空白の運命全書《ラストクレア》   作:美宇宙

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ラストクレア

この世界は、ある日一柱の神の手に委ねられた。

運命を司る神、この世界の全能神の名はクレア。

神は争いを、人間の醜い争いを止めるために自らの力でこの世全ての人間に運命を、運命全書(ラストクレア)を授けた。

畑を耕すもの、服を売るもの、食を作るもの、家を作るもの、その他諸々を人間の運命として書き記し、人間の脳に埋め込んだ。

結果、運命を受け入れた人間は平和を手にし、何事もないかのように、それが定められた運命ということさえ忘れてしまっているかのように受け止めて生きている。

 

ならば、聞かせて欲しい。全知全能の神よ。

運命全書には何も記されていない俺は一体何をすればいい?

未来も過去もない、俺に、貴方は何を託す?

 

ーーー答えよ全能神(クレア)

 

 

「何もないな」

 

森の中、少年は木の枝に転がって、空を見上げる。

空は絶えず暑い日光を送りつけ、それを遮る木の陰と風が心地よい今日この頃。

俺は何もなく、ただここにいた。

 

オリムラ・カイ、それが俺の名前だ。

親が唯一くれたものにして、運命全書に記された唯一の文字。

()()()()()()()()()()()()()()()、つまり俺には

 

運命がない。

 

このような存在は確認されている限りでは俺だけであり、このような人間は空白者(レスト)と呼ばれている。

これがどれほど過酷な物かは、多分俺しか知らない。

運命がないということは、俺にとってこの先何もないということである。

出会いも、職も、居場所も、その他諸々が俺にはない。

あるのは俺という存在だけ、否定される己自身だ。

 

「さて」

 

木から降りて、背伸びする。

今日も今日とて、俺は精一杯生きるのだ。

 

「行こう」

 

 

俺のいた場所から一番近い城下町、そこに俺は足を踏み込んだ。

今日もいつもと変わらない賑わいを見せる城下町の王は、運命全書に記された通りの善人であり、この国を第一に考え、行動している。

その行動もあって運命全書に記された通りに国民達は王に信頼を送っている。

結果、この国は固い絆で結ばれているのだ。とても素晴らしきかな運命。

 

「すみません」

 

「あら、カイじゃない」

 

最寄りのパン屋さん「ラ・スカイ」に入ればパンのいい匂いとともにここの店主さんが笑顔で向かい入れてくれた。

木造のこの建物の中は彼女自作の自慢のパンが一杯で、雰囲気も少しおしゃれなこの店は俺が空白者であるにも関わらずパンを売ってくれる、しかもサービスもしてくれるとても優しい人だ。

 

「あんたの分、もう取ってあるよ。今回のサービスは新作のパンだ」

 

「どんなのです?」

 

「少し改良した我が家特製ジャムを満遍なく使用したスペシャルパン、パンにも少し工夫をしてある」

 

「それは楽しみです」

 

お金を置いて店主さんからパンの入った袋を受け取った。

うん、いい匂いだ。今回の新作パンは一体どんな味だろうか、ここの特性ジャムはイチゴジャムを改良したものだから、少し甘めになったというところか、いや逆に酸味を上げた感じか、どちらにせよ美味しそうだ。

 

「今日の寝床は?」

 

「木の上ですよ? いつもと変わらない」

 

運命全書が空白な以上俺に居場所はない。

運命全書は全てを決めている、当然建築屋が誰のために家を建てるか、なども全てである。

残念ながら運命全書真っ白な俺は相手側の運命全書には名前を記されておらず、結果家を買えない状態となっている。

全く、困ったもんだ。

 

「本当にそれでいいのかい? なんならここで住みながら働いてもいいんだよ?」

 

「そんな事したら店主さんが反逆者(クレアレンス)になってしまうじゃないですか。恩人にそんな事をさせたくはありません」

 

反逆者というのは簡単に言うと運命全書に逆らった人間の事だ。

それはつまり神に逆らっているも同然であり、この世界の殆どの人間から敵視されることを指している。

しかもそれが出たら直ぐにバレてしまうという何とも酷い設定もあり、自らなろうとする人間なんていないと言ってもいい。

 

「それでは、ありがとうございました」

 

両手に抱えたパンからは未だ香ばしい匂いが漂っている。

うん、今夜はいつもよりご馳走な気がする。

そう思いながらも、俺は店を出た。

 

 

外は夕陽に包まれており、来た時よりも市場は盛り上がりを見せていた。

様々な声が聞こえる中、俺はいつもの寝床に向かい歩き始める。

この分だとあと9時前には帰れそうではあるが、もう少しうろうろして行くのも悪くはないかも、なんて考えながら歩いていると。

 

「なあ、俺たちと遊ばない? なんなら奢るからさ」

 

「いえ、私は構いませんので」

 

「いいじゃんかよ」

 

うっわ、出たよ。

ああいう輩はとても可哀想だと思う、だって運命全書によってああいう行動とれって言われてるのだろうから、そんでもってばれたら酷い目にあうとか運命はひどい。

かといって見逃すのもどうかと思うしなあ、しょうがない。俺が干渉すると少し面倒になるんだけど。

俺はフードを深く被って、目の端に映った木の棒をとって声が聞こえる路地裏に入った。

そこにはいかにもチャラそうな男が二人、そして綺麗な女の子がいた。

染みなんて一つもない白い肌、吸い込まれそうなほどに透き通った青い瞳、金色の髪は彼女の腰さえ越して地面に到達しそうなほどに長い。

その彼女は真剣な瞳で男たちと対面している、やけになっているのだろうか、断ってもまだ言い寄ってくる男たちに溜息を吐いて彼女は唇を動かす。

 

「どいてください」

 

「るっせえ! 大人しくついてーーー」

 

いつの間にか身体は勝手に動いていた。

男1人の頬を貫きそうなほどにのめり込んだ木の棒を俺は直ぐに引いた。

腰を低くし疾走、二人目の腹にも強烈な一撃をかました後。

 

「こっち!」

 

彼女の手を引いて路地裏の奥に走った。

 

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