ざぁ……。ざぁぁん……。
(あれ? ここは……)
遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、一夏は何処ともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。
足を進めるたび、さく、さく、と足下の白砂が澄んだ音を立てる。
(……?)
少女は、そこにいた。
波打ち際、わずかにつま先を濡らしながら、その子は躍るように歌う。
そのたびに揺れる白い髪。輝き、眩い程の白色。
それと同じワンピースが、風に撫でられながら時折ふわりと膨らんでは舞う。
「呼んでいる……行かなきゃ」
「呼んでいる? 誰が……」
少女は歌うのを止め、空を見つめたまま動かない。
一夏はなんとなく空を眺めると、空間に大きな穴が空いていた。
「聖杯……」
「え?」
目の前に視線を戻すと、そこには少女の姿はなかった。
すると―――背中に声を投げかけられる。
「―――力を欲しますか?」
女性が立っていた。
その姿は、白く輝く甲冑を身に纏った女性。騎士さながらの格好だった。
大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている。
その顔は目を覆い隠されて、下半分しか見えない。
「力を欲しますか? 何の為に?」
「ん? んー……誰か知らないけど、難しい事聞くなぁ」
「そうだな……」
「俺は力が欲しい。仲間を……守るために」
「あのような未来が待っていてもか?」
「ああ」
「そう……でしたら、あなたはここで消えてもらいます」
女性は剣を振り抜き、一夏に振り下ろした。
「な!? いきなり何しやがる!!」
一夏は間一髪避けた。
「あなたには生きる価値はない」
女性は大剣の柄を両手握ると一夏に目掛けて、再び襲う。
一夏はそれを避けるが、女性の足蹴りが腹に当たってしまう。
「がっ!」
一夏は血反吐を吐きながら、吹き飛ばされた。
しかし、それでも一夏は立ち上がる。
「こんな所で死ねねえよ……武器だ。戦うための武器がいる」
だが、一夏の周りには何もない。女性の大剣を受け止めることができる物は存在しない。
「アーチャーが持っていたような強い武器が……!」
一夏はアーチャーの戦いがふと……頭の中を過ぎる。
白と黒の双剣……決して忘れる事の出来ない双剣。
「トレース―――オン!」
一夏が何かをしようとしていることに感づいた女性は一気に間を詰める。
「……ああぁぁぁぁぁ!!」
全身が焼ける様な痛みを味わいながら、一夏は想像する。
アーチャーが言っていたことを……最強の自分を。
「うおぉぉぉぉおおお!」
女性の大剣が一夏に届こうとした瞬間だった。
目に留まらぬ速さで女性の剣撃を弾くだけではなく押し返す。
「っ!? それがあなたの選択なんだな」
一夏の手元には白と黒の双剣。アーチャーが使っていた双剣が握られていた。
女性は剣を下げ、再び自身の前に立て、その上に両手を預ける。
「なら……これを」
そう言って、女性は手のひらを返す。女性の手のひらには黄金の杯が出現した。
一夏は恐る恐るそれに触れると……キンッと金属質の音が頭に響く。
「!?」
そしてすぐ、意識に直接流れ込んでくるおびただしい情報の数々。数秒前まで知りもしなかった『宝具』の創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、憑依経験、蓄積年月材質……。
まるで長年熟知したもののように、修練した技術のように、すべてが理解、把握できる。
「な、なんだ……」
すると、いきなり変化が訪れた。
―――空が、世界が、眩いほどの輝きを放ちはじめる。
その真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々に遠くぼやけていく。
「これはあたしのわがままなのは承知かもしれない。あいつを救ってやってくれ……」
「え?」
一夏はその女性を再び見た時、女性は微笑んでいた。