、雲雀はいつものように学ランを肩にかけ物陰に身を潜めていた。
普段の彼ならこの時間にはまだ眠気が覚めず大欠伸の連発だが、昨日はこの日のために10時間の睡眠をたっぷりと取っていたので、今日の彼のコンディションは万全である。
切れ長の鋭い双眸で、彼は物陰からある民家の玄関をじっと眺めていた。
カチャリと、玄関のドアが開かれる音がする。
来た、と雲雀は固唾を飲んで、玄関のドアから出てきた人物を片時も目を離さず追った。
今日は黄色いリボンのカチューシャを頭に装着して登校するまりやの姿を視認し、雲雀は彼女の後を隠れてこっそり尾行するつもりだった。
所謂"ストーカー行為"だが、彼がそれに気づくことはない。
そんなものは彼の脳内辞書に載っていない項目の上、彼がそうすることを咎める者はここにはいない。
従って本人も気づいていない内にストーカー行為が始まってしまったのだが、開始早々問題が発生した。
「へぶぅッ!」
玄関を出た早々、道端に放置された犬の糞を豪快に踏んだ上に滑って自爆していた。
頭をもろにコンクリートの地面に強打したらしい。転けたままの態勢で悶えている彼女の姿を、雲雀は呆然とそこから眺めた。
雲雀はふと思った。
果たして自分のこの行為に、意味はあるのだろうかと。
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気を取り直し、すでに授業が行われる1-Aの教室前に佇んでドア越しにこっそりと花内まりやの観察に入ってみた雲雀。
教室の後方のドアから気配を薄め覗いているので、授業を受ける生徒や黒板に向かう教師に感づかれる心配はないだろう。
監視カメラで彼女の生態を観察する気は毛頭ない。
画面越しに対象を観察するなど、もしもの時にすぐに手が出せないことから、少々の危険は顧みずに雲雀はこうして一種の犯罪行為を続行していた。
ちなみに、風紀委員会の仕事等は昨日のうちに全て片しておいてあるので、今日の彼は思う存分気になる彼女の生態を観察できるということで、機嫌はなかなかの上々であった。
しかし、今が授業中ということで、ターゲットの方は行動もなくクラスの草食動物たち同様普通に授業を受けている。
正直見ていてつまらない。
教室に集う草食動物の群れをただ眺めるなど、彼にとっては拷問とも呼べる。
咬み殺したい衝動はあるが、そうなれば本来の目的である"生態観察"ではなくなり、また相手にこの行為が感づかれる可能性もある。ここはぐっと堪え、おとなしく観察を続けた。
だがそこに、思いも寄らない事態が発生する。
一人の男子生徒が立ち上がると、教壇に立つ教師に告げる。
「先生ー、トイレ」
一瞬ワッと教室に笑いが起こったが、教師がひとつ咳をしてそれを許すと、その男子生徒は気だるげに、歩みを雲雀が潜む後方側のドアへと進める。
雲雀は焦った。自分がここにいるのは明らかにおかしい。
しかし、今ここを去れば生態観察に支障が生じる。一秒足りとも彼女のもとから離れその生態を見逃すわけにはいかなかった。
そして、雲雀は覚悟を決めた。
「うひゃああああッ!? ひひひ雲雀さんッ!?」
ドアを開けると男子生徒は、かの並中最恐風紀委員長の雲雀恭弥がそこにいたことに聞いて呆れる素っ頓狂な声を出すとヘナヘナと腰を抜かしていた。
見つかった雲雀は無言のまま、教室からの視線を集めた。その中には無論ターゲットである花内まりやの視線も含まれている。
彼女からの視線が居た堪れない気もしないが、雲雀の存在に慄く教師からの問いに彼はこう淡々と答えた。
「授業をサボる不届き者がいないか、新たに風紀委員会で考案された抜き打ち授業チェック。授業の風紀を乱す者は僕が許さない」
その場で思いついた適当な案をこの時誰もが信じ、そして全員の顔が一気に青ざめたのだった。
上手く騙せたと内心安堵する雲雀は、少し予定は狂ったが問題なく教室内で堂々と珍獣ターゲットの観察をすることにした。彼にとっては、思惑が漏れなければ問題ないのだ。
教師も生徒も黙り込んで静まり返った教室で、雲雀は生態観察をしつつ、授業をサボろうとする者は宣言通り咬み殺しておいた。
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そして時間が過ぎ、お昼となる。
しかし、これと言ってまだ収穫はなかった。
蕁麻疹を堪えて態々群れの中(教室後方の窓際)にまで潜ったのに、見せられたのは開いていた窓から浸入した蜜蜂に体中を刺されていた憐れな光景だけだった。
物足りなさに手が出そうになったが、本来の目的を思い出し教室の隅でじっと蕁麻疹をさすり続けた。
お昼ということで、颯爽と教室を出てきて屋上へとやって来ていた。
昼休みにまで自分があそこにいるのはさすがに言い訳がつかない。
蕁麻疹のことも含め、一休みという名目を置いて彼は人気のない屋上に来ていた。
生態観察が途切れてしまったことには、彼はもう開き直っていた。
「本当に…… 君は厄介な標的だね、ドジっ娘」
蕁麻疹をさすりながら、ここにいない彼女に届かない言葉を呟いた。
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それからもこれといった成果は得られず、そしてついに放課後となってしまった。
追い詰められてしまった雲雀は、下校途中の彼女を民家の屋根の上から眺めて思考に耽った。
少しでも相手の弱点や、咬み殺すヒントとなる何かを掴みたかったのだが、見せられたものが思考をぶっ飛ばす滑稽極まりないドジっぷりばかりで、また今日は一日中それを見せられ雲雀はとうに参っていた。
気だるげに雲雀は、ボロボロの姿で下校する彼女を見てふと思った。
今日一日中ドジをしまくって体力のない彼女なら、ここで咬み殺せるのではないか。
今更ながら雲雀はその考えに至る。
自身もかなり疲労しているが、彼女に比べればまだまだ動ける。
このチャンスを逃すまいと、雲雀は早速実行に移そうとした。
とりあえずは一定の距離を置き、そっと地に足を着く。その後をつけて咬み殺しの機会を窺う。
ターゲットの方は雲雀の存在に気づくこともなく、角を曲がろうとしているのを見て、雲雀はこの角を曲がった先で彼女を咬み殺そうと懐からトンファーを構えた。
一歩二歩と慎重に歩み寄り角を曲がろうとした雲雀だったが、突き当たりで同時に何かとぶつかり視界が揺らいだ。辛うじて頭を庇ったが、背中から倒れたのでもろに強打してしまった。
鈍い痛みに顔を歪める雲雀の耳に、その時すぐ近くから声がした。
「ひ、雲雀さん……!?」
自身に覆い被さるように目の前にある花内まりやの顔を見て、背中の痛みもそっちのけで心臓が音を立てた。
何が起きたかはわからないが、ターゲットである彼女が自身の上に跨ってこちらを不思議そうに見ていることに、内心ではこちらの魂胆がバレないか、動揺していた。
当然彼女の方からも、雲雀へ率直な質問が投げられる。
「あの…… 雲雀さんがどうしてここにいるんですか?」
「………………散歩」
「………………トンファー持って?」
「………………」
痛いところを突かれ口籠る雲雀を、花内まりやは今の自分たちの状態も忘れて不思議そうに見つめていた。
まさか今朝から彼に尾行されていたとは知るはずもない。
「………それで、いきなり引き返してどうかしたのかい」
多少無理矢理に話を逸らして、地味に軋む背中を庇いながら雲雀は起き上がった。
彼の問いにあまり深く考えなかった花内まりやは、事態を思い出してサーッと顔を青くさせる。
「そ、そうだ…… 私、さっき誤って近所で凶暴って噂の犬の尻尾を踏んで……」
「バウバウッ!」
「ひゃああああッ!」
その犬の鳴き声を聞いただけで震え上がり雲雀にしがみつくまりやを、雲雀はまた呆れたような、この事態に戸惑ったような複雑な心境の中で彼女を見下ろした。
一息を吐き、牙を奮い立てて襲いかかろうとする犬に、己も牙を突き立て殺気を放った。
雲雀の殺気を正面から受けたその犬は、雲雀を己より格段に強いことを、その殺気と彼の鋭く獰猛な眼付きで察し、すぐに方向転換すると走り去って行った。
「行ったよ。……もう放して」
「あ、ありがとうございます」
少し頬を赤くして礼を言ってくる彼女の姿を、雲雀は見て特に悪くは思わなかった。
「あの」
「何」
「…………腰抜けました」
「…………………」
さっきの言葉を訂正して、今すぐに彼女を咬み殺したいという衝動に駆られる雲雀だが、その気も体力ももうすでに残ってはいなかった。
今日は今まででも一番疲れた日だが、ある意味で楽しめた一日でもあったと、雲雀は内心で一息吐いた。
「次は……… しばらくは考えたくはないな」
「はい? 何がですか?」
「別に。君は明日応接室に来て、今日の報酬分働いてもらうから」
「えぇ……? そんなぁー!?」
ドジっ娘の生態観察。
それは風紀委員長でさえ、手を上げるほど厄介なものだ。
まだ当分は彼女を咬み殺せないことを、雲雀は今回の一連を通して理解したのであった。