最強! 転生者が多すぎて四天王がヤバイ   作:GT(EW版)

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強敵は押し付けるもの

 

 

 アジト地下十一階に広がるロケットコロシアムにて、ロケット団最強戦力「オリシュ十二幹部」の六人と、ポケモンカイザー率いるモヒカン軍団が両陣拮抗した戦いを繰り広げている。

 想像以上に手強いようだ――と十二幹部が一人、シリウスは他の幹部の戦いを横目にそう感想を漏らした。

 そして敵の最強の実力者は彼が相手をしている少年――のような少女、ポケモンカイザーであった。

 

「今回は随分と消極的だな。私としてはこの間のような荒々しい戦い方を期待していたのだが」

 

 相棒のカイリューを伴いながら、シリウスは油断ない表情で目の前の少女を見据える。

 このポケモンカイザーというトレーナーの戦い方は非情の二文字に尽きる。彼女はポケモンをただ戦力としか見ておらず、戦いに掛かる負担を一切度外視した戦闘を行う人間なのだ。

 それこそゲームのように――と、ここまで考えてシリウスは苦笑する。

 はて、ポケットモンスターとはどんなゲームだったか……「転生者」でありながら、彼は忘れていたのだ。

 それはともかく、今のポケモンカイザーは本来の戦闘スタイルではなく、自らのポケモンを労わるような戦いを行っていた。既に戦闘開始から十数分が経過しておりながら、シリウスもカイザーもまだポケモンを一匹も失っておらず、その一匹目のポケモンであるシリウスのカイリューと彼女のハッサムも未だ傷一つ付いていない状態であることがその証拠だった。

 常の彼女なら、ダメージを覚悟してでも積極的に攻撃を仕掛けてくる筈だ。それが、この時は慎重な戦いを心がけているように見えた。

 

「ふん、お前如きの相手で消耗するわけにいくか」

 

 その理由を、ポケモンカイザー自らが一言で説明した。

 なるほど、つまり彼女はこのシリウスを相手に必要最小限に抑えた、奥に控える組織のボス、スチールと戦うまで戦力を温存しようと言うのだろう。

 シリウスからしてみれば、それは頭が悪いとしか思えない愚策だった。

 

「この私を相手にそんな余裕があると思うか?」

「当たり前だ。お前こそ様子見はやめて本気で掛かってきたらどうだ?」

「……良いだろう。全力で戦う意志がないのなら、引きずり出すまでだ」

 

 自分がスチールの前座扱いをされて、シリウスが面白い筈がなかった。

 ……実を言うのならこの状況、シリウスは上手いこと組織を裏切り、彼女をスチールの元まで行かせようと考えていた。

 彼はオリシュ十二幹部に身を置きながら、組織の首領であるスチールに対して忠誠を誓っているわけではない。寧ろその逆で、彼を殺してやりたいほど恨んでいた。

 彼がロケット団十二幹部シリウスとしてここに居るのは、組織に囚われた恋人――を救う為なのだから。

 

(だが、気が変わった)

 

 ポケモンカイザー一派を利用し、混乱に乗じて恋人を救出、そしてあわよくばスチールを抹殺しようと考えていた。だが、彼女がこのまま自分に対して本気を出さないのは非常に不愉快だ。

 シリウス――本名、ドラゴン使いのソウマ。竜の里フスベシティで第二の生を受けた彼は、前世も今世も正々堂々たる勝負を望む誇り高き男だった。

 

「大文字だ」

 

 ロケット団は裏切る。だが、ポケモンカイザーは倒す。言いたい放題、やられたい放題は彼のプライドが許さない。

 シリウスのカイリューが放った猛炎が、唸りを上げてポケモンカイザーのハッサムに襲い掛かっていく。

 しかし次の瞬間、必殺の大文字は塵と消えた。

 

「カイリュー、破壊光線!」

「なに!?」

 

 それは、予想だにしない方向からの攻撃だった。

 放たれたのはポケモンカイザーのハッサムではなく――八時の方向。

 彼が警戒を怠っていた方向から飛来してきた一条の光が大文字を消滅させ、その勢いのままシリウスのカイリューを撃ち抜いたのだ。

 

 その声を、シリウスは知っている。

 その破壊光線を、シリウスは知っている。

 

 そうか、ようやく現れたか――驚きの後、その介入者の登場にシリウスは笑みを漏らした。

 

「久しぶりだな、ワタル」

「ソウマ……ロケット団に入ったという噂は、本当だったんだな」

 

 またしても、気が変わった。

 ポケモンカイザーの相手はどうでもいい。当初の予定通り、彼女の望み通り無傷でスチールのところまで行ってもらう。

 アテナ達に対する言い訳は十分だ。「チャンピオンの相手に手が一杯だった」とでも言っておけば、こちらの裏切りはまだバレずに済む。

 このようなセコイ真似は大嫌いだが、それでも恋人を救う為なら、愛の為なら惜しまない。

 

「ワタル、強さとは何だ?」

「なに?」

「愛情だけで、戦いに勝てるのか?」

 

 役者は揃った。今こそ、決着をつける時だ。

 

「ならば俺は今度こそお前に勝つ。見せてやる、本当の愛の力を!」

「お、おう」

 

 ――ドラゴン使いシリウス、いざ、参る!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たか、虫けら共め」

 

 現れた第三勢力の登場――訪れた状況に、ポケモンカイザーは毒舌にそう呟く。だがその表情は喜悦に笑んでいた。

 ここまで、事態は全て思い通りに動いている。彼女がシリウスを相手に積極的に攻撃しなかったのは、確かに消耗を恐れたからだ。だが、だからと言って消極的な戦い方で倒せる相手ではないことはポケモンカイザーも承知している。

 消耗はしたくない、だが消耗しなければ倒せない。ならばどうするか? 答えは簡単だ。彼の相手を、他の人間に任せれば良い。

 

「よくやったぞおしょう。これも、お前が届けてくれた情報のおかげだ」

 

 ポケモンカイザーは自らの肩に乗ってきた相棒の鳥ポケモン、カモネギのおしょうを賞賛する。

 チャンピオンのワタルと四天王がここに向かっている――その情報を、ポケモンカイザーはこのカモネギを経由して事前に掴んでいたのだ。

 小さなポケモンは戦闘には向かない。だが、隠密行動や情報収集には小さなポケモンの方が適している。彼女は今まで、周りに気付かれぬよう定期的にカモネギを飛び回らせ、アジト内の情報を集めていたのである。

 カモネギがどうやってそれを報せたかは、こちらも簡単だ。ポケモンカイザーは持ち前の「原作知識」からあらかじめチャンピオンがこの場に現れることを予測しており、その上でカモネギに「変なマントを着た男が居たらネギを振り回して教えてくれ」と言っておいたのである。お前も変なマント着てるだろとかいう指摘は御法度だ。

 四天王まで現れたのは予想外だが、尚更好都合だ。ここに居る六幹部の相手は、彼らに押し付けてしまえ。

 

「あばよカカロッ……ワタルーーッ!」

 

 そう言って、呆気に取られるチャンピオンを尻目にポケモンカイザーはその場を離脱した。同じようにジャック他暴走族の主力メンバー達も幹部の相手を四天王に押し付けると、次々とその場を離脱していった。

 頭を潰してもロケット団は死なない。だが、手足より先に頭を優先するのは当然のことだ。いずれは幹部も全員殲滅する予定だが、ここでのポケモンカイザーの主目的はあくまで「首領の抹殺」だった。

 

(フハハハ! いいぞ、何もかもがボクを中心に回っている! スチール、お前ももうおしまいだー!)

 

 彼女の進む道には、もはや下っ端団員の姿は無い。立ちふさがるのは残りの幹部と首領であるスチールのみだ。

 モヒカン達の奇声とポケモンカイザーの哄笑が、地下十二階へと続く階段に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 なんて恐ろしい子っ!

 なんて酷い奴らだ!

 

 ロケットコロシアムの様子を首領室のモニターから眺めていたスチールは、ポケモンカイザー一派の取った行動に表面上こそ動じていないが内心では動揺していた。

 彼女らと四天王は確かに仲間ではないが、この場においてはロケット団という共通の敵を持った同志の筈だ。第三者的なスチールの目からは、ワタル達が彼女らを助けに来たようにも見えた。

 そうなれば、彼女らも四天王と協力して巨大な悪を倒す――という王道的な展開を迎えた筈だ。

 しかも、暴走族のジャックと四天王イツキは以前コガネシティで戦った敵同士だという報告がある。そのイツキもオリシュ十二幹部の一人アルタイルに苦戦するジャックの元に現れ、ジャックと共にアルタイルと戦おうとしていたのだ。

 利害の一致から、かつての敵と共闘する――これは実に胸が熱くなる展開だ。

 敵ながらそう言った展開にスチールが期待していたところ、しかし当のジャックはこちらの期待をあっさりと裏切り、アルタイルの相手を一方的にイツキに押し付けてはさっさとその場を離れていった。

 ポケモンカイザーや他の主力メンバーも同じく、自分の相手を四天王に押し付けては続々と次のフロアへと進んでいった。

 その際、四天王のイツキが「ここは任せて先に行け!」と無理矢理熱い展開に持っていったのは感動に涙すら流しかけたものだ。ジョウト最強トレーナー達の最強たらんとする美しい姿であった。

 

「ス、スチール様! 我々はどうすればっ!」

 

 だがこちらも彼らに同情している状況ではない。その非情でKYなやり口で、ポケモンカイザー一派は誰も突破したことのないロケットコロシアムの先へと進んでしまった。そうなれば、いずれはこの最深部へと辿り着くのも時間の問題である。

 由々しき事態に、部屋の外で待機している下っ端達は大層慌てているようだ。彼らの力では、彼女らを止めることは出来ない。それをわかっているからこそスチールは彼らを待機させているのだし、今後も出動させる気は無かった。

 オリシュ十二幹部残りの六人の内、プロキオンとデネブ、ベガ、リゲルの四人はシロガネ山遠征に向かっている為、今このアジトには居ない。そうなればこちらの戦力は首領スチールと二人の幹部、「関わりたくない」が口癖の偽ニート幹部ドゥーベと、青タイツの「あの男」だけだ。

 ドゥーベはなんだかんだで戦ってくれるだろうが、問題は「あの男」だ。エンジュでの任務以来、彼は今も逃げるホシを追い続けており、所在が掴めない。

 

「やむを得ん。私が出よう」

「ボ、ボス自らがでありますか!?」

「なに、私もコレの実戦がしたいと思っていたところだ。そう心配するな、タムラ君」

「ボス、自分はタナカです!」

「……認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」

 

 こうなってしまえば、首領であるスチール自らが赴く理由は十分だ。

 それも、相手は前々から戦ってみたいと思っていたポケモンカイザー――テンプリエイト・オリーシュアである。スチールは身体の芯から湧き上がる喜びを抑えきれなかった。

 スチールは席を立ち、彼女らを出迎えるべく首領室を離れようとする。その時だった。

 

「スチール様! ミスターがっ!」

 

 一人の下っ端団員が勢い良く扉を開けると、息遣い荒いままスチールに向かって吉報をもたらした。

 

「そうか、間に合ってくれたか」

 

 それを耳に、スチールは見る者を安堵させる微笑を浮かべた。

 

 下っ端団員達の激励を背に、スチールは首領室を後にする。その直後、彼は通路に配置された自動販売機に挟まれている一人の男の姿を見つけた。

 

「どうだったかね」

「皆まで言うな」

 

 壁に寄りかかりながら、男はコーヒーをすする。

 その姿を実にエレガントだと、彼を「染めてしまった」張本人たるスチールは思った。

 男は飲み干したコーヒー缶をゴミ箱に放り投げると、その顔に怪しげな仮面を装着し、背を向ける。

 正体が謎に包まれているその男の名は、ミスター・クリステル・ミナキング。オリシュ十二幹部二番目の実力を持つ、最強のポケモンハンターであった――。

 

 

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