アリサの父親のデービッドは困り果てていた。一人娘が腎盂炎で入院したのだ。
細菌感染によっておこる腎盂の炎症をいう。細菌は大腸菌がもっとも多く、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌などのこともある。また女性に多く発症する。年齢層は、赤ちゃん~お年寄りまで、幅広い年齢に見られる。
寒気、ふるえとともに39℃前後の高熱があり、朝は平熱に近く夕刻になると高熱になるという熱の変動が著明である。左右どちらかの腎臓部に鈍痛あるいは不快感があるか、その部を叩打(こうだ)すると疼痛(とうつう)を認めることが多い。尿が濁り、多数の白血球と細菌が認められる。普通、1週間以内に治癒する。
1週間前のパーティ後に娘のアリサが体がダルイと訴えてきた。疲れが出たんだろうと思って次日の学校は休んでもいいと伝えたが、アリサは「これぐらい大丈夫」といって学校へ行った。しかし、学校から帰宅後、寒気、ふるえとともに39℃前後の高熱の症状が発症した。医者を呼んで診察を行った結果、腎盂炎の症状だと医者は言った。そして医者の勧めで日本では有数の大学病院へ入院した。急性腎盂炎だった。血液検査、尿検査等を行い、細菌の種類を特定し、抗生剤治療にて完治。入院は約1~2週間程度になるはずだった・・・そう、彼女の症状は完治しなかった。尿検査の結果において、細菌は検出されなかった。これには大学病院の全ての医者が驚いた。なんせ細菌の出ない腎盂炎は初めてであった。何度尿検査を行っても細菌は検出されない。しかし血液検査ではCRPの値が高値を示し、白血球の値も高値であった。しかたなく抗生剤を投与し、経過観察を行ったが、症状の改善はみられない。そうこうするうちに、1週間経過した。
その頃大学病院内では、奇妙な噂話が広まっていた。輸血用の血液が夜な夜な、紛失しているというのだ。血液なんてものを欲しがる人間は確かにいるが、2単位約400mlの血液をどうしているのか?現代の吸血鬼?大学内で密売?なんて噂が広まった。
そしてアリサ入院から10日目
看護師が巡回していると、保存用の血液パックを管理している部屋から、物音がした。
看護師はまさかねっと思いながら、中に入った。
「だ誰かいるんですか?」
「チューチューチュー」
「誰かいるの?」
「チューチュー」
何かを吸っている音がする。
「誰!」
彼女はそう言いながら電気を点灯させた。そこに居たのは、いつもの凛々しいアリサ・バニングスではなく、表情が険しくなり、口元を血液で汚し、保存用血液を吸い続けているアリサ・バニングスであった。そしてアリサは看護師と目を合わした瞬間、「ニタッ」と笑い、血液を吸い続ける作業へ戻った。
「あっあっあああ」
その光景に頭が着いていけない看護師は、腰を抜かしその場に座り込んだ。しかし目の前の光景に恐怖を感じたため、這いずりながら詰め所へ戻った。看護師は他のスタッフへその事を伝えた、勿論最初は誰も信じなかった。当たり前の反応だったが、腰を抜かした看護師の必死の態度で、詰め所に数人を残して、現場に向かった。そこには看護師が言っていた光景があった。
直ぐに父親のデービッドへ連絡がいった。そして話には緘口令がひかれた。
翌日にはアリサへ事情を聞きたが、アリサ自身「覚えていない」であった。病院側の対応策は様子観察。当たり前だ。相手は世界でも有数の企業一人娘。追い出すなんて事は論外。部屋の鍵を病院側で管理し、様子観察するという事が決まった。
父親のデービッドは娘から事情を聞いたときに、娘は嘘は付いていないと確信していた。勿論娘のいう事を信じると言う事がないとは言わない。しかし、幾多の人間と会い、話していくうちに、人間の嘘を見抜けるようになったデービッドが見た限り、娘も病院側のスタッフも嘘は付いていない。両方とも嘘を付いていないという事は、両方真実である。デービッドは真実を知るために、事情を聞いた日の夜は病院で泊まる事にした。娘には帰ると伝えた。勿論嘘である。こうでもしないと、現場を押さえる事が出来ないからだ。
AM03:35
激しい音がフロアに響いた。
ドカァ!!ドカァ!!その音はアリサの病室からなっていた。
デービッドは
「アリサ!!いい加減にしないか!!」
しかし彼の声は打撃音にかき消された。病院の関係者がドアのロックを解除した瞬間、扉が内側から開き、何かが出てきた。デービッドは見た。いつもの凛とした娘ではなかった。何かに取り付かれたような、悪魔の様な表情をした娘だった。アリサは扉を破った勢いで、廊下に倒れたが、直ぐに立ち上がり走り出した。デービッドは後を追った。アリサが入っていたのは、保存用の血液パックを管理している部屋だった。いつもは簡易的な施錠のみだったが、前日デービッドより施錠の強化の要望があったため、血液を取りだせないでいた。そこにデービッド、スタッフが到着して、アリサを取り押さえた。
「血を!!血をちょうだい!!ああああああああああああああああ!!!」
アリサを取り押さえた際、彼女はそう叫び続けていた。アリサを取り押さえ、病室に運び込んだ。しかしアリサの暴れる姿を見たデービッドは拘束の書類にサインし、ベッドにアリサを拘束した。それでもアリサは暴れていた。
ようやくアリサを拘束した頃には、病室の窓から朝日が昇ってくるところだった。
その時だった。昇ってきた朝日の光がアリサにあったとき、アリサの様子が一変した。今まで暴れていたアリサが、太陽の光を浴びて、数分で大人しくなったのだ。
その後アリサの豹変を聞いたほかのスタッフは、アリサの病室を避けるようになった。また、症状が血を欲しがり、朝になったら大人しくなる等、吸血鬼に似ていることから、何かの呪いに掛かったや吸血鬼などの噂が病院を駆け巡った。
デービッドはどうする事も出来ず、ただただ祈っていた。自分にはどうする事も出来ず、唯一の救いは、血液を飲ますのではなく、「血管からいれる」事で症状が改善した事ぐらいだろう。しかし輸血量は日に日に増加していくばかり。どうする事も出来ず、
今日も娘の側で、祈る事しか出来なかった。しかし、今日は違った。ポケットに入れていたスマホがなったのだ。おかしい、今は全て秘書および副社長に任せていたのに・・・着信は、見たこともない電話番号だった。デービッドは仕方なく電話に出た。
「もしもし、何方ですか?」
「始めまして、私、プレシア・テスタロッサと申します。お嬢さんのアリサさんの同級生のアリシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサの母親です。」
「ああ、いつも娘が話している双子さんの。それで本日はどのような用件で?」
「娘さんの容態についてです」
「何故それを!!」
「今からお会いできますか?それからお話したいのですが」
「解かりました。何処でお会いしましょう?」
「病院で、娘さんとも少しお話したいので」
「解かりました。お待ちしております」
あるラボにて一人の男が呟いた
「この謎はプレシア・テスタロッサ、貴方に解けるかな?見方を変えないと解けないぞ」
「そう、チェス版をひっくり返さないとな」
彼は一人呟き、再び端末を叩く作業に戻った。
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