さて、とうとう来てしまった。
来て欲しくなかった大イベント、来ることは想定済みではあったが、来ないでほしいと願わずにはいられなかった最大の危機。
ーーそう、夜が来たのだ。
大げさに言っているかもしれないがこれは正真正銘の大ピンチである。
迷子二人が広い広い路地裏で夜を過ごす。しかも相手は少女、美少女と呼ぶにふさわしい少女なのだ。
白い肌と整った顔立ちに、綺麗な金色の髪、吸い込まれそうなほど透き通った碧色の瞳、男の目を引きつけてしまいそうなほど豊満な胸、その容姿に付いてきたような声。
そんな彼女と共に夜を過ごせと? 残念ながら俺の精神はそこまで強固ではない。
つまり、無理だ。
ならば回避する方法を探し出し、実行するしかない。
ちなみに既に回避する方法は浮かび上がっている、というか目的は変わらない。
無事に路地裏を脱出して別れる。これこそが俺が求め、そして導き出した答えである。
が、ここから抜け出せないのではどうしようもない。
本当に迷宮みたいな構造のここはまるで俺たちを逃しはしないと言わんばかりに抜け道を見つけさしてはくれない。その証拠に来た道を戻ってもなお一層わからないところまで来てしまった俺たちは本当に迷子という事実を叩きつけられている。
本当にピンチだ。
「レイアさん」
「レイアでいいですよ?」
「レイアさ」
「レイアで構いません」
「……レイア」
「はい、 なんでしょう?」
割と押しが強かったレイアに溜息を吐きつつ、俺は続きを言った。
「大丈夫?」
「一応大丈夫です。少し肌寒いくらいですから」
確かに今日は少し寒い。この国は温暖気候にあるためそれなりに珍しい事ではあるが、流石にタイミングが良すぎる。
さて、どうする俺? 流石にこれ以上こんな所で遭難しているわけにもいかないぞ。
「最悪野宿になりかねないぞこれ」
「……野宿、ですか?」
「ここからでれない、かつ夜はもう来てしまった。寝床もない以上そうなってしまう」
「そ、そんな! 男女二人で共に夜を過ごすなんて!」
そう、そこが本当に問題なのである。
どうするか、朝になるまで探しても見つかる気配もない以上、打つ手なしだ。
「街の外側に向かって走るか?」
「何故外側なのですか?」
「外側に行けば国を守るための巨壁があるでしょ? あれに沿って歩けばいずれか国の入り口につくはず。そこからまっすぐ行けば……」
「城が見える、ということですね」
まあ俺の場合出入り口が見えた時点で勝ちなのだが。
肝心はこの路地裏がそう簡単に巨壁まで連れて行ってくれるか、だ。
正直この路地裏にはもう一つ魔法がかけられている気がする。
じゃなきゃこんなに迷うわけがない。東にでも進んでいればいずれか路地裏を抜けれるはずなのに、抜けれない。更に路地裏に入ってから人が見つけられない。
ここまで来て偶然というのは可笑しすぎる。
さっき彼女が言っていて点にしても、王城を見つけれなくした所で抜けてしまえばすぐ見えてしまう筈だ。
ならばここで浮上する答えは一つ。
この路地裏、二つ魔法を掛けられている、となるわけだ。
だがもし俺の予想が当たっているのならば最早ここから出る手段はないという事になる。
ここで生活なんて出来るわけもないし、あるのは餓死している未来ぐらいか。
ばっかだなあ俺、街の構造を知らずに走り回るからこうなるんだ。
「行こう、もたもたしてられない」
「そうですね」
さて巨壁まで歩き続けること実に一時間ぐらい。
俺たちは、歩くことを止めていた。
別に諦めたというわけではない。今の時間は推定11時、流石にこれ以上探索するのは危険な気がするので一先ず寝ようとなったのだ。
「俺が変な方向に走ったせいで……」
「大丈夫です、気にしてませんから」
微笑みながらそう言ってくれ彼女にありがとうと返しながら俺は無人の家の壁にもたれかかった。
俺に続いて彼女も俺の横に座って、背を壁に預け、俺と彼女の間には沈黙が流れ始めた。
静かな夜、いつもと変わらないはずの夜が、少し違う気がする。
「カイはいつも夜を見ながら?」
「まあ大体は」
「……一人で見る月は、どのような物ですか?」
「へ?」
彼女が上を指差すものだからそれに釣られ上を見た俺は唖然としてしまった。
夜はこれほどまでに綺麗に映っただろうか。
夜空を照らす三日月、空に散りばめられた星々たちは星座となって空にアートを描く。
何故だろう、記憶の中にある夜は寂しく感じるのに、今はなぜか。
「あなたの運命全書はきっと酷いものなのでしょう。神は時として気まぐれで人の運命を変えます。けれど人間は」
俺の手に自らの手を重ね、彼女は述べた。
「一人では生きてはいけません。私たちが幸福を感じるのも、誰かがいるから、誰かが支えてくれるからです。私たちはすがらないと生きていけません。すがっていた支えがなくなれば私達は地に這いつくばることでしょう。私達は弱く醜い、神もそれに嫌気をさして運命全書を送ったのでしょう。なのに私達の最大の支えさえも、貴方を否定している」
重ねられた手はやがて人の温もりを与える為に絡められ、彼女の真剣な眼差しは俺に向けられ。
「貴方の支えは、私では不足ですか?」
「君は何を……」
「人を正すための運命全書があなたを否定するならば、私はそれを肯定します。貴方の支えに、私はなりたい」
決して嘘ではないと、彼女の瞳が俺に訴えかける。
あって1日も立ってない人間に、彼女はなんて言った?
支え、俺のそばにいるといったのか? そんなこと許されるはずがない。
それを許せば彼女は反逆者になる。誰であろうとそんな事は許されない。
でもなんで、俺はそれを否定できない?
「なんで……」
自問自答するが答えは返ってこない。だってこれは俺自身の問題なのだから。
「……私は何を言っているのですか……?……ってわあああああああああ!?」
なんかシリアスがぶっ壊れなきがする。
けれどまあ。
「私はなんて事を!? 初めて会って数時間しか共にいない人にこんな事……っ、カイ! さっきの事は、そ、その!」
「ええっと、よろしく?」
「は、はい!」
これも、彼女の運命に描かれた未来だったのだろうか。
妙におかしな未来、空白者に自ら友達になろうなんていう運命はそうそうないと思うけれど。
今回だけは、笑ってもいいのだろう。
夜、彼女彼が二人仲良く寝ている時だ。
コツン、コツン、靴の音を夜の空に響かせる人影がゆっくりと近づく。
確実に、ゆっくりと近づいたそれは何かを嘲笑うように唇を吊り上げた。
「空白、お前にはこれを」
少年の肩をまくら代わりに寝ている少女を少しのけ、男は少年の首に何かを付けた。
首に下げられたチェーンにぶら下がる漆黒の鍵、男はそれを見てまた笑う。
「鍵はやった。後はお前次第だ」