緑深く生い茂る森林地帯の上空で、二つの力がぶつかり合い、弾け飛ぶ。
「ズダンッ!!」だとか「ボッ!!」だとか人間が出して良い音ではない凄まじい衝突音が響き渡ると、迸る二人のエナジーが雷撃となり、大地を焼き尽くした。
もうお前ら、某バトル漫画の世界にでも転生した方がいいんじゃないかなとは誰もが思う光景である。だが、ギャラリーのポケモン達は誰も言わない。皆いい子なのである。
戦闘開始から五時間以上が経過した今でも、二人の変態は荒ぶり続けていた。
「久しぶりだぜ! こんなに楽しい戦いは!」
「そうかよっ! オレにとっては楽しさよりも、悔しさの方が大きいけどな!」
「なんでだ!?」
「オレはピカチュウとBURSTしなきゃアンタと対等に戦えない! それが堪らなく悔しいんだあッ!!」
小細工など皆無。変態が飛べばもう片方の変態も飛び、変態が拳を打ち込めばもう片方の変態も叩き込む。
まさに一進一退の攻防! 勝負は今のところ、完全に互角だった。
「それはお前とピカチュウの絆の強さだ! だからその力はお前の物だ! もっと誇れ!」
「言われなくてもわかってるさ! ビッグバン100万ボルトォォッ!!」
「負けるか! 難攻不落の聖域っ!!」
「くっ、バリアーか!」
ピカチュウとBURSTしたことでゴリチュウ(仮)となったレッドは、素の状態よりも遥かに戦闘力が向上している。対してマサラタウンノは特別な力を使ったわけでもなく素の状態でそんなレッドと渡り合っている。それはつまりピカチュウを利用しなければ、レッドよりもマサラタウンノの方が遥かに強いということだ。
自分より上の強さを持つ敵と戦えて、レッドは未だかつてない高揚を感じている。だが同時に持ち前の負けず嫌いも発揮していた。
「この中には俺とピカチュウしか入り込めないぜ!」
「現状維持を楽しんでるんじゃねぇぞおおおおおおおおお!!」
変態の攻防はさらに激化していく。
既に森の大半が焦土と化しており、もはやそれは環境破壊以外の何物でもなかった。しかし、変態達は気付かない。気付く目を持たない。彼らの価値観は、常に戦いの中にしか存在しないのである。
「ハァ……ハァ……!」
「はぁ……はぁ……!」
二人の息が上がり始めたのは、ほぼ同じ時だった。常に全力を尽くして戦っている彼らの肉体は、既に限界点まで達していた。
そしてお互いに悟った。フルパワーの状態を保てるのは、これが最後だと。
「行くぞレッド! 次に放つのが俺の、最強の技だ!」
「応ッ! ならばこっちも――!」
そして変態達は、次の攻撃に全てを賭けた。
「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!」
「勝利を掴めと轟き叫ぶぅっ!!」
お前ら事前に打ち合わせしてただろとツッコみたくなる息の合いっぷりで、二人はこれまたどこかで聞いたような台詞を叫ぶ。
「今爆熱するのはピカチュウとこのオレ!」
「自慢の技は空元気! アイツらが俺を待っているっ!」
レッドの身体を黄金色の光が、マサラタウンノの身体を赤い光がそれぞれ包み込む。何度も言うがもう滅茶苦茶だった。
そして一閃の光線と化した二人の肉体が、真正面から衝突した。
「流派カントー不敗が最終奥義っ!
「目指せ、ポケモンマスター! オォォォォルッ! リセットォ!!」
ちゅどーん!と轟音を上げて巻き起こる大爆発を前に、この場の立会人――もとい立会ポケモン達は思った。
「もう帰っていい?」と――。
「……ねえ、あいつら、あたしらより強くない?」
アジト地下十二階に広がっている「ロケットコロシアム」にたどり着いたイツキ達は、その場で繰り広げられている激しい攻防を呆然と眺めていた。
これまで見かけてきたロケット団員とは明らかに次元が違う、幹部と思わしき六人の男女と、多勢ではあるが彼らと対等に戦っているモヒカン軍団。
それは、四天王達の想像を絶する凄まじいバトルだった。
幹部の方は一人一人がカイリューやバンギラスなど強力な上に高レベルのポケモンを使用しており、モヒカン軍団の方は質では劣るが巧みな連携で互角に立ち回っている。中でもモヒカンの指導者と聞いた派手な格好をした少年とイツキが戦ったリーゼントの男だけは、一対一で幹部と渡り合っていた。
「イツキ君が苦労したのもわかるというものだな」
「あんな奴らがこのジョウトに居たとはな」
やや震え声で、キョウとシバが上から目線で呟く。
だが四天王一行が初見で幹部連中と派手な少年に対して抱いた印象は、
何だあの化け物共は! である。
どこぞの
これはマズい。マズいと言うよりもヤバい! 四天王はポケモントレーナーのトップ、故に四天王より強い者が同じ地方に何人も居てはならないのだ。
「何を情けないことを言っているのですか、皆さん」
思いもよらぬ彼らの強さを目の当たりに尻込んでいるカリン達の耳に、抑揚の無い落ち着いた声が響く。それは四天王最年少の男、孤高のエスパー使い、ネイティオタクにしてアニオタ野郎、変態マスクの異名を持つ青年、イツキの声だった。
「仮に我々よりバトルが上手い者が居ても、その者が我々より強いとは限らない。我々四天王は言わばポケモントレーナーの最高位。どのような強者が前に居ようと、我々は常に最強で在らなければならないのです」
キリッとした眼差しを向け、イツキが語る。妙に真面目になっているのは、大暴れした後の賢者タイムに入っているからだ。
「弱気な発言は許されない。そうだろう、アスラン」
「ソレガ、オレタチノタタカイダナ」
「……ねえ、そう言えばなんでみんなそのポケモンが喋ることにツッコまないの?」
「ポケモンが喋るわけないだろ」
「……そうね、気のせいよね」
無駄に凛々しい目つきのネイティオを伴い、イツキはフィールドの方へと歩みだした。何だか色々とツッコみたいが、四天王として彼の言うこともわからなくはない。
しばらく身内以外で拮抗した実力者を見ていなかったからか、どうやらカリン達は少々臆病になっていたようだ。おっしゃる通り、どんなことがあっても四天王は最強でなければならない。
それが、四天王という称号の重さだ。
「ワタルさん」
「何だ?」
「家にはネイティが居るんです。まだ赤ん坊ですが、いつか会ってあげてください。そうだ、これが終わったらみんなで焼肉でも食べに行きましょう。もちろん、僕の奢りです」
だから、立ち向かう。
四天王は如何なる強敵にも立ち向かう。
それが厳しい相手だからと弱気にならず、最後まで戦い抜く。
その信念を思い出したのか、イツキの言葉にワタルが微笑む。
「そうだな、俺達は負けるわけにはいかない」
「フッ、では行きますよ。奴らに思い知らせてやります」
ワタルの言葉を満足そうに受けた四天王イツキは、相棒のネイティオと共に走り出した。
向かう先は、暴走族とロケット団員の激戦地帯。なんか色々なものが飛び散ったり砕け散っている様子だが、四天王は退かない、恐れない。
――今ならわかる。
たとえ無敵の軍団が現れても、僕らは戦いを選ぶだろう。
この称号を、「四天王」の名を守る為に。
四天王で在り続ける限り……必ず戦い、勝つ。どんな困難にも――。
イツキが向かった後は、すぐにワタルが、シバが、キョウがそれぞれ続いた。熱い闘志と正義感をみなぎらせ、悪を倒せと轟き叫んでいる。
その勇敢なる猛者達の姿に、カリンは思った。
(ああ、みんな休暇取れなさすぎて疲れてるのね)
本当に、今度こそ、協会のお偉方をぶん殴ってでも休暇を取るべきだな、と――。
変態の戦いはとりあえず一区切り。そろそろタイトル詐欺になってきたので方向修正――出来るといいなぁ