「~♪」
「ねぇ、お母さん。なんでそんなにもごきげんなの?」
少年と女性は夕日を背後に買い物かごを片手に持ちながらもう片方の手を少年の手を繋いで我が家を目指していた。
「とてもいいことがあったからよ」
「ふぅん~」
母親はそんな少年を見て、「そうだ」と身に着けていたペンダントを少年の首にかけた。
「おまじないを教えてあげる」
「おまじない?」
母親は少年の高さに合わせて腰を低くし、おまじないを教える。
「本当に困った時に唱えるとヒーローが現れてくれるおまじないさ」
「ふぅん~」
少年には少し難しかったようで、あんまり理解していないのか、母親の言葉を聞きながら少年はペンダントをいじる。
ペンダントの中には何も入っておらず、何かの魔法陣のような模様が一つ刻まれているだけ。
「さあ、帰りましょうか」
「うん!」
本当にどこでもいる母親と少年。
だけど、少年が母親を見たのはこの日が最後だった。
◇
「あ……」
少年は昔のことを見ていた。
母親と一緒に帰ったあの道での出来事を。
「ここは……いて」
少年は後部から痛みを感じ、腕を動かそうとするが動かない。
両腕、両足を縛られ、身動き一つ取れない状態だった。
「そうだ……俺はあの時」
何故こんな状態になったのかを思い出す。
(誘拐されたんだった)
少年は姉の試合を見るために、海外に来ていた。
試合会場まで距離があり、向かっている途中で黒いワゴン車から含めんを被った男達が少年を誘拐されたのだった。
そして、今にいたる。
(なんとかして、ここから逃げなくちゃな)
少年は何とか脱出を試みるが、出来なかった。
そんな時だった。いつも身に着けていたペンダントが目に入る。
『本当に困った時に唱えるとヒーローが現れてくれるおまじないさ』
あの時、母が言っていたことを思い出し、少年は半信半疑で唱えた。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
少年が詠唱を終えるとペンダントが輝き、一人の女性がその場に現れた。
「問うわ。あなたが私のマスター?」
―――りん、と。
小さく、だが鈴のように通る、風雅漂う声が、その場を支配した。
それが、少年と少女の出会いだった。