最強! 転生者が多すぎて四天王がヤバイ   作:GT(EW版)

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マッスル暴走族、エンジュへ

 ウバメの森に立ち並ぶ大木の一本が、ポケモンカイザーの居城だった。

 

 これは木の窪みに「秘密の力」を使って作り出した「秘密基地」である。内部は見た目よりも広く、生活する空間としては申し分ない。

 

「申し上げます!」

 

 その秘密基地の中、装飾の施された派手な玉座に腰掛けたカイザーの元に、モヒカン頭のマッスルが駆けつけてきた。何やら慌ただしい様子のこの男は、カイザーの部下である暴走族カントー連合の一員である。

 

「焼けた塔に伝説のポケモンが現れましたぁ!」

「ダニィッ!?」

 

 そんな彼が寄越してきた衝撃的な報告に、カイザーは過剰なまでの反応を寄越す。玉座の傍らに佇んでいた暴走族のリーダー、ジャックもまた驚いている様子だった。

 

「早速伝説のポケモンを捕獲しに出かける! 後に続け、暴走族共っ!」

 

 カイザーは玉座から立ち上がると、ズカズカと大股で基地の出口へと向かっていく。彼の命令を受けた暴走族の一同は口を揃えてヒャッハー!と叫び、その後に続いた。

 すると早足でカイザーを追い掛け、ジャックがそっと耳打ちしてきた。

 

「思ったより早かったな、もう原作がその時期になっていたとは」

「……お前はまだそんなことを考えていたのか。これだけ原作と違うことが起こっていて、今更ゲームの知識が当てになるわけないだろう」

「ふっ、違いねぇ」

 

 その会話は他の者には聞こえていない。いや、聞こえても理解出来ない会話だった。それを理解出来る者が居るとすれば、彼らと同じ境遇の人間――「転生者」だけである。

 

 そう、彼らはかつてこの世界をゲームの世界として観測していた記憶を持つ、異界からの「転生者」だった。

 

 エンジュシティの焼けた塔に三匹の伝説のポケモンが現れる。それは「転生者」にとっては起こる前から知っていた出来事だった。故に、二人とも驚きこそしても冷静さを取り乱してはいなかった。

 

「で? 目当てはスイクンか?」

「ふん、ここまで完成したパーティに伝説のポケモンが要ると思うか? 欲しければお前にくれてやる」

「ヒュー、そいつは太っ腹だな。だがそれならあんたが直々に捕まえに行く必要はねぇんじゃねーのか?」

 

 そもそも伝説のポケモンには興味が無いと言うようなカイザーの口ぶりに、ジャックが意外そうな顔を浮かべる。伝説のポケモンの三匹はいずれも高い「種族値」を持っており、特に「スイクン」と「ライコウ」はカイザーの所有する巨大戦力と比べても何ら見劣りしない強さである。そんな存在を自分から要らないと切り捨てれば、そんなジャックの反応も当然だった。

 だがジャックはこれまでの付き合いから、カイザーの考えをある程度理解していた。

 

「伝説のポケモンは厳選出来ねぇからか……」

「それだけじゃない」

「あん?」

 

 その個体がたった一匹しか存在しない伝説のポケモンが相手では、複数の個体からより高い戦闘力を持ったポケモンを選抜する「厳選」が出来ない。カイザーが戦いにおいて誰よりも「個体値」への拘りを持っていることは、ジャックだけでなくここに居る暴走族達も知っていることだった。

 しかし、カイザーはそれを肯定しつつも否定した。

 

「ロケット団が来る」

 

 眉間にしわを寄せながら苦々しげに吐かれたその言葉に、ジャックが硬直し、足を止める。カイザーはそんな彼を無視するように歩みを進め、秘密基地を出て行った。

 

「……へっ、やっとこの時が来たってか」

 

 他の暴走族達も次々に秘密基地を後にして行く中で、ジャックは一人呟いた。

 その声には、これ以上ないほどの激しい呪いが込められていた。

 

「俺がぶち殺してやるよ……ロケット団っ!」

 

 狂気を孕むほどの肉染み、もとい憎しみ。彼の二つの眼は、その炎に激しく燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「暇だ……」

 

 ポケモンセンター内にある人間用の個室の中で、イツキは一人虚しく呟いた。

 ジョーイから言い渡されたのは二日間の療養。仕事には行かず、ここで安静にしていなさいとの弁だった。

 ポケモンバトルの発展と共に向上していった高度な医療技術によって、既にイツキの身体は休む必要が無いぐらいにまで回復しているものとばかり思っていた。しかし万一のことを考えて緻密な検査は必要だと言われれば、医療素人であるイツキには何も言い返せない。

 

 故に、現在イツキは暇を持て余していた。ゴールドやクリスと言った話し相手になる人物は既にエンジュシティへ向かって出発しており、彼が今出来ることと言えば愛するネイティオの毛づくろいや読書好きな友人に薦められた本を読むことぐらいしか無かった。

 さらに憂鬱なのは、自分がここに居ることをジョーイがポケモンリーグに報告してしまったことだ。安静にしていなければならないので、彼女がイツキに代わって二日間の休暇を申請してくれたのは非常にありがたいのだが、そのしわ寄せが全て他の四天王に向けられることになると思うと酷く申し訳ない気持ちに溢れてくる。

 

「……テレビでも見るか……」

 

 ネイティオの毛づくろいをしながら、イツキは部屋に置いてある一台のテレビを点けることにした。こんな時は普段見ない娯楽番組でも観て、少しでも晴れやかな気分になりたいと思ったのだ。

 時刻は朝の九時。初めて点けたそのテレビの画面には、児童向けの特撮番組が映っていた。

 

《イトゥキ!》

《KYO!》

《シヴァ!》

《カレン!》

 

《我らっ!》

《我らっ!》

 

《我ら――セキエイ大四神っ!!(ちゅどーん)》

 

 ……どこかで聞いたことあるような顔ぶれが主役の、戦隊ヒーロー物の人気番組だった。

 

 内容は四人の正義のポケモンマスターが悪の組織と戦う勧善懲悪の物語で、少年受けが良好だという話をよく聞いている。テレビ局にはセキエイ高原をロケ地として頻繁に使われているので、今まで実際に観たことが無いながらもイツキはこの番組のことを存じていた。

 

《現れたなセキエイ大四神、良いだろう。このテレキネシス・クイーンが、貴様らに引導を渡してやる!》

「あっ、この敵役の人ナツメさんだ」

 

 高い制作費を掛けているだけあって、初めて観たイツキをしても素直に面白いと思った。俳優に現役ジムリーダーやポケウッドスターを抜擢していたりと、もはやこのテレビ局を担う看板番組と評価して良いだろう。

 

《ぐわー!?》

《イトゥキさーーーーん!》

 

 自分をモデルにしたらしいエスパー使いのマスク男は、見事な噛ませ犬っぷりだったが。

 

《イトゥキのネイティ王が一撃!? グランディスバリヤードのサイコキネシスだ!》

《今のはサイコキネシスではない。……念力だ》

 

 対して某ヤマブキジムリーダーをモデルにしたと思われる(というか本人である)妙齢の美女は、見事なラスボスっぷりだった。

 「解せぬ……」と呟くイツキの顔は、テレビを点ける前よりも沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前九時。エンジュシティは核の炎に包まれた――と言いたくなるほどに、街中は世紀末な有様だった。

 住民への物理的な被害や建物等に破損が見当たらないのは良いのだが、辺りを見回せばモヒカン、モヒカン、スキンヘッド、モヒカン――無法者のマッスル軍団がお決まりの奇声を上げ、木造建築の間の通路でバイクを飛ばしていた。

 

「なんじゃこりゃあああ!」

 

 その光景を目にしたクリスの第一声がそれである。

 エンジュシティと言えば前世の「京都」をモチーフにした古風で穏やかな町の筈である。それが一体何故、ヒャッハーな暴走族が走り回るようなやかましい地帯になっているのか。

 

「……そして私は考えるのをやめた」

「クリス?」

 

 ここに到着する前の道路で小耳に挟んだ「焼けた塔に伝説のポケモンが現れた」という噂に意気揚々とこの町を訪れてみれば、どうやらまたしても予期せぬ出来事が彼女らを待ち構えていたらしい。

 恐るべきはゴールドの主人公的因果か――否、それは断じて否。

 そうだ、何度も自分に言い聞かせているではないか。この世界はゲームの世界ではないのだと。

 故にエンジュシティの街中に世紀末スタイルの集団が居たとしてもおかしくはない。おかしくは……おかしいに決まっているだろ。

 

「あの人達、イツキさんが言っていた暴走族だよね?」

「……多分、そうなんじゃない。でも、私達じゃ仕返しも出来ない。ここは関わらないようにしよ?」

「……悔しいな」

 

 今度もまた何かが起こるというのだろうか。きっとまた、ろくでもない事件に首を突っ込むことになるに違いない。

 具体的には人々の間で伝説のポケモンを巡る大戦争が勃発し、そして自分達がそれに巻き込まれるのだろうとクリスはこれから起こる出来事を他人事のように予測した。インフレに乗って自分達も随分強くなったつもりだったが、ともかくクリスにはこの街を無事に出れる気がしなかった。

 

 だが一つだけ、クリスはその場に幸運を見つけた。

 

「お! シルバークーンゥ!」

 

 赤い髪の毛が目立つ、黒服の少年。ポケモンセンターに向かう途中で彼の姿を見つけると、クリスは妙なテンションで呼びかけた。

 

「あ、シルバー君。ヒワダぶりだね」

「……お前達か。生憎俺は伝説のポケモンを捕まえに行くところだ。今はお前達に付き合っている暇は――」

「そう言わないでっ! 会いたかったよシルバー!」

「――ッ、おいっ!」

 

 彼はいつも通りツンツンした態度でその場を立ち去ろうとしたが、クリスはそれを許さなかった。

 どうせこれから何らかの形でインフレバトルに巻き込まれることになるのだ。ならば道連れは一人でも多くしておきたい――という、あまりに下衆な考えからの行動だった。

 

「は、離せ!」

「一緒に行こうよシルバー、きっとあの焼けた塔の中は凄いことになってるから!」

「何だそれは!?」

 

 もうやけくそである。何を考えているのかはクリス自身もわけがわからなかった。

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