「ええとね……一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」
「そうなのか? 結構勉強はしたつもりだったんだが……」
シャルルが転校してきてから五日が経った。今日は土曜日。IS学園では土曜の午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。そのため土曜はアリーナが全開放なためほとんどの生徒が実習で使う。それは一夏も同じで、今日もこうしてシャルルと軽く手合せをしてもらった後、IS戦闘に関するレクチャーを受けていた。
「知識として知っているって感じかな? さっき、僕と戦った時も間合いが詰められなかったよね」
「うっ、確かに……『
一夏の周りで教えている人は人類語を喋っていないため、一夏は全く理解できていないのだ。
アーチャーの説明は三人の説明より理解できるので困らなかった。
「じゃあ、今日は僕のを貸すから射撃訓練をしてみよっか」
そう言って一夏に渡してきたのは、さっきまでシャルルが使っていた五五口径アサルトライフル《ヴェント》だった。
「え? 他のやつの装備って使えないんじゃ」
「普通はね。でも、
初めての銃器は妙な重さを感じた。アーチャーの説明で聞いていたより重く感じたのは、初体験の武器のせいで精神的にそう感じたんだろう。
「か、構えはこうだったか?」
「う、うん。そうだよ……」
一夏が銃器を持つのは初めてのはずなのに完全型が出来ていたのだ。
「一夏は銃器を誰に教わった?」
「あーちょっと知り合いにな」
アーチャーの存在を教える訳にはいかないため、一夏は話を誤魔化す。
そう、一夏は一人部屋になった時からシャルルが転校してくるまでの間に、銃器の扱いかたをアーチャーから教わっていたのだ。
護衛を含めての訓練で今ならハンドガン程度までなら一夏も使えるようになっている。
アサルトライフルとかはまで使ったことはないが、持ち方とかは教えてもらっていた。
「マガジン使い切っていいから続けて」
「ああ」
一夏は二発三発と空撃ちをする。初めての衝撃を身体に感じながら、一夏は銃の特性を覚える。
「ふう……やっぱり刀とは感覚が違うな……」
「練習あるのみだよ、一夏」
その時だった。
急にアリーナ内がざわつき始めて来たのだ。
一夏は注目の的に視線を移す。
「……………」
そこにいたのはもう一人の転校生、漆黒のISを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「おい……」
ISの
「! ……なんだよ」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い―――私と戦え」
「……嫌だ。理由がねえよ」
「貴様になくても私にはある」
ドイツ、織斑千冬、と来たら一夏の中では一つしかなかった。第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦でのことだった。
「……貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから私は……私は……貴様の存在を認めない」
一夏はあの日のことはよく覚えている。
弟の為に決勝戦を捨て、助けに来てくれた姉。そして、アーチャーとの出会い。
始めて自分の無力さを感じたあの日を。
だが、それはそれ。これはこれ。一夏とラウラが戦う理由にはならない。少なくとも一夏はやる気はない。
「また今度な……トーナメントだってあるだろう」
「逃げる気か……ならば」
言うが早いか、ラウラのその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。
「戦わざるを得ないようにしてやる!!」
刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。
ゴガギンッ!
「……こんな密集空間で戦おうとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね」
横合いから割り込んできたシャルルがシールドで実弾を弾く。
「貴様……フランスの
「量産型の目処がたたない
お互いに涼しい顔をした睨み合いが続く。
『そこの生徒! 何をしている!?』
突然アリーナにスピーカーから声が響く。騒ぎを聞きつけてやってきた担当の教師だろう。
「ふん……運がいいな。今日は引こう」
横やりを二度も入れられ興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートと去っていく。
「一夏……大丈夫?」
「ああ……」
◇
「は~終わった終わった~」
アリーナを出る時、一夏は山田先生に呼び止められ、白式の正式な登録に関する書類に名前を書くため職員室に行っていた。
書類の枚数は多かったが、意外と簡単に終わる。
「何故ですか……何故こんな所で教師など!?」
「ん? この声って……」
ふと先の方から声が聞こえる。一夏はその声に聞き覚えがあった。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。……それだけのことだ」
「このような極東の地で何の役目があると言うのですか!!」
あの氷の転校生で有名なラウラ・ボーデヴィッヒがこうまで声を荒げにいるというのは他にないだろう。話の内容はどうやら織斑千冬の現在の仕事についての不満や思いの丈をラウラがぶつけているようだった。
「お願いです、教官! 我がドイツで再びご指導を……ここではあなたの能力は半分も生かせません!」
「ほう」
「この学園の生徒たちはISをファッションか何かと勘違いしている。そのような者たちに教官が時間を割かれるなど……」
「そこまでにしておけよ小娘」
「っ……!!」
凄味のある千冬の声にさすがのラウラも、その声に含まれる覇気にすくんでしまった。言葉は切れたまま、続きが出てこない。
「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間を気取りとは恐れ入る」
「わっ……わたしは……」
その声が震えていた。恐怖。圧倒的な力の前に感じる恐怖と、かけがえのない相手に嫌われるという恐怖。
「話は終わりだ。さっさと寮に戻れ」
「……………」
ラウラは黙ったまま早足で去って行った。
「さて……そこの男子、盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」
「な、なんでそうなるんだよ! 千冬ね……」
ばしーん!
「学校では織斑先生と呼べ」
「は、はい……」
一夏はその場から立ち去ろうとした時だった。
「……お前に銃器を教えたやつは誰だ?」
千冬がふと一夏に問いかけたのだ。
「シャルルだが?」
「いや……その前だ。デュノアより前に教えてもらった人物がいるはずだろ? いくらなんでも一回で銃の構え方が出来るはずがない」
千冬は一夏の異常性に気付いていた。
一般人が銃の構え方など知るはずがない。
知っていたとして、代表候補生が補足をたすぐらいのことはあるはずなのだが、一夏はそれすら全くいらないぐらい完璧にこなしていたのだ。
「……たまたまじゃないか?」
「……そうか。ならいい」
一夏はあえて知らないフリをする。
千冬もこれ以上言っても意味がないと話を止めて、立ち去った。
「……………」
一夏もその場から立ち去ろうとするが……
「初めまして……織斑一夏くん♪」
水色の髪の女子生徒が扇子で口元を隠しながら待っていた。