「うおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
「はあああああああああああああああっっっ!!」
相棒のピカニキとBURSTすることで、
それに対してこれまで被っていた帽子(5t)を外し、真の戦いを見せようとするマサラタウンノ・サトシ!
両者は全身から内なる「気」を解放し、その力を最大まで引き出そうとしていた!
「ぶるああああああああああああああっっっ!!」
「ちゃああああああああああああああっっっ!!」
吹き荒れる二人の気の嵐によって大木は粉々に砕かれ、大地は激震する。
「地球が震えているようだ……」とギャラリーの一人もとい一匹、レッドのフシギバナが両者の気の凄まじさを表現する。
「それって割とよく聞く言葉だよね」とどこか変なツッコミを入れるのはマサラタウンノのゴウカザル。
「うるせぇぞオメーら、黙って見ていろ」と二匹を叱責し、目の前の光景に釘付けになっているのがマサラタウンノのリザードンである。
「うあああああああああああああああっっっ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
「あの二人、いつまで気を溜めているつもりなの?」とこの場で今一つ空気の読めない発言をするレッドのエーフィに対して、律儀にも「フルパワーになるまでは三十分ぐらい掛かるんじゃないか」と答えるレッドのカメックス。「ドラゴ○ボールZの引き伸ばしかよ!」と言ってはならないツッコミをしてしまったマサラタウンノのキングラーを、真面目な性格のレッドのリザードンが嗜める。その他のポケモン達は一緒に寝そべりながら談笑しており、割と仲良くやっていた。
最強の変態が激突するのは、もう少し後になりそうだ。
同じ頃、チョウジタウンには世紀末が訪れていた。
鳥だ! 飛行機だ! モヒカンだ! の住民達の叫び声が表すように、その大群衆はバイクに乗ってやって来た。
「ヒャッハー! 道を開けろー!」
そのスピード、なんと30キロっ!
見事なまでの安全運転だったが、朝っぱらから吹き荒れるやかましい奇声はご近所様のいい迷惑だった。
彼ら一同は縦走しながら一軒の薬屋まで走行していくと、バイクに跨ったままその中へと突入した。
「俺の名を言ってみろォッ!!」
最初に突入した男が、開口一番にそう叫ぶ。ポケモンすら素手で張り倒せそうな凄まじい筋肉の持ち主だった。
彼の姿を見た薬屋の店主は、怯えの表情で固まったまま壁際まで後ずさった。そんな彼の元へ、遅れて店に入ってきた一人の少年が歩み寄っていく。
少年の顔を一目見ると、店主の表情が驚愕に染まった。
「そ、その顔、知っているぞ! 我が組織の五分の一をたった一人で壊滅させたポケモントレーナー、テンプリエイト・オリーシュアッ! ブラックリストに載っていたガキだろ!?」
「ご名答、でも一つ間違っているね。ボクはポケモントレーナーじゃない。ポケモンカイザーだ!」
「ス、スチール様っ! どうかお助けをおおおおお!!」
少年の名は、ポケモンカイザー。この薬屋――に偽装したアジトに居を構える犯罪組織「ロケット団」に仇なす者の一人だった。
ポケモンカイザーの繰り出したサンダースが放つ電撃を喰らい、店主はあっという間に意識を失う。流れるような手慣れた作業だった。
「ポケモンカイザー様、こんなところにスイッチが」
「押せ。それが地下階段を出す為の秘密のスイッチだ」
「ヒャッハーアジトだー!」
強大な「悪」同士の戦いは、既に始まっていた――。
ロケット団のアジトには至るところにペルシアンの銅像が配置してあり、侵入者が入り込み次第監視カメラとなっている像の目がその姿を捉えるようになっている。
最近は、特に侵入者が多い。と言うのも、今が丁度旅をする「同類」が多い年代なのだろうと推測出来た。
ここに侵入してきた者達は誰もが皆正義感に熱く、その口に見合った実力者であった。
惜しくも「オリシュ十二幹部」の前に敗れはしたものの、勇敢にアジトに挑んできた彼らのことをロケット団首領スチールは高く評価していた。
「スチール様、侵入者が現れました」
今朝も賑やかなことに、元気に侵入してきた者が居たようだ。
スチールは座椅子の向きを変えながら、その報告を寄せてきた幹部のアテナに詳細を質した。
「数は何人かね?」
「これまでで最も多く、五十人ほど。その格好から、ポケモンカイザー一派と思われます」
「そうか、ありがとう」
ポケモンカイザー――スチールが記憶している人物の中で、最も戦ってみたいと思っているポケモントレーナーの一人だ。
商売の行先で何度か遭遇したことはあるのだが、いずれも幹部が相手をした為に彼が戦ったことはなかったのだ。
侵入者を捕らえようと躍起になっている団員達には悪いが、彼らもとい彼女らには是非ともここまでたどり着いてほしいものである。
「アテナ、君は彼女らのことをどう思うかね?」
「身の程を知らない、愚か者共だと思います。私達ロケット団は歴代最強……たかが五十人のトレーナーに負けはしません」
「冷たいことを言うね。しかし私は尊敬しているよ。勝ち目の無い戦いだと理解していながら、自ら敗者になることも厭わず立ち向かってくる。私はそんな彼女らに敬意すら表している」
彼らのように運命に抗うことが出来る人間は、そう多くはない。故に希少な存在だった。
スチールは、誰もが己の運命を享受することで最も良い結果を得ることが出来ると考えている。人は流れに乗ればいい。他でもないスチールもまた、「悪の首領の息子」という己に与えられた運命に従っている一人の人間だった。
「プロキオン達が留守の間に来られるとは、これも運命だろうか」
「彼らの相手は下っ端だけでは荷が重いでしょう。幹部を出動させますか?」
「いつも済まないね。よろしく頼む」
「仰せのままに。我らがボスよ」
指示を預かり退室していくアテナに、スチールは「事は全てエレガントに」と忠告しておくのを忘れなかった。
ガノタ野郎である彼にとって、この状況はウェルカムだった。
その頃、イツキ達四天王もまたチョウジタウンに居た。
昨夜の内にワタルからこの街にロケット団のアジトがあることを聞いていたが、イツキの退院許可が取れなかった為今朝まで待機することになっていたのだ。
今朝、晴れて退院を果たしたイツキは他三人の四天王と再度合流し、ワタルに先導され、話に聞いたアジト――いかにも怪しい薬屋へと足を踏み入れた。
「……どうやら、先を越されたようですね」
薬屋の中では、一人の男がうつ伏せになって倒れていた。
イツキは一瞬死んでいるのかとヒヤッとしたが、耳を凝らせばいびきを掻いていることがわかり、安堵の息を吐いた。
ワタルが男の身体を調べると、彼はここに現れた何者かによってポケモンの電磁波を浴びせられ、気絶している間に眠ってしまったのだろうということがわかった。
床には複数のバイクのタイヤ跡があり、その先は地下のアジトへと通じる階段へと続いている。
「イツキが戦った暴走族かしら」
「ほぼ間違いないですね。早朝、住民達がこの店に入っていく集団を見たという証言があります。命令していたリーダーは十五歳ぐらいの少年で、皆スキンヘッドやモヒカンだったと」
暴走族とロケット団の間にどのような関係があるかはわからないが、検証の結果彼らより先に暴走族が侵入していったことはほぼ間違いなかった。
瞬間、イツキの表情が喜悦に笑む。
「ワーッハッハッハ! ワーッハッハッハァッ!!」
自分に屈辱を与えてくれた連中がここに居るのだ。それを喜ばずしていつ喜ぶのか。あまりの嬉しさに、彼はポーズを取りながら某アクション仮面風の笑い声を上げた。
「……カリン殿、昨日はやり過ぎましたな」
「え、ちょっとあたしだけが悪いみたいに言わないでよ!」
「一晩眠れば治ると思ったが、俺達はイツキの心を壊してしまったようだ」
「イツキ君に何したんですか貴方達は……」
そんな自分に向かって憐れみの目を向けている四人の姿など、今のイツキには何の気にもならなかった。
「フハハ! 無限の彼方へ! さあ行くぞ!!」
「ちょ、イツキ帰ってきなさいよ!」
「敵を間違えるでないぞ」
「どうしてこうなった……」
今のイツキを止められる者など誰も居ない。相棒のネイティオを傍らに、彼は物凄いスピードで階段を下っていった。
――そして場は、マサラタウン西の森に戻る。
その身に宿る黄金色のオーラをバチバチとスパークさせながら、互いに構えを取って睨み合う二人の変態がそこに居た。
「なるほど、それがお前の真の力ってわけだな」
「海の王冠って言うんだぜ? この力を使うと空も飛べるんだ」
「オレだって空ぐらい、電磁浮遊を使えばいくらでも飛べるさ。それよりも気を付けろよ」
「うん?」
「
「おもしれぇ!!」
マサラタウンノ・サトシがさらなる力を引き出し、吹き荒れる気の嵐が半径二十メートル以内に立つ全ての木々を薙ぎ倒していく。ポケモン達はそんな二人の動向を神妙な顔つきで傍観していた。
未だかつてない最強の漢達の戦いが――今始まる!
「はあっ!!」
「破ァッ!!」
両者が呼吸を止めた次の瞬間、拳と拳が激突した。
一発、二発、三発! 二人の拳がぶつかり合う度にとてつもない爆音が上がり、大地が裂けていく。
「ふんっ!!」
「ちいっ!!」
拳が、蹴りが、頭突きが、ポケモンの目にも止まらない速さで激突し合う。
肉弾戦は、完全に互角っ!
二人がこのままでは埒が空かないと判断したのは、ほぼ同時だった。
「高速移動だ!!」
マサラタウンノがその身体から多重の残像を残しながら、超高速の動きでレッドとの距離を取る。
レッドもまた「電磁浮遊」で宙へと舞い上がり、中距離戦に打って出てきた。
「連続超波動弾っ!」
レッドが両手から数十発もの波動弾を連射し、マサラタウンノに襲い掛かってくる。
いかに素早い動きであろうと、波動弾を避けることは出来ない。
しかし、避けられないならば止めてしまえばいい。マサラタウンノの考えた対処法は、実にシンプルだった。
「こんな攻撃ッ!」
右腕を振り払い、襲い掛かる波動弾の全てを弾き飛ばしてみせる。
歴戦のポケモントレーナー『終わらぬ一年を戦い抜いた男』であるマサラタウンノにとって、この程度の攻撃は恐るに足るものではなかった。
しかし、それはレッドの方とて承知の上。
波動弾はただの牽制に過ぎない。既に彼の両手には、本命たる一撃が準備されていた。
「喰らえっ! 10倍電磁砲ッッ!!」
波動弾とは比較にならない威力を持った特大のエネルギー波が、彼の両手から放射される。
マサラタウンノは瞬時に悟る。「これは避けられない」と。
だがマサラタウンノは、この攻撃すら無傷でしのぐことが出来る術を持っていた。
「石化ッ!!」
「何ィ!?」
エネルギー波が直撃する瞬間、マサラタウンノの全身が灰色に変わった。
秘技「石化」。全身を石にすることで、マサラタウンノは自らのタイプを「岩・地面タイプ」へと変えることが出来るのだ。故に今のマサラタウンノに、電気タイプの10倍電磁砲は効果が無かった。
攻撃をやり過ごしたマサラタウンノは石化を解くと、フッと口元を緩める。レッドもまたその顔に微笑を浮かべた。
「フッ、やるな!」
「君の方こそ、今のは石化しなきゃ耐えられなかったかもな!」
「だがまだまだ!」
「そうだ、まだまだ……俺達の戦いはこれからだっ!!」
限界を超えた変態の戦いは、白熱を極めていく。
既に二人の間に、言葉は要らなかった。