「……二人してうちの玄関先で一体何をしているんだ?」
「「隊長!?」」
不思議そうにこちらを見る隊長。そりゃ人の玄関先で不審な行動すればそうなるわよね
「い、いえ、その、 そう! 隊長のご実家ですから緊張してしまいまして! ね、ねえ? 小梅?」
「そ、そうなんです! 恐れ多いかなと! あ、あはは……」
師範がいたらどうしようとインターフォン押せませんでした、なんて言える訳ない
「大袈裟だ。ただ古い家なだけだ。それで今日はどうしたんだ?」
「はい。 今日は……」
…………………………
え、えーと、へんな所ないよね? 掃除は大丈夫、整理整頓も出来てるっと。
今日は久しぶりに私の部屋に友達がやって来るので、自分の服装や部屋の中がおかしくないか最終チャックをしていると
コンコンっとドアをノックする音が聞こえた
「は、はいっ!?」
「みほお嬢様。 ご友人の方々がお見えになられましたが宜しいですか?」
「う、うん!! いいよ、入ってもらって」
私がそう答えるとドアの向こうで
「分かりました。 では、何か入用になったときはお呼びください♪」
「あ、はい。 ありがとう御座いました」
そんなやり取りが終わると「お邪魔します」と二人が部屋に入ってきた
「いらっしゃい。うちに来るまで大変だったよね?」
「いえいえ、ここまで来るのはそんなに大変じゃなかったですよ? ま、まあ入り口あたりでちょ~と時間掛かりましたけどね? ねえエリカさん」
「ま、まあ、ね」
「じゃあ、ここまで菊代さんが?」
「いえ、玄関先から途中までは隊長が案内して下さったの。あの後は菊代さんにここまで案内して貰った訳」
「…そうなんだ」
お姉ちゃんが……
「ところでその菊代さんなんだけど、ここに来るまでずっとニコニコしてなんか上機嫌だったけどいつもあんな感じの人なの?」
「え、え~と、いつもは落ち着いた感じの人なんだけど。なにか良いことでも有ったんじゃないかな? あ、あはは……」
い、言えない…。私が久々に友達を連れてくると言って張り切っているとは……
「さてと。いきなりだけど、今日ここにきたのはこれを渡す為よ」
そう言ってエリカさんが出してきたのは大きな包みに包まれた物だった
「……開けてもいい?」
「ええ」
丁寧に包み紙を外すとそこから出てきたのは
「ボコだ!! しかもこれ限定生産版で数が少なくてレアな奴だ!! 」
「気に入って貰えましたか?」
「うん、とっても!! どうやって手に入れたの?」
「え、ええと。 それはですね……」
みほにそう言われた二人の脳裏には二週間前のあの出来事が脳裏に浮かんだ
二週間前
「確か、あの子ボロとかいうくまが好きだったかしら?」
「エリカさん、ボコの間違いです」
エリカの自室で二人はパソコンでボコを手に入れようと探していた。ネットのオークションですぐに見つかったのでどうせならレアなものにしようと限定生産の奴を選ぶことにした
「これレアなのよね? なのに100円からで未だに入札者がいないってどうなのよ」
「ちょっと調べてみたんですがどうもこのボコってくまのぬいぐるみあまり人気が無いみたいでそのせいで安いのかと。あ、ただ数が10個しか生産されていないみたいですからレアといえばレアですね」
「それレアって呼べるの?」
まあそれなら簡単に落札できるかとさっそく100円入札するとすぐにエリカのパソコンのメールに最高落札者ですとメールが届いた。やれやれと思っているとすぐに新たなメールがやってきた
そこには価格更新という件名が書いてあった
「え?」
エリカは慌ててパソコンの更新ボタンを押すと新たな最高入札者の名前があった。 落札者の名は「不思議のアリス」と書かれていた
「はあ……、コアなファンもいたものね」
現在の価格は200円。ならばその10倍の2000円なら相手も諦めるだろうと思っていたが入札しようとしたらまたしても価格更新の文字が……
「なっ!? だったら5000円ならどうよ!?」
しかし、出てきたのは価格更新の文字
「……フフフ、そういうこと。いいわ、この挑戦受けて立つわ! 西住流に撤退の文字はないわ!」
「ち、ちょっと!? エリカさん!?」
こうしてあれよあれよと価格は上がっていき、気づいたときにはえらい金額になっていた
「くっ!? もうこちらの軍資金(貯金)では手が出せない……」
「も、もう止めておきましょうよ~、無理ですよ~」
するとエリカは携帯を取り出して何処かに電話をしようとする
「エ、エリカさん? 一体何する気ですか?」
「…隊長にお願いして、黒森峰機甲科の予算の一部をまわして貰えるように頼もうかと」
「一番やっちゃいけない事ですよ!? それ!!」
ダメだ、はやく何とかしないと偉い事になる……。小梅は何かないかと携帯で調べてみると一筋の希望の光が……
「エリカさん。 これこれ」
「何よ? 早くしないと入札が……」
小梅が見せたのは誰もが知っている通販サイト森林。そこにはこう書かれていた
新品!!限定生産版 ボコられボコ人形 3000円
「…………」
「……、時には戦略的撤退も必要よね?」
「時には退く事も大切かと」
こうして森林でポチっとし事なきを得たのである
「ま、まあ色々ありましたけど上手い事手に入ったんですよ」
「そ、そうなんだ。 でもどうしてこれを私に?」
「それは、アンタが頑張ってるご褒美みたいなものよ」
「ご褒美?」
「そうですよ。 みほさん、毎日毎日、副隊長として頑張ってるじゃないですか」
「そんなことないよ」
そう。 私はただなんとか西住流の、黒森峰の副隊長としてしっかりしないといけないと思って形振り構わずやってきただけだから……
……………………………
縁側に座って晴れ晴れとした空を見ながら、まほはエリカ達を案内していた時の事を思い返していた
「それで今日はどうしたんだ?」
「はい。今日はみほさんを元気つける為にきました」
「みほを?」
「はい……。 あの子は今、西住流の『伝統』という壁、そして周りからの重圧に耐えてなんとか頑張っています。 そんなあの子に私達が出来ること言えばこんなことぐらいしかないですから……」
悔やむような目で二人はそう話していた。他人の為にそこまでなれる友人をみほは得たようだな
なんとか私が黒森峰にいるあいだに『伝統』を変え、みほに引き渡さなければならない。そのためにも黒森峰9連覇をなした車両性能を生かした、ある意味力押しのような戦術から脱却しないといけない
今のままではいつか通用しないときが必ずやってくる。そう、小隊指揮官の自主的判断による機動戦。そうなれればいいが一度染み付いた『伝統』に新しいモノを浸透させるには時間が掛かる……
そんなことを考えていると、自分のほうに近づいてくる足音が聞こえてきた
「ん……。エリカ、か。 どうした?」
「いえ、隊長の姿が見えたものですから」
「いいのか?抜け出してきて」
「実はみほのボコ講座が始まってしまいまして。小梅に押し付けてきました」
みほの部屋ではというと
「えっとね、これがデュラハン・ボコで、こっちがナイトメア・ボコ。 ねえ?可愛いでしょ♪」
「え、ええ。 色んな種類があるんですね。あ、あはは……」
押し寄せるボコワールドに小梅は苦戦を強いられていた
「エリカはあのクマの良さが分かるか?」
「隊長はどうなんですか?」
「うむ。……実はよく分からない」
「私もです」
「ふふっ、もしかしたらあのクマはどの強豪校よりも強敵かもしれないな」
「確かに」
それから二人の間にしばらく無言の時間が流れた
しばらくして沈黙を破ったのはエリカの方だった
「隊長」
「なんだ」
「あれから、……みほとは話せましたか」
「ああ。どこにでもいる姉妹のようにはまだ行かないがそれでもぎこちないながらもみほと話をすることが出来たよ。言われた通り、『ただの私』に戻ってな」
「そうですか……」
みほがエリカの所に泊まることになったあの日。あの電話があったからこそ再び結ぶことが出来た姉妹の絆
「……未だにみほのやり方や副隊長の座についていることに反感を抱いている者は多い。だが今大会で10連覇を成し遂げれば反感を抱いていた者もみほのことを認めざるえないはずだ。エリカ、これからもみほのこと支えてやってくれ」
「もちろんです。……かならず果たしましょう、10連覇」
「ああ……」
二人は決意を新たに、広い青空を共に見上げていた
しかし、ふたりはこの時気づいていなかった。 この二人の会話を影で聞いていた者がいたことを
「……お姉ちゃん、エリカさん」
それから時が過ぎ、決勝戦当日。 黒森峰はあの「事件」で敗退、10連覇を逃してしまう……
………………………
「それじゃあ、みぽりん。 また学校でね」
「うん。皆、また明日。学校で」
笑顔でみほの部屋を後にした沙織達だったがその足取りは重かった
「明らかにあのクマの事を聞いた後から西住殿の様子が変でしたね。 私何か不味い事を聞いてしまったのでしょうか?」
「いや、秋山さんのせいじゃないだろう。 確かにあのくまに対して何かあるのだろがそれを問い詰める訳にはいかないだろう。西住さんが話してくれるのを待つ以外ないだろうな……」
「麻子さん。……そうですね、それが私達ができる唯一出来ることですね」
「……みぽりん」
沙織達は心配そうに今さっきまでいた部屋の明かりを見つめていた
「…………」
笑顔で沙織達を見送ったみほは、静かにベッドの上に座り、ボコを手に取っていた
しばらくするとボコの上から数滴の水が落ち、ボコの頭を濡らし始めていた
「……あれほど私のことを支えてくれた人達がいたのに。それなのに……、私、は、逃げて、ここに、いる……」
さっきまであんなに賑やかだった空間だったとは思えないほど静まり返った室内で、みほは肩を震わせながら静かにボコを抱きしめていた……
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