楯無と同盟を結んだ一夏は生徒会室を後にし、寮に戻ってきた。
「シャルル。ただいまー……あれ?」
と思ったが、すぐにシャワールームから響く水音に気付く。
「ああ。シャワーか。そういえば、ボディーソープが切れてたような……困っているかもしれないし、届けてやるか」
シャルルが前に言っていたことを思い出して、クローゼットから予備のボディーソープを取り出す。一夏は今日もてっきり自分が先に使うものだと思っていたので、補充をしていなかった。
「おーい、シャルル」
ちょうど一夏が入って来るのと同時に、シャワールームのドアが開いた。
「あ……」
「へっ……!?」
シャワールームから出てきたのは、見たことのない『女子』だった。
「いっ……いっ……いち……か……?」
「え? えっ……まさか、シャルル……!?」
その時だった。
シャルルの前から鎖の付いた杭が一夏目掛けて飛んできたのだ。
同時に一夏の前で金属同士がぶつかり合う音が響く。
「アーチャー!? ってそうじゃねぇ。今のって……」
間一髪、アーチャーが現界して杭を双剣で弾く。
弾かれた杭に一夏は見覚えがあった。
先程あったサーヴァントの襲撃に使われた杭だったのだ。
「ライダー! ストップ!!」
シャルルの前には、眼帯に黒を基調としたボディコン服を纏い、鎖のついた杭のような短剣を持った女性。つい先程、一夏を襲ったサーヴァントがいたのだ。
ライダーはシャルルの言葉に従い、警戒だけはやめず、その場にとどまる。
「アーチャーもストップだ!」
一夏もアーチャーが三枚に下ろすぞ、と言う雰囲気を出しているので、止めさせるがライダー同様の警戒だけは解かなかった。
結局、ライダーとアーチャーは二人の言葉に従うが、未だに睨み合っている。
シャルルがまだ裸と言うことに気付いた一夏は脱衣場を出た。
◇
「……………」
「……………」
かれこれ一時間。一夏とシャルルと思われる女子は、椅子に腰を掛けて向き合い、無言の時を過ぎしていた。その横で今にも襲いかかってきそな爆弾を抱えて。
「(気まずい……)」
らちがあかないので一夏から声をかける。
「とりあえず、お茶でも飲むか? 淹れるよ」
「あ……うん」
一夏はお茶を淹れようと席を立つが、二人の前にお茶が置かれた。アーチャーが先にお茶を淹れてくれたようだ。
だけど、シャルルのお茶は一夏のお茶に比べて、温度が違い過ぎていた。
ぐつぐつと音を立てているお茶。完全に飲める温度ではない。
「ライダー、止めてっ!」
「アーチャーもだぁ!」
アーチャーのいじめにカチンときたライダーはアーチャーとぶつかった。
部屋内で金属音が響き、二人はそれを止めさせる。
再び二人の横に立つライダーとアーチャー。
「それで……なんで男のフリなんてしてたんだ?」
「うん……それはね……デュノア社の社長……その人から直々の命令なんだ」
「(その人?)」
一夏はどうにも妙な違和感を感じていた。特に実家の話をし始めてから、シャルルの顔は徐々に曇りだしていった。
「命令って……親だろう? なんでそんな―――」
「僕はね……一夏。愛人の子なんだよ」
「愛人……」
一夏は絶句してしまった。
「二年前に母が他界した時に、初めて父のことを知ったんだ。僕の母が魔術師だったこととIS適正が高いとわかって、非公式だけど社のテストパイロットをやることになってね。」
シャルルは、おそらく言いたくはないだろう話をそれでも健気に喋ってくれた。
「……とはいえ、父に会ったのは2回ぐらい……最初は本邸に呼ばれた時……あの時はひどかったなぁ。いきなり本妻の人に殴られたよ。『この泥棒猫の娘が!』って……参るよね……」
「……………」
あははと、と愛想笑いを繋げるシャルルだったが、その声は乾いていてちっとも笑っていなかった。一夏も、さすがに愛想笑いは返せなかった。
「それから少し経って……デュノア社は経営危機に陥ったの」
「え? デュノア社って、量産機ISのシェアが第三位だろ?」
「結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発はすごくお金がかかるんだ……殆どの企業は国からの支援で成り立っている」
一夏は第三世代型の開発に関して、セシリアがいくつか言っていたことを思い出す。
ISは現在第三世代型が主流だったため、第二世代型しか作れないフランスは『イグニッション・プラン』から除名されてしまったのだ。
そのため、フランスは第三世代型の開発は急務だった訳だが、圧倒的にデータも時間も不足していたため、形にすることができなかった。
そこで、フランスが最後の手に出たのだ。
シャルルの転校。
男装させたシャルルをIS学園に転校させることで、人目を引く広告塔と第三世代型のISデータの入手させようとしたのだ。
「何となくそれはわかった。だが……」
「ライダーのことでしょ……これは保険なの、聖杯戦争の勝者に与えられる聖杯を手に入れるために」
「……っ。だからと言って、一般人に手を出すのは……」
「僕が
一夏はそこで疑問が生まれた。
シャルルはライダーを従えているのに、「マスターなら」と言ったのだ。
「どう言うことだ? シャルルがマスターではないのか?」
「本妻もね実は魔術師の家系だったんだよ……でもね。魔術師にとって、致命的なことがあったんだ。あの人は魔術回路を持っていなかったの。だから、魔術回路を持っている僕がライダーを召喚し、令呪をあの人に渡した……」
つまり、シャルルは本来のマスターなのだが、令呪をを本妻に奪われしまった。
そして、会社のため……聖杯戦争のためにシャルルを利用したのだ。
「じゃあ、この件は本妻の指示と言うことなのか?」
「そうだ」
ライダーの回答に、一夏は怒りを抑えられなかった。
「ふざけるなぁ!! 何が親の命令だ! 確かに親がいなけりゃ、子供は生まれない。だからって、親が子供になにしても言い訳じゃないどろう! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ! 親なんかに邪魔されるいわれなんてないはずだ!!」
「一夏……どうしたのそんな……」
「俺は―――俺と千冬姉は両親に捨てられたんだ」
「え……」
「俺にとっては家族は千冬姉だけだ。だからもし……親が現れて、同じように命令されたら、絶対許せないと思う……」
「……うん……そうだね……一夏の言う通りだよ。でも……僕にはなにも……」
「特記事項第21。本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織団体に帰属しない」
「えっ……」
つまり、シャルルにはこの学園にいる限り、大丈夫だということだった。
なら、その間に何か解決策を見つけるだけの時間が与えられたのだ。
「ここにいろよ、シャルル」
「一夏……」
シャルルは本当の笑顔を一夏に見せる。
一夏もそれを見て、ほっとした。
「マスターもお人よしなのですから……」
「仕方ないだろ。それが俺なんだから……」
アーチャーは一夏の後ろに立っており、先程まで出していた殺気が嘘のようになかった。
同じくライダーもシャルルの傍におり、殺気を感じられない。
「私はそんなあなたが好きなんですよ……一夏くん」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ」
アーチャーが何か言っていたようだが、一夏の耳には届いていなかったようだ。
今日は色々なことが起こりすぎた。肉体的にも精神的にも披露が溜まっていたのか、一夏は布団の中ですぐに眠りに落ちていった。