私だって分かっている。
それでも……それでも、
私の
◆
一夏は夢を見ていた。
しかし、その夢は一味違った。赤く燃える荒野、無数に刺さる剣、その丘の上で立つ女性。
傷だらけになろうと、立ち続けるその女性はこちらに顔を向けるが、顔にモザイクがかかったかのように見えなくなっていた。
だけど、その女性は泣いていた。一筋の涙の線は一夏の心を痛ませる。
「はっ」
一夏は慌てて起き上がった。
そしてそれが夢だと分かると、呼吸を整えて平常心を取り戻す。
「あれは……何だったんだ」
今までに見たことのなかった夢に一夏は不安になるが、その夢に出て来た女性に何故か見覚えがあった。
「気にしてもしょうがないか……」
一夏はベッドから降りると、制服に着替えて食堂に向かった。
◇
「ねぇねぇ聞いた? この話」
「二組に転校生が来るんだって! さっき職員室で聞いたって人がいたらしいよ」
朝早くから教室ではその話でいっぱいだった。
入学式から一か月たった今、このIS学園に転入すること自体が難しい。
国の推薦がないと、試験自体ができない。
つまり、二組に転校して来る生徒は……。
「なんでも中国の代表候補生らしいですわ」
「セシリアさん」
「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」
「このクラスに転入して来る訳ではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
いつの間にか一夏と箒が来ていた。
と言うよりも、相手が代表候補生となると色々とまずいんだよ。
特に一夏が。
「代表候補生か……どんな奴なんだろうな」
「気になるのか……?」
「え……ああ……まあ少しは」
聞かれたことを素直に答えたら、何故か箒の機嫌は悪くなった。
「今のお前に女子を気にしてる余裕はないぞ! 来月にはクラス対抗戦があるんだからな!」
「そうですわ、一夏さん! 対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう! 相手は専用機持ちのわたくしが、いつでも務めさせて頂きますわ!」
「確かに実戦経験は必要だよな……」
セシリアの言うことには一理合う。他のクラスメイトでは、訓練機の申請と許可、整備に丸一日はかかってしまう。手っ取り早苦模擬戦するならセシリアに頼むのが早い。
「そうそう! 織斑くんは是非勝ってもらわないと!」
「優勝商品は学食のデザートの半年フリーパス券だからね!」
「それも、クラス全員分の!」
「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ~~!」
「お……おう……」
クラスの皆から期待されているけれど、流石に優勝は難しいだろう。
「まあうちには、専用機持ちが二人もいるし」
「楽勝だよ! ね! 織斑くん」
「えっ……ああ……」
やいのやいのと楽しそうな女子一同の買い気概をしぐわけにもいかないので、一夏は誤魔化しつつ返事をする。
「―――その情報……古いよ」
その時、懐かしい声を一夏は聞いた。
教室の前の入り口にその子はいた。
「えっ……」
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には勝てないから」
生徒は少しざわつくが、一夏はそんな事よりも彼女の事で驚いていた。
「お前……」
あの日、故郷に帰ったはずの親友がそこにいたのだ。
「鈴……お前……鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、
中国故郷に帰ったはずの、親友にして幼馴染の彼女の登場に一夏は驚くことしか出来なかった。
そして、同時に嵐の前兆だと言う事は誰も予想していなかったのだ。
◇
鈴がこのクラスに挨拶をしてから、昼休みになった。
食堂の一角の席では……一夏、箒、セシリア、鈴が座っている。。
「鈴、いつこっちに帰って来たんだ? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタこそ男なのにISとか使っちゃって、ニュース見てびっくりしたわ」
鈴はラーメンを置いて、話に区切りを付ける。
まあ、言いたいことは解らなくもない。
「一夏さん! そろそろどういう関係か説明していただきたいですわ!」
「そうだぞ! 付き合ってるなんてことはないだろうな!?」
箒とセシリアが多少棘のある声で聞いてくる。他のクラスメイトも、興味津々と言わんばかりに頷いていた。
「べ……別に付き合ってる訳じゃ」
「そうだぞ。何でそんな話になるんだ? ただの幼馴染だよ」
「幼馴染……?」
怪訝そうな声で聞き返してきたのは箒だった。
「あ~……えっとだな。箒が小四の終わりに引っ越しただろ? 鈴は小五の頭に越してきて、中二の終わりに国に帰ったんだ」
箒と鈴は面識がなくて当然だった。ちょうど入れ違いで引っ越して来たのだから。
「ほら鈴……前に話したろ? 俺の通ってた剣術道場の娘」
「ああ……そう言えば、聞いたわね……。ふーん……そうなんだ……」
鈴はじろじろと箒を見る。箒は箒で負けじと鈴を見返していた。
「初めまして、これからよろしくね!」
「篠ノ之 箒だ。こちらこそよろしくな」
そう言って挨拶を交わす二人の間で、何故か龍と虎が見えた。
「コホン。わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ……。中国代表候補生、凰 鈴音さん」
「……誰?」
「なっ……!」
そりゃあ、そうだよ。
「イギリス代表候補生のこのわたくしまさか、ご存知ないの!?」
「うん。わたし、他の国とか興味ないし」
「なっ、なっ、何ですって……!!」
言葉に詰まりながらも怒りで顔を赤くしていくセシリア。
「い……言っておきますけど! わたくし……あなたのような方には負けませんわ!」
「あっそ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
ふふんと言った調子の鈴。
「そんな事よりねえ、一夏!」
「ん?」
「あんたクラス代表なんだって? ISの操縦、あたしが見てあげてもいいけど? も……勿論。一夏さえ良ければだけどさ……」
鈴は顔を一夏から逸らして、視線だけをこっちに向けて来る。言葉にしても、鈴にしては珍しく歯切れの悪いものだった。
「鈴が? そりゃ助か……」
ダンッ! テーブルが叩かれた。箒とセシリアがその勢いのまま立ち上がる。
「一夏に教えるのは私の役目だ! 頼まれたのは私だからな!!」
「あなたは二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ!!」
「……ふ―――ん……まあいいわ」
鈴はそう言って立ち上がる。
「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてよ! 一夏!!」
一夏の答えも待たずに鈴は片付けて、そのまま学食を出て行った。
「お……おう!」
一夏は思わず、断れず返事を返してしまった。