「はあ……」
西住師範が部屋を出ると同時に深いため息が出てきた。 よくもまああの師範相手にあそこまで言い返せたものだと自分の事ながら驚いていた
「すまないエリカ、うちの家の揉め事に巻き込んでしまって」
まほ隊長が申し訳なさそうにそう言った
「いえ、いいんです。 それよりみほはどこの高校に転校を?」
「茨城の大洗女子学園だ。そこは戦車道がない所らしい。みほの心情を考えるとそれが良いのかもしれない、戦車を見るのも拒むくらいの今のあの子には自分自身を見つめ直す時間が必要なのだから」
「隊長……」
茨城、か。 随分と遠い所を選んだものね。 それだけ今のみほには黒森峰、西住流、戦車道、これらすべてが恐怖の対象になっているのでしょうね……
「ところで隊長。 どうして師範は私を副隊長に指名したのでしょうか?」
「それは私がお母様に推薦したの」
「隊長が? 何故私なんですか? 三年の先輩方のほうがよろしかったのでは?」
私よりも経験豊富で副隊長に適した人材がいるはずだ。 しかし隊長は首を横に振った
「実力があれば学年は関係ない。 それに私個人としてもエリカに副隊長に就いてもらいたいと思ったから」
隊長が私を? しかし何故私なのだろう? 理由が分からない。 隊長に尋ねても理由を教えてはもらえなかった
私が副隊長代行に就任することを、後日全体ブリーフィングで隊長から皆に伝えると隊長本人から聞くと私は西住邸を後にした
学園に戻ると小梅とみほと親しかったチームメイトが心配そうな顔で待っていた
「エリカさん!! 大丈夫でしたか!? 」
「どうしたの? 師範に何か言われたの!?」
「実は、ね……」
私はみほが黒森峰から去ったこと、 副隊長代行に就任することになったことを伝えた
「……あの時、私達が川に落ちさえしなければみほさんは」
小梅達三号に乗っていたメンバーは暗い表情であの時の事を悔やんでいた
「……あの決勝は世間では天候に負けただけとか運がなかっただけとも言われているけどそれは単に私達が隊長やみほに、西住流に頼りきりだったから。 私達が弱かったから」
「…………」
「でも私達は強くなれる。いえ、強くなるわよ。今度こそ隊長の期待に、そしてあの時のあの子の行動が間違っていなかったと証明するために」
「「…はいっ!!」」
私は本年度から乗ることになるティーガーⅡを見つめながらそう自分に言い聞かせていた
正式に副隊長代行に就任してから数日後、黒森峰に一人の来客が訪れた
「あ、逸見さん。 こんにちわ、元気してたかしら?」
「蝶野さん!! お久しぶりです」
この人の名は蝶野亜美。 富士教導隊所属の自衛官で階級は一等陸尉。 私と同じく隊長の母親、西住しほを師範と仰ぎ、また日本戦車道連盟の強化委員を務めている
「今日はどのような用件でこちらに?」
「たまたま近くを寄ったから師範にご挨拶でもと思ってね。 そうそう聞いたわよ? 副隊長代行に就任したらしいわね? でもなんで代行なの? 貴方なら代行じゃなくて副隊長としてやれるでしょうに」
「まあそこはちょっと意地みたいなものでして……」
「そう……。あ、そうそう来月、戦車道が復活する学校があるのだけど知ってる?」
「この時期にですか?」
文部科学省が数年後に日本で開催される世界大会に向けて力を入れているという話は聞いてはいたが、それに伴い戦車道を復活させた学校があるというのはまだ黒森峰には届いていなかった
「実はその学校から戦車道の教官として指南してほしいと要請が来てるのだけど……。 ねえ? 逸見さん、来月予定とかある?」
「い、いえ特には……。あの蝶野さん、一体何を?」
「ふふ、ちょっと良いこと思いついたのよ! グッドアイディアをね」