異世界お気楽旅行の片道切符   作:のりとりあ

5 / 8
5

 

 

呆れた声を出すフレイルに向かって釧夜はニヤリとした笑みを浮かべながらウィンドウをスクロールする。

 

 

「適応化したおかげで……ほら、見てみろよ。」

 

 

指している画面を3人が覗くとそこには先程まで表示されていた能力値とはまったく違う、格段に強い数字が並んでいた。レベルに至っては1から92まで上昇していることがわかる。

 

 

「お前さっきまでレベルが1しか無かっただろ、何が起こってるんだ!?」

 

 

動揺しているフレイルを尻目に和玖と黎々は黙々と自分のウィンドウを開く。そこにも釧夜と同じで大幅な上昇をした能力値が表示されていた。

 

 

「なあフレイル、こんだけレベルが高かったらいくら亜人に敵対的な国だってなんとかなりそうだろ?」

 

 

「うっわ悪い顔して笑ってるねー。まあ私も殴り込みには賛成だよ。」

 

 

「確かにレベル90台が3人もいれば人間国を抜ける位ならできそうだが…殴り込むのはちょっと無理があるんじゃないか?」

 

 

「なにー?男如きが私達に楯突くわけ?いけると言ったらいけるのよ。そのくらいシャンとしなさいよ。」

 

 

黎々が背中を軽く蹴飛ばすと地面に倒れ込みながらカールライルの方向を指さす。

 

 

「街はこっちの方向に半日ほど歩いた所だ。やっぱり俺も付いて行かなきゃだめか…?俺も一応人間だから祖国を敵に回したくないんだが…。」

 

 

「当たり前でしょ!案内役くらい務めなさい!」

 

 

「あーわかったよ…。くそ、なんで俺はこいつらの言いなりになっているんだ…。」

 

渋々フレイルが起き上がり、背の低い草が茂った獣道を歩いていく。その後ろを3人が追うと、数時間もしないうちに森を抜けることができた。少し遠くには城壁で囲まれた街が見える。

 

 

「なんだろう…あの街、すごい嫌な雰囲気が漂ってる…。」

 

 

「嫌な雰囲気というか、血の匂いならいつも充満しているぜ?カールライルには高級奴隷のコロシアムがあるからな。」

 

 

「「「はあ?なにそれ?」」」

 

 

顔を見合わせる3人にフレイルは説明を続ける。

 

 

「お前達本当どこの辺境から来たんだよ…。いいか?コロシアムってのは言い換えれば闘技場だ。殺し合いをしているのさ。娯楽として賭けも行われている。」

 

 

「ふーん。趣味が悪いな。」

 

 

「聞いてていい気持ちはしないね。」

 

 

「んで、そこで殺し合いをしてんのが高級奴隷ってやつだ。カールライルの伯爵は亜人嫌いだって言っただろ?だから見目の良い亜人に殺し合いをさせて飼い殺して愉しんでんのさ。これが高級奴隷だ。」

 

 

「じゃあ、俺達がこの格好のまま街に入ると…?」

 

 

「迷わず高級奴隷行きだろうな。面倒なことにお前らは見た目だけはいい。しかも強いときたらな。奴隷商人は高性能な道具に麻痺や催眠を使ってくるから一度捕まったらもう逃げられないぞ。」

 

 

「へぇ。要するに亜人だってバレなければいいんだよね?…夢幻魔術とか。」

 

 

「その手があった!!釧夜!頼むわ!」

 

 

「おっおう!いくぞ!」

 

 

釧夜が目を瞑り詠唱を始めると紫色の魔法陣が釧夜を中心に広がった。語句を連ねる毎に魔法陣は二重、三重と重なり3人を呑み込んでいく。瞬く間に3人は各々の種族の特徴的な耳、尻尾、翼が掻き消えて普通の人間の姿に擬態していた。

 

 

「おお!意外と出来るもんだな!」

 

 

「凄いじゃんか釧夜!」

 

 

「やればできるじゃん!」

 

 

釧夜の背中をバシバシと叩く黎々と和玖を見ながら頭を抱えたフレイルは叫ぶ。

 

 

「こいつら!!!どれだけチートなんだ!!!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

騒ぎながら歩みを進めていくと、あっという間にカールライルに着いてしまった。辺りには現実世界とそんな変わらない背格好をした男女がたくさん歩いている。

ただ、彼らの着ている服は明らかに現実とはかけ離れたファンダジックなデザインなものばかりだった。

人で賑わうここは露天街なのだろうか。あちらこちらに果物や野菜、肉などの食糧の出店から剣、槍など武器を立てかせた鍛冶屋まで様々な種類の露店が揃っている。

 

 

「へい!嬢ちゃん方と兄さん方!俺の果物は美味しいぞ!買っていかないかい!」

 

 

「ここの武器はカールライル一性能が良いぞ!さあ買った買った!」

 

声を掛けてくる店主たちはこちらの4人の内3人が人間ではないことに全く気付いている様子がない。

 

 

「凄いな…夢幻魔術の効果も凄いしここの活気も凄い。亜人差別が無ければいい街だな…。」

 

 

「本当にそうさ。ここは人間とって最高に住みやすい街だ、人間にとってはな。亜人を弾圧して成り立っている脆い幸せだ。」

 

 

「さあ、明日の奴隷賭博には30連勝中の白銀鬼が出場するぞ!対戦相手は明日の朝発表だ!観戦券、今なら安くしておくぜ!どうだいそこのお嬢さんたち!」

 

 

小太りの中年が黎々にチラシを手渡す。そこには明日の12時から賭博が開催される旨と、出場するらしい奴隷の写真が印刷されていた。

 

 

「…っ!?師範!?」

 

 

横から覗きこんだ釧夜がチラシを奪い取る。白銀鬼と記された写真には釧夜がネトゲをプレイしていた時代に何度もお世話になり師範と呼び慕うギルマスの姿に酷似した人物が載っていた。

 

 

「あっれ…これ釧夜のとこの…ノリタカさんじゃない?」

 

 

「師範もここに飛ばされたんだ!でもどうして捕まってるんだ!?師範は俺よりも強いのに!?」

 

 

「さっき言っただろ。奴隷商人は強力な術と道具を使うって。お前らみたいに混乱している時だったら尚更捕まりやすかったんだろ。」

 

 

「だからって!…助けなきゃ、俺が師範を助けなきゃ!」

 

 

大声で騒ぎ明らかに取り乱している美形のグループが珍しいのか辺りには人が集まり始めた。ざわざわとこちらの様子を伺っている。まだ叫んでいる釧夜を黎々が手刀で気絶させた。

 

 

「釧夜黙って。目立つのは良くない。フレイル?どっか移動できるところある?」

 

 

「俺が拠点にしている家があるからそこに行くぞ。いいな。」

 

 

「ごめんなさいねー!ちょっと通らせて下さい!私達は見せ物じゃないんでね!」

 

 

和玖が手で鞭を弄りながら笑顔で注意するとどんどん人が捌けていく。

 

 

「じゃあ移動しようか。そいつ歩けないだろうからフレイルが担いで。」

 

 

「わかったよ…何だこいつ無駄に身長高えよ!担ぎにくいな!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「これから師範救出作戦会議を開始する。」

 

 

フレイルの案内でそこそこの広さがある一軒家に辿りついた4人はすぐに机に向かい合う。意識が回復した釧夜が賭博のチラシを握り締めながら絞り出すような声で言った。

 

 

「フレイル、コロシアムと賭博についてもっと詳しい情報を教えて。」

 

 

「って言ってもさっき言った情報が殆どなんだけどな…。奴隷の闘いに賭けるってだけだ。使える武器は剣だけで魔法は禁止。あと結界が張られた首輪を付けられるから奴隷がクーデターを起こすことは無いらしいな。」

 

 

「試合の最中に観客席で暴れることは?」

 

 

「観客席では無理だな。そこにも結界が張られてる。」

 

 

「…俺が捕まって明日師範と戦う。」

 

 

「「「は?」」」

 

 

「明日の決闘に出て師範の結界を壊して連れ戻す。」

 

 

「決闘に出るっていったって…」

 

 

「今から奴隷商人に捕まりに行けば出れるだろ?髪形も色も師範と似ている。客寄せにはもってこいの筈だ。」

 

 

「だからって…。」

 

 

「しかも俺の夢幻魔術が効いたってことは黎々の降魔術を使えばある程度奴隷商人の洗脳ってのも防げると思う。俺らのレベルなら大丈夫だ。」

 

 

「…他に方法は?」

 

 

「考え付かない。」

 

 

即答する釧夜の目には決意が浮かんでいる。止めるのはは不可能だと感じた和玖と黎々は渋々頷く。

 

 

「…わかったよ。釧夜、手出して。」

 

 

言われた通りに釧夜が手を出すと、黎々が言葉を紡ぐ。瞬く間に釧夜の手の上には深い紫色の六芒星が刻まれていた。

 

 

「降魔術にアレンジを加えたもの。呪いや洗脳の類は効かないと思う。それでも気を付けてよ。」

 

 

「分かってるって。これ以上お前らに迷惑かけたくないしな。」

 

 

「じゃあ、私達は領主のベネットだっけ?そいつを潰しに行こうかな。」

 

 

「賛成ー。亜人差別は腹立つから思い知らせてやらないとね。」

 

 

「俺は外出て捕まってくるわ。明日で全てが決まる。…お前らこそ、捕まるなよ?」

 

 

「私達を誰だと思ってんのよ?」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

ゆっくりと上昇してくる敵側の入場ゲートには会いたさにずっと胸を焦がしていた相手が佇んでいた。だが華美な衣装に包まれ、鈍く黒ずんだ光沢を放つ首輪し、釧夜と似ているが少し違うくすんだ銀色の長髪を掻き揚げながらゆっくりと立ち上がったその姿は底知れぬ狂気と絶望にまみれていた。

 

昨日捕まった後、連れて行かれたのは廃棄場のような建物だった。埃がたまり薄暗く、朝になっても陽の光すら入らない部屋に自我が無い様々な種族の亜人がボロボロの体を折り畳んで寝る様子はは悪夢のようだ。迂闊に動くと見つかる為探し回れずやっと、今日師範に会えた。

だが、あまりにも自分が知っている姿とかけ離れた現状に思わず戸惑いと混乱が声に乗る。

 

 

「師範!?俺です!釧夜です!しっかりしてください!」

 

 

「…………。」

 

 

 

返答が無いどころか、そもそも釧夜の声が届いているかすらわからない。ただひたすら自分に向かって放たれている殺気に足がすくんだ。観客の騒々しさなど耳に入ってこない。

 

 

「どうして!?どうして俺をわかってくれないんですか!ずっと、ずっと一緒に戦ってきたじゃないですか!師範にとって俺は大事な仲間ではなかったんですか!お前は最高の弟子だって笑ってくれたのも忘れてしまったんですか!」

 

 

声を荒らげて訴えかける釧夜に向けて、ノリタカはこれまた華美な装飾が施された剣を静かに掲げる。何処からかカウントダウンが聞こえ、鐘が鳴った。戦闘開始の合図だ。地獄のファンファーレにも聴こえるそれが響き渡ると同時に、ノリタカは剣を構えたまま一直線にこちらへ斬りかかってきた。

 

 

全力で地を蹴り突進してくるノリタカに対し、釧夜は出遅れたため防御をするしかない。慌ててノリタカが放つ斬撃を受け流し勢いのまま体を左に捻る。

 

 

2撃目、3撃目と容赦なく続けて打たれる突きを的確に剣で弾き、一瞬の隙のうちにバク転で距離を開ける。

着地のタイミングに合わせて薙ぎ払われる白い輝きを強引な体制でなんとか避けきり、軌道がズレた瞬間に剣を持っている腕に向かって蹴りを放ち限界までノリタカの剣を遠ざけた。

傷付けたくなくても釧夜よりレベルもスキル値も高いノリタカが容赦なく猛襲をかけてくるので逃げてばかりではいずれ捕まってしまうだろう。

完全に釧夜を敵と認識し、理性を失っているノリタカを説得だけで戻すことは不可能だと本能で理解した釧夜は覚悟を決めた目で剣を構え直す。

 

 

「師範…強引にでも元に戻してみせますからね。」

 

 

そう呟くやいなや、釧夜はノリタカの細やかな刺繍の入ったネクタイが巻かれている胸元に向かって鋭く剣を跳ね上げた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はー、ずいぶんと派手に暴れてるねえ?まあ目立ってくれた方がこっちとしてはありがたいけどさ。」

 

 

城の廊下から真下に見えるのは熱気が篭った闘技場。席一杯に埋まった観客は沸きに沸き、銀色の長髪を靡かせながら舞うように殺し合いをする2人を歓声あるいは怒声を上げて愉しんでいる。

 

 

「あそこまで目立ったら誰もこっちには気付かないね。さて、今のうちに腐った廃棄物たちを内部から粛清していこうか。」

 

 

「あんな人間共みたいに成り下がるなら死を選ぶ位には酷い有様だね。」

 

 

「なあ…お前ら本気で殴り込みにいくのか?絶対にただでは済まないぞ…?」

 

 

「当たり前でしょう?糞みたいな人間には鉄槌を食らわせてやらなきゃ私の気が済まないの。それが男ならなおさらね。」

 

 

フレイルに受け答えながら黎々が鉄でできた重厚な扉を押し開けるとそこには警備の兵士が軽く数十人は駐在していた。続々とこちらを向き各々の獲物を構えて突然現れた侵入者を問い質す。

 

 

「貴様ら!何者だ!ここは伯爵陛下の城だぞ!貴様らの様な庶民が来る場所ではない!」

 

 

「庶民?お前らのような下賎な男共なんかが私に話しかけるんじゃないわ!」

 

 

「初対面の人にはまず敬語を使えって小さい時に習わなかったのかな!」

 

 

兵士の高圧的な態度に対し鬱憤が溜まっていた2人は幻惑魔法を解いて人間の姿から元の堕天使、龍人の姿へ戻る。それを見た兵士達は、軽蔑している亜人たちが乗り込んできたと騒然とし始めた。

 

 

「貴様らぁ!亜人ごときが人間様に勝てるとでも思っているのか!メイジ隊よ、この無礼な亜人共を焼き尽くしてしまえ!」

 

 

「だから言ったじゃんか!あぁ…もうどうすりゃいいんだよ…。」

 

 

「和玖ー、どうよ?龍化できそう?」

 

 

「MP枯渇していいんならできるけど持って1分かな…。行っちゃおっか?」

 

 

溜め息を吐くフレイルを無視して尋ねる黎々にステータスウィンドウを確認して返答した後、和玖は詠唱を紡いでいく。身動きが取れない和玖に向かって放たれる魔法や矢は全て黎々が間髪なく詠唱する闇魔法で亜空間へねじ伏せ、和玖の詠唱が止まることは無い。

 

 

何十もの単語で構成された呪文を唱え終わると同時に和玖の体が光輝き、目を開けていられない程辺りを強く照らす。思わず瞑ってしまった目を再度開くとそこには和玖の髪と同じ淡い桜色の鱗で全身を覆われている巨大なドラゴンが白い炎を渦巻かせながら鎮座していた。

 

 

「うっわあ…まじかよ…。」

 

 

「早めに片付けちゃってね、和玖?」

 

 

返事をする代わりに口から炎を出して兵士を焼いていくる。散り散りになりながらも攻撃をしてくる兵士達に痺れを切らしたのか、近くにいた司令官のような男を咥えてひょいと飲み込んだ。

目の前で上官が食べられた姿を見た兵士達は恐れをなして逃げていく。だがいつの間にか堕天使化をしていた黎々の手によって瞬く間に1人、また1人と意識を失っていった。

 

 

「うーん、やっぱ不味いね。美味しくない。」

 

 

「おまっ!?お前人間食うなんて正気か!?」

 

 

「あぁ戻ったの?そりゃあ不味いでしょうよ、あんな屑食べたんだから。」

 

 

「黎々の堕天使はいつ見ても綺麗だねー。落ち着いた時に翼触らしてね。」

 

 

朗らかに会話する2人と慌てているフレイルの周りとは対照的に黎々の力で深い眠りに落ちている数多の兵士達が酷い火傷を負った状態で転がっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定