清姫は大好きなキャラクターの一人です。
連載にしていますが、そんなに続かない模様。たぶん、2話くらいで終わります。
――――どうして。
どうして逃げるのですか。
必ず会うと約束したのに。
どうして逃げるのですか。
こんなにも想っているのに。
どうして嘘を
どうして、どうして、どうして、どうして――――――――!!
ああ、貴方様が遠退いていく。
貴方様の声が愛しい。
貴方様の笑顔が恋しい。
貴方様に裏切られたのが悲しい。
貴方様の背中が悲しい。
貴方様の嘘が悲しい。
――――――――貴方様が、憎い。
貴方様が幾度輪廻転生しても、どこまでも、どこまでも、どこまでも、私は追い続けましょう。
だって、安珍様。
「はぁ……。
とても嫌な気分ですわ。何故、
どうか嘘を吐かないでくださいましと、お願いしましたのに。
体調を崩して、どうしてあんなに真っ青で辛そうな顔をしていて、何故あんな嘘を……。
――――いいえ、嘘吐きなのは私なのでしょう。
あの日、
その時の私は、怖かったでしょう。恐ろしかったでしょう。醜かったでしょう……。
再び間違いを犯しかけた時には、もう遅かった。竜に変化した私を見上げて
影の私が言ったように、私は獣なのでしょうか。醜い部分を晒して、それでも己を愛せだなんて、傲慢なのでしょうか。
ああ、普段は明るく見えるカルデアの通路が、今日ばかりは暗い迷路のように見えてしまいますわ。
もう、私は旦那様のお傍に居てはいけないのかもしれませんね……。なら私はいっそ――――。
「――――そんな暗い顔で歩かれると、こちらまで気分が重くなるのだが。折角の顔が台無しだぞ」
顔を上げた先で、赤い外套に身を包んだ
赤い外套のアーチャー――真名を「エミヤ」と言う彼に連れられて、私は彼の私室に招かれました。
真っ白くて清潔さを感じるその部屋は、
「入口で突っ立っているのはいいが、座ったらどうだね?」
皮肉めいた物言いでいて、こちらを気遣うような眼差しが私は少し苦手です。悪い方では無いのは分かっているのですが。戦いでは、とても頼りになりますし。
私が椅子に座っていると、エミヤさんはワゴンの方で何やら準備を始めました。お湯を注ぐような音が聞こえますが……。
トレーに載せて運ばれたそれを、エミヤさんは私の前に慣れた手つきで置きました。
ガラスで出来たカップには、柔らかい琥珀色の飲み物が注がれていました。甘くて、心が落ち着くような……そんな香りがしますね。
「これは……」
「ジャスミン茶だ。心が疲れた時などに飲むと、リラックス出来るそうだ」
本来なら私も、
…………折角エミヤさんが用意してくれたのですから、頂かなければ失礼ですね。それでは、一口――。
「――――おいしい」
とても、不思議な味。世界には、こんな飲み物もあるのですね。
「気分は落ち着いたか?」
「はい、とても」
「そうか」
そんな影のある笑顔を浮かべなければ、もう少しモテると思うのですけれど。私の好みの問題? そうですね、私は
「噂は聞いていましたが、本当にお上手なのですね。メル友のタマモさんが感心していましたわ」
「お褒めに預かり光栄だ。何か悩み事があるのなら、
エミヤさんの真剣な顔を見て、私は思わず俯いてしまいました。だって、そんな真摯な視線を向けられたら、見ていられる筈がありません。
「マスターに、嘘を吐かれてしまいました」
そうして私は、事のあらましをエミヤさんにお話ししました。その間ずっと、エミヤさんは私の向かいで黙って聞いていてくださいました。
「私もマスターが体調を崩したと聞いて、見舞いにでも行こうと思っていたがそんなことになっていたとはな……」
「何も知らされていなかったのですか?」
「いや、Dr.ロマンから騒ぎがあったとしか聞いていなかったが……。なるほど、君がそうだったのか」
嘘は言っていないようですが、一人で勝手に納得しないでいただきたいです。私にとっては、結構大事なのですが。
「マスターやマシュさんからも連絡は?」
「無かったな。戦闘に出なければならないほど急を要することでは無かった、ということだろう」
「私が竜の姿になっても、ですか?」
「ああ」
そんなに、私は失望されてしまったのでしょうか。もう、私には追いかける価値も無いのかもしれません。
「清姫。何故マスターが、君の言う『嘘』を吐いたのか、分かるか?」
「だからそれを、悩んでいるのです。――あんなにも大見得を切ったのに、
それも、仕方の無いことなのかもしれません。
傍に置けば、いつか自分が殺されてしまう。そう考えたのなら、あのような嘘を言ってしまうのも当然です。
「ふむ。君は、とんでもない勘違いをしているな」
「何を――――」
言っているのですか、と口にしようとしましたが出来ませんでした。どうしてそんな、呆れたような笑顔をエミヤさんは浮かべているのでしょうか。私がいったい何を勘違いしていると言うのでしょうか。
「そう殺意を振り撒くな。呆れているのは事実だがね。よくもまぁ、そんな飛躍的な思い違いが出来たものだ」
皮肉げな笑みが頭にきて、私は思わず机を叩いて立ち上がっていました。
「だって、そうでしょう!
マスターが私に向けてくれた笑顔も、私に言ってくれた言葉も、全部…………全部が嘘――――!!
こうしてはいられません。早く、マスターの令呪を奪って差し上げないと……!!
「出て行くのは勝手だが、マスターを殺すというのであれば、私も黙って見過ごすわけにはいかんな」
いつの間にか背後に回っていたエミヤさんが、何処からともなく取り出した夫婦剣の片方を、私の首筋に当てていました。
「――――っ」
「頭は冷えたか?」
「……ええ」
私の返答を聞くと、エミヤさんは片手に握っていた剣をいつの間にか仕舞って、自分の席に戻っていました。
――――あの刃に込められた、恐ろしいまでの冷たい殺意が無ければ、私は今頃部屋を飛び出して
私が席に戻ると、エミヤさんはお話の続きを始めました。
「何度も言わせてもらうが、君のそれは勘違いだ。マスターは君を嫌ってもいなければ、見限ってもいない。ただの見栄だ」
そういえば、
「そんなことをして、
「大方、君を安心させようとしたのだろうよ。君に心配を掛けたくない一心で、大丈夫だと言ったのだろう。尤も、君相手に選んだ言葉が間違っていたがな」
「そう、だといいのですが……」
私には、やはり男心というものが分かりません。迷惑であるのなら、はっきりとそう言ってくださればいいのに。
「――どうして、嘘を吐くのでしょうか」
ふと零れたのは、素朴な疑問。人は、どうして嘘を吐いてしまうのでしょうか。
「自分の利益を得るため、或いは自分の身を守るため。誰かを気遣って言うこともあれば、悪意を以って騙そうとするため……。理由は様々だろうが、結局はそれが人間にとって、必要なものだからだろう。嘘というのは、強力な盾になることもあれば危険な刃と化すこともある。嘘を吐くということは、偽るということだ。――――そういう意味では、私も嘘吐きと言えなくも無いな」
ニヒルな笑みを浮かべて、視線を落とすエミヤさん。
「それは……」
「まぁ、私はそんな人間的なモノですら偽っていたようなものだが。空っぽになってしまったものを補おうと、借り物の理想を追い続けていた。その果てに得たのは、永遠に終わることの無い
「……後悔しているのですか?」
「しているとも。だが、間違いでは無かった。私はその
何かを懐かしむように目を細めて、エミヤさんは笑いました。嘘に苦しめられてきた筈なのに、こんなにも穏やかな笑みを浮かべられる人を、私は初めて見ました。その顔は、まるであどけない少年のようでした。
「救われないのですね」
「今更、そんなものを求めてもどうにもならなん。私は守護者だ。多くの人間を殺して、それよりももっと多くの人間を救う。今までもこれからも、この役割が変わることは無い。人類が滅ぶその時まで、それは絶対だ。私が救われることは、永遠に無いだろうよ」
「それが、貴方という
英霊エミヤ。同じ日本という国で生まれた、私よりも遠い未来の英霊。抑止の守護者として、沢山の人を殺すことで人類の自滅を防ぐ装置。守護者は時間の輪から外れて、過去・現在・未来を問わずあらゆる場所に現れ、殺戮する。かつて無力だった少年は人々の幸福を願って戦い続け、「正義の味方」という彼の理想から遠く離れた存在となった。
初めてそれを聞かされた時は、そんな英霊もいるのかと思いました。けれどエミヤさんと話していくうち、この人は他人ばかりに重きを置いて自分を顧みなかった人なんだと気が付きました。まるで、
似たようなところがあるとすれば、それは『嘘』で自分の身を滅ぼしたこと。そう思った途端、親近感のようなものが生まれていました。異性として好きになることは無いにしても、人として嫌いにはなれませんでした。そう思えるほど、彼はお人好しだったのです。
「全く、これでは正義の味方が聞いて呆れるな」
彼が口にするのは、かつての自分自身が夢見ていたモノ。エミヤさんはそれが愚かだったと言うけれど――――。
「――――私には、眩しいですわ」
今も昔も、醜いままの私にはとても眩しくて、見ていられません。
「…………そうだな。最初の
「そうでしたわね」
素人にも関わらずこの戦いに足を踏み入れ、一癖も二癖もある英霊たちと分け隔てなく接することが出来る人。
私を呼び出したのだから、その魂はきっと安珍様の生まれ変わりだと今も信じています。そんな私を
私は、言語の理解できるバーサーカーと自負しておりますが、それでも他の方には「狂っている」と言われてしまうこともあります。けれど
それが嬉しくて堪らなくて、私はこの一時の夢だけでも、彼の妻でありたいと思ったのです。
「――君は嘘がどのようなものであれ嫌っているようだが、私にはそれが全て悪だとは思えない。それでも君は、以前言っていた『嘘のつけない世界』を望むのか?」
「はい。聖杯が叶えてくれるのなら、私はそう願いますわ」
「なら、マスターはどうする。その願いは巡り巡って、マスターと君を殺すことになるぞ」
「それでも構いません。あの方と共に行けるのなら、たとえ火の中水の中。地獄の果てまでも付いて行きますわ」
「彼が安珍の生まれ変わりでなかったとしても?」
「ええ」
私の願いで世界がどうなったとしても、
「――――筋金入りだな、君は」
「貴方様のお人好しほどでは無いつもりです」
「言ってくれるな」
「私たちは、案外似た者同士なのかもしれませんね」
「蛇の道は蛇、というやつだ」
「まあ」
なるほど、私が
「兎も角だ。マスターは君を見放すような男では無い。最後までマスターとしての責任を果たせる少年だ。なら君も、サーヴァントとしての責任を果たせ」
「責任……ですか?」
「『相手を思いやる』ということだ」
意外な言葉に、私は思わず固まってしまいました。
思う。想う――――――。
旦那様は、私のことを想って……。それはつまり、私が好きと……。
「
「…………私が言いたいのはそういう事では無くてだな」
「こうしてはいられません! 早く看病をして差し上げないと! マシュさんお一人では大変でしょう!」
「…………言葉の端々に不安しか感じられないのは気のせいか?」
「エミヤさん。ジャスミン茶、美味しかったですわ! また遊びに来てもよろしいですか!?」
「それは構わんが…………」
「ありがとうございます! それでは私、早速
善は急げ。こうしている間にも、
お早うからお休みまで、衣食住全てはこの清姫にお任せくださいまし!!
*****
慌ただしく清姫が出て行った後の自室で、エミヤはジャスミン茶を飲みつつ苦笑いを浮かべていた。
「彼女が
マスターの心の無事を祈りながら、エミヤはティーセットの片付けを始めた。次はどんな茶を、あの少女に振る舞おうかを考えながら。
実を言うと自分、Fateの二次創作は初めてです。前に連載物の構想をしたことはありますが、挫折してました。その中で書きたいと思っていたのが、清姫とエミヤの絡みです。二人が出会った時、どんな会話をするのかなというのは、ずっと妄想してました。
清姫は、Fate/Grand Order(Android、iOSにて配信中!)では強烈なキャラクター性を見せ付けてくれます。ヤンデレ可愛い、そして怖い。
そんなキャラクターなだけに、書くのは中々難しいです。でもやっぱり可愛いから書きたくなってしまう。そんな子です。