最強! 転生者が多すぎて四天王がヤバイ   作:GT(EW版)

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転生者たちの賛美歌

 

 日時は半年後の八月十日。

 場所はセキエイ高原のセキエイシルフスタジアム。

 真のチャンピオンを決めるポケモンバトルトーナメントを開催する。

 参加資格はジョウト地方とカントー地方から合わせて八つのジムバッジを集めることで、今季に限らず過去に集めていたバッジでも可。

 ルールは予選は三対三で行われ、本戦は六対六のフルバトル方式で行われる。

 予選の参加受付は六月末まで。以後の申請は受け付けないものとする。

 トーナメントで優勝した者には現チャンピオンであるワタルへの挑戦権を与えられ、また、これに勝利した場合はその者が新たなセキエイリーグチャンピオンとして認定される。

 

 それらの発表がワタルの口から報道陣を通して地方中に発信されると、一躍してお茶の間を賑わせる大ニュースとなった。

 

 挑戦者が四天王全員を打ち破ることでチャンピオンへの挑戦権が得られるのが通常のポケモンリーグの方式だが、今季はあまりにも挑戦者が多くなる見通しがなされている為、ポケモンリーグが最善策として四天王参加型のバトルトーナメントを開くことを決めたのだ。

 多すぎる挑戦者は挑戦者同士で戦わせて数を減らしていけば、自然と四天王の負担も減っていく。またこの方式なら誰が真のチャンピオンであるかはっきりとわかる為、一般人にとっても大いに魅力的な話だった。いつの世も、人々は偽りのチャンピオンを認めたがらないのである。

 腕試しの場としても最高の質を誇る為、数百人の参加者が集まるだろうことが既に予想されていた。

 

 その報を受けた「彼ら」の反応は、実に多種多様であった。

 

「……そうか、ポケモンリーグが方式の変更を」

 

 とある町の地下に潜んでいる巨大マフィアの新首領が、優雅な仕草を崩さぬまま紅茶を飲んでいれば――

 

「な、なんだって!? じゃあ俺が今チャンピオンロードを渡ろうとしてるのも無駄じゃ……」

 

 予想外な状況に今後の予定の変更を余儀なくされた者も何人か居る。

 だが、そのことで不平不満を漏らす者は意外にも少なかった。

 

「良いね! わくわくしてきた……!」

 

 どちらかと言えば、四天王もチャンピオンも「同類」も、全員まとめて俺が叩き潰してやると意気込んでいる者が多い。

 

 ――しかし――

 

「……ハァ……ハァ……!」

「やっと……着いた!」

「さあ俺と勝負しろ……! レッドっ!」

 

 そもそも報せが届かないような場所に居る者も、数人居た。

 

 

 バトルトーナメントの開催――それが彼ら「転生者」たちを集結させる結果となることを、ワタルも四天王も知らなかった。いや、知る筈がなかった。

 

 

 

「ポケモンがオンラインゲームになったら、こんな感じになったかもしれないね」

 

 ラジオより流されるニュース速報から、今季一番の面白い話を聞いた「転生者」の一人は、小さくほくそ笑む。そう、それはまさしくコンピューターゲームに勤しんでいる少年の顔だった。

 

「参加するのか? ポケモンカイザー様」

「気が向いたらね。このボクが踏み台にするには丁度良い舞台だ」

 

 「ポケモンカイザー」というどこかで聞いたような香ばしい呼び名を持つ彼が座椅子から立ち上がると、その足元に計数十人もの筋肉質の男達が集まってくる。いずれも髪型は、モヒカンやスキンヘッドであった。

 

「暴走族共、コイキングの厳選は終わったな?」

「へい! 最高にでかい赤ん坊が生まれたぜー!」

「性格は?」

「へい! 多分意地っ張りだぜー!」

「ならHは180、Aは132、BとDは4で、Sは188だ。学習装置とパワーリスト、パワーウエイトとパワーアンクルを貸してやる。間違ってもCには入れるなよ」

「ヒャッハーッ! 野生のポッポは撃滅だー!」

「その後は元気の欠片で治療だー!」

 

 時代は世紀末でもなければ、地球は核の炎にも包まれていない。

 モヒカンやスキンヘッドの男達は皆、かつてはカントー地方で悪名を轟かせた暴走族のメンバーだった。彼らはポケモンカイザーの命を受けるなり一斉にその場を離れていき、バイクに乗りながら野生ポケモン達の住まう草むらへと向かっていった。その勢い、まさに嵐のよう。

 

「ククク……四天王にワタルめ、精々今を楽しんでいろ。そして思い知らせてやる、本当の最強トレーナーが誰なのかを」

 

 一人その場に残ったポケモンカイザーは、まるで誰かに自慢するように手持ち全てのモンスターボールから六匹のポケモンを一斉に解き放った。

 

 ウインディ。

 

 ハッサム。

 

 キノガッサ。

 

 サンダース。

 

 そして――ハピナス。

 

 

 いずれもレベルは60を超え、そしてその全てがポケモンカイザーの指揮下で「完璧な」育成を施されたポケモン達である。

 しかし以上の屈強なポケモン達の中で、とりわけひ弱そうなポケモンが一匹だけ混じっていた。

 

「おしょう、どうだ? これが全部ボクのポケモンだ。後はレベルを上げるだけで、レッドにも勝てる強さになるぞ。クク……アハハハハハハハ!!」

 

 六匹目のポケモンであるその一匹――「おしょう」というニックネームで呼ばれたカモネギが羽ばたくと、カイザーの肩の上に乗り掛かる。そんな鳥ポケモンの背中を上下に撫でながら、カイザーは盛大に笑った――。

 

 

 

 

 

 

 昼間頃、コガネシティで暴走族が走り回っている。

 

 昨日の会議より、コガネジムリーダー・アカネから寄せられた町の近況報告である。

 何でも一時期カントー地方で悪名を轟かせていた暴走族、「カントーヤマブキ連合」の姿を見たとのことだ。アカネが見た限り法定速度を破って爆走しているわけではないようだが、彼らの放つ奇声や鳴り物の騒音がやかましく、住民達の迷惑になっているとのことだ。

 イツキとしては始めこそ「そんなのは警察に相談しろよ」と思ったものだが、当然ながら警察も何度か注意しているらしい。しかしそれでも暴走族は話を聞こうとせず、止むなく署まで連行しようとすれば実力行使で警察の者を叩きのめしてしまうのだと言う。

 ならばジムリーダーであるアカネが出向けば良いのではないかという声が上がったが、どうにも彼女はジムの仕事で忙しく、暴走族の相手をしていられる時間は無いらしい。

 まあそんなものは建前で、彼女の本心を探れば「暴走族の相手をするのが怖いから」というところなのだろうが。

 イツキとしても、年若い女性であるアカネを暴走族と戦わせるのは忍びない。他の四天王もそう思ったようで、件の問題は四天王で対処することに決定した。

 それからの話の流れは、

 

「イツキ、あんたが行きなさい」

「え?」

「そうだな、暴走族の使うポケモンは毒タイプばかりだ。エスパー使いのお前が適任だろう」

「拙者らも手を貸したいのは山々なのだが、恥ずかしながら昨日までのズイ遠征で満身創痍なのでな。イツキ殿に一任したい」

 

 というように進んでいった。確かに諸々の事情から、イツキが暴走族を捕らえる役目に最も適任なのは間違いなかった。それはイツキ自身も理解している。暴走族如き容易く蹴散らせる自信もあるし、不備は何一つ無かった。

 だが、それでもイツキには少なからず思うところがあった。

 

(僕も暴走族、怖いんだよなぁ……)

 

 いかに四天王とは言え、バイクに乗ったモヒカンやスキンヘッドのマッスル軍団という光景は色々な意味で身の危険を感じざるを得なかった。

 しかし、だからこそ放置出来ない問題なのである。

 そんなおっかない連中が蔓延っているようでは、子供達が安心して冒険出来ない。

 彼らに裁きを与える。それがこの世とポケモンバトルの秩序を守る、四天王の使命であった。

 

 

 そしてイツキは、こうして現地である昼間のコガネシティを訪れた次第である。

 街中を捜索していると、程なくしてソレは現れた。

 

「ヒャッハー!」

 

 パラリラパラリラと騒音を鳴り響かせながら、バイクに乗ったモヒカンとスキンヘッド集団の登場である。あまりにも世紀末的な彼らのファッションスタイルには戦慄を覚えたものだが、きっちりと法定速度40キロを厳守しているのがなんだか笑えてくる。

 しかし、苦情は彼らの出す騒音に来ているのだ。暴走しているわけではないとは言え、ここで見逃しておくわけにはいかなかった。

 

 

「おらおらそこのチンピラ共! この街を騒がしていられるのも今日で最後だ! 何せ四天王が来てるんやからな! 変な髪型しやがってちっとも似合ってないわー! あんたらまとめてぶちのめしたるから覚悟しいっ!! 

 

 

 

              イツキさんがな!!」

 

 

 彼らが爆走中(通行中)である道路の前に立ち、勇ましい叫び声で彼らをそう煽る――アカネ。

 今回の件で四天王のイツキを招いた彼女は、暴走族が頻繁に走っていると言うこの道路まで案内してくれたのだ。

 

「ほな、後はよろしく」

「……そこまで煽れる度胸があるなら貴方が戦えば良いんじゃないですか」

「言ったやろ? ジムが忙しいって」

「……嘘だ」

「う、嘘やないもーん。あ、もうこんな時間! はやくジムにかえらないとー」

 

 言いたいことを言ってスッキリしたのか、妙に表情が晴れやかになったアカネは後のことをイツキに丸投げすると、暴走族がやって来るまでの間にそそくさと退散していった。

 内心ではちくしょうあの女と毒を吐くイツキだが、情けないことに若い彼は女性の頼みに弱かった。腹を決めるとモンスターボールからルージュラを繰り出し、暴走族を待ち構えることにした。

 

 

「……ちっ、逃げられたか!」

「俺達のこと馬鹿にしやがって! ただじゃおかねぇぞ! ……ってホンマにイツキやん、四天王やん……」

 

 この場所に先の叫び声の主であるアカネが居ると思ったのか、暴走族はイツキの前でバイクを停止させる。

 始めは既に彼女の姿がなかったことにガッカリしていた彼らだが、イツキの姿を認めた瞬間、全員が驚きに目を見開いた。

 先の声は単なるホラだと思っていたのだろう。四天王が暴走族の問題に関わった前例は今までにもほとんどなかった故に、その反応は妥当と言えた。

 

「速度は違反していないのでそちらに文句は言えませんが、奇声や鳴り物の音が騒がしいと苦情が寄せられています。一度、警察の方まで来ていただけませんか?」

 

 総勢十数人ものモヒカンマッスル軍団を前にイツキは内心びくついていたが、努めて平静を装いながら事務的に告げた。

 しかし、そんな言葉に素直に従うような相手ならば警察は苦労しないのだ。

 

「なんだとォ!?」

「警察に出頭しろだとォ!?」

「モヒカンは時代遅れだとォ!?」

 

 案の定、彼らは反発の姿勢を見せてきた。三番目の男にはそんなこと言ってねえよと思わずツッコみたくなったが、それでペースを乱すわけにもいかないのであえて無視しておいた。

 

「受け入れられない、と言うならば実力行使を辞しません。どうしますか?」

 

 少し気取った調子で、人差し指と中指で目元のマスクを押さえながらイツキは問うた。その質問の意味は大人しく警察署へ行くか、痛い目に遭ってから警察署へ行くかの二択である。どちらにせよイツキには、彼らに逃亡を許す気は欠片も無かった。

 

「上等だコラァァッ!」

「四天王がナンボのモンじゃあああ!」

「カントー連合の実力見せてやんよ!!」

 

 ここまでベタな反応をしてくれるものかと、彼らのわかり易い態度を目にしたイツキは小さく苦笑を浮かべる。

 しかし彼らがモンスターボールを手に取ろうとした瞬間、彼らの後方から「待て!」と張りのある男の声が聴こえてきた。

 

「コイツは四天王だ。今のお前らが束になったって勝てねぇよ」

「ア、アニキ!?」

 

 暴走族の人混みが真っ二つに割れると、その間から一人の男が歩いてきた。

 長袖のバイクスーツからでもわかるほど鍛え上げられた筋肉。背は高くも低くもなくイツキと同じぐらいか。暴走族の中では小柄な方と言える。顔立ちは意外と若く、二十代前半程度だと窺えた。

 最も目を引いたのはその髪型である。ここに居る暴走族のメンバーで彼だけがモヒカンでもスキンヘッドでもなく、金髪のリーゼントヘアーであった。

 

「それに、コイツの使うポケモンはCの高いエスパータイプばかりだ。もし下手に勝ってお前らのポケモンにCの努力値が入ってみろ? 計算が面倒臭くなる」

「な、なるほど!」

「流石俺達のアニキだ!」

 

 リーゼントの男は暴走族の先頭に出ると、睨みを飛ばしながらイツキと向かい合う。その右手には一つのモンスターボールが握られていた。

 

「……ゲームじゃ大したことなかったが、この世界ではどうか……」

「ん?」

「てめえの相手は俺一人がやるって言ったんだ。この変態マスク野郎」

 

 カチン、とイツキの頭に怒りのスイッチが入る。彼が話のわかる男で、事を穏便に済ませられればと思ったが、どうやら彼の方にその気は無いようだ。

 ならば四天王の正義によって、彼らをDANZAIするまでだ。

 

「出ろリザードン! ぶっ潰してやれ」

 

「ルージュラ、応戦だ!」

「ギャオース!!」

 

 男のモンスターボールから山吹色のドラゴンが召喚されると、イツキのルージュラが咆哮を上げて襲いかかっていく。

 

 決して知りえないことだが、それはイツキにとって初めての「転生者」とのポケモンバトルであった。

 

 

 

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